贈与者が死亡したことを条件として受贈者に贈与する契約のことを死因贈与契約といいます。

 

 

契約は当事者双方が合意してなされるものですので,本来,一方当事者が自由に破棄(撤回)することはできないものです。

 

 

しかし,この点,民法554条は死因贈与契約については,その性質に反しない限り,遺贈(遺言)に関する規定を準用するとし,民法1022条は遺贈は遺言の方式に従って撤回することができると定めているので,死因贈与契約についてこの規定が準用されるのか(契約であっても死因贈与契約は贈与者が自由に撤回できるのか)が問題となります。

 

 

(死因贈与)
民法第554条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。

 

民法第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

 

 

この点について,後妻に対して不動産を死因贈与する契約を締結した夫が,その後夫婦関係が不仲となったことから死因贈与契約を取り消したという事案において,最高裁は,遺贈と同様,贈与者の最終意思を尊重するという観点から,死因贈与契約についてはその方式に関する部分を除いて民法1022条が準用され,自由に撤回することができると判断しています(最高裁昭和47年5月25日)。遺言ではないため,撤回の方式は特に問われないことになります。

 

 

このような判例がある一方で,長男に対して遺産全部を死因贈与する旨の契約を締結したが,その条件として長男が他に勤めている期間は一定の金員の贈与を受けるという内容であったところ,その後,遺産の一部を他の遺言に遺贈するという内容の遺言を作成したという事案において,一審,控訴審は,前の遺言とその内容が抵触する別の遺言がある場合は抵触する範囲で前の遺言が撤回されたものとみなすという民法1023条を準用して当該死因贈与契約の一部は撤回されたものと判断しましたが,最高裁は,負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約にやいて受贈者が負担を履行した場合には,贈与契約の締結の動機,負担の価値と贈与財産の価値との相関関係,契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らして,負担の履行状況にもかかわらず負担付死因贈与契約を取り消すことがやむを得ないと認められる特段の事情のない限り,民法1022条,1023条を重用するのは相当ではないとしました(最高裁昭和58年1月24日判決)。

受贈者がすでに定められた一定の負担の履行をしている場合にまで自由に撤回を認めることはできないということになります。

 

 

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。