判例時報2271号で紹介された事例になります(横浜地裁平成26年12月25日)。
本件は,県の公社が運営する介護付き有料老人ホームとの間で入居利用契約を締結していた入居者が死亡し,その後,入居者の自筆証書遺言により全財産の譲渡を受ける者とされていた相続人の一人(本件原告)が,公社に対し,入居金の返還額や受取人等について報告を求めたという訴訟です。
入居者の相続人なのですから,報告しても問題なさそうなものですが,本件では,公社に対し入居金が支払われていたものの,入居者死亡後の受取人は本件原告とは別の者が指定されていたようで,公社はその受取人に対して入居金残金を返金していたようです。そのため,公社は,受取人の個人情報であることなどを盾に報告や説明を拒んだようです。
判決では,入居利用契約は,単なる賃貸借契約ではなく,準委任という性質を併せ持つ契約であり,そうすると,民法645条に基づいて,受任者である公社は,委任者又はその相続人に対して,委任事務に係る経過や結果を報告すべき義務(顛末報告義務)を負うとされました。
そして,本件入居金も単なる賃料というものではなく,委任事務の対価としての性質があるので同条の適用があり,公社は,その金額や残金,受取人などの情報について,権利の遺贈を受けた相続人である本件原告に対し説明すべき義務があるとされました。
返還金受取人の個人情報であり,その者の同意がない以上は開示できないとする公社側の主張については,そのことが顛末報告義務を免れる理由とはならないとされています。
また,契約条項として,入居金を返還したときは一切免責されるという一文がある点について,この条項が顛末報告義務を免じたものとはいえないともされています。
本件は確定しているということです。
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