判例タイムズ1410号で紹介された事例です(東京地裁平成25年7月18日判決)。

 

 

 

本件は、ある依頼人が、亡父の遺産に関する遺留分減殺請求について、弁護士に相談し、遺産の内容や範囲が不明であったことから、まずは調査しましょうということで、弁護士が、不動産の謄本の取得、不動産の簡易査定の取得、調査事務所を通じた預貯金の調査を行い、ある程度調査が進行したところで依頼人と面談したところ、依頼人が弁護士の進め方について非難し始めたため、契約を解除するということになったものの、その後、途中まで進めていた分についての弁護士費用の支払いをめぐってトラブルとなり、弁護士が約300万円の支払いを求めて提訴したというものです。

 

 

 

 

 

 

本件で、委任契約書が作成されていなかったため、依頼人側からは、そもそも契約が成立していないという主張がなされました。日弁連の規則でも、契約書の作成義務は課されているのですが、この点については、裁判所は、弁護士との委任契約はあくまでも口頭でも成立するものであって、書面が取り交わされていないからといつて契約が成立していないとはいえないとしました。日弁連の規則については、弁護士報酬の透明化・合理化と国民の弁護士に対するアクセス障害の除去を趣旨とし、そのためには委任契約書の作成によらなければならないとまでは言えないことや契約書の作成義務の免除についても規定があることなどから、弁護士との委任契約性質(口頭でも成立するということ)を変更するものとまでは言えないとしています。

 

 

 

本件では、弁護士と依頼人との間に、着手金・報酬金を支払うこと、その内容は弁護士会の旧報酬規定によること(弁護士会では以前に報酬基準を定めていた)、その支払時期は遺産等の確認作業が終了した段階とすることなどを内容とする委任契約が成立したとしました。

 

 

 

依頼人側からの、消費者契約法に反する無効のものであるという主張については、弁護士と依頼人との間の契約が消費者契約となり得るとしても本件の上記委任契約の内容は消費者の権利を制限したり一方的に不利な内容を課すものではないから無効とはなりえないこと、契約書を作成しなかったことについては権利濫用であるとの主張についてはそこまでは言えないとして、いずれも退けられています。

 

 

 

では、報酬を請求した弁護士側勝訴かというと、そうではなく、結局、消滅時効が成立しているということで、弁護士からの報酬請求は棄却となっています。

 

 

 

弁護士の報酬については民法に、わざわざ明文規定があります。

 

 民法第172条  弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は、その原因となった事件が終了した時から2年間行使しないときは、消滅する。

 

 

依頼人が弁護士との面談した際に、委任契約は解除され、その時点から報酬請求できたのに提訴した時点では2年の消滅時効期間を経過していたということです。

 

 

本件は控訴があったものの控訴棄却により確定しているということです。

 

 

 

本件で委任契約書を作成しなかったのは、依頼人がむかし、弁護士の父親(こちらも弁護士)に依頼して解決したことがあり、そのこともあり相談を受けたということもあったことから、人間関係に甘えたというところもあったようです。

こういう点は、私も含めて身につまされる弁護士も多いことでしょうから、トラブルを防止するためにも規則通りにきちんと契約書を作らないといけませんね。