労働判例1101号で紹介された事例です(名古屋地裁平成26年2月13日判決、名古屋高裁平成26年7月4日判決)。



 

本件は、大学等を経営する被告が、大学教授である原告に対し、教職員研修の兼務を命じる配転命令を発したところ、原告が従わなかったとして解雇したことについて、配転命令、解雇の有効性が争われたという事案です。

 

 

 

配転命令の有効性については、「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」という東亜ペイント事件の最高裁判例(昭和61年7月14日判決)があり、本件でもこの基準に従って判断されました。

 

 

まず、原告の教授としての地位自体には変更がないことから、判例がいう他職種への配転ではないとされました。

 

 

しかし、本件で、原告が兼務を命じられたのは被告本部の職員に対する研修を行うとの名目の部署でしたが、それまでにその部署に配転させられた職員が実際にさせられていた業務というのは、応接机といすしか置かれていない部屋で、接客マニュアルの書き写し作業とか既に終了したり存在していない授業のプレゼンテーション、タックシールの手書きでの作成といったもので、裁判所からは、その実質は被告の運営方針に批判的な言動を封じ込め、あるいはことさら知識技能の不足をあげつらい、また、あえて無意味で手間のかかる作業に従事させるなどして心理的圧迫、精神的苦痛を与えることを目的として行われていると考えざるを得ないようなものであると指摘されています。

 

 

 

 

また、被告の原告に対する評価としては、非常識かつ独善的な価値判断のもとさまざまな問題行動を起こしたというものであるのに、そのような原告を本部の職員に対する研修をするという部署に配転させるというのは不合理であるとされています。



 

結局、本件配転命令は原告に対する不当な目的をもって行われたものであり無効であるとして、そのような配転命令に従わなかったことを理由とする解雇処分もまた無効であるとされました。



 

本件は一審、控訴審とも同様の判断となっています。

 

 

 

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