公判前整理手続きで恐ろしいのは、証拠の後出しがが原則できないということです。刑訴法316条の2第1項に規定があり、「やむを得ない事由」があるときは認められるとされていますが、実務的な感覚ではかなり厳格に運用されているように思います。


 

刑事訴訟法第316条の32 
公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件については、検察官及び被告人又は弁護人は、第298条第1項の規定にかかわらず、やむを得ない事由によつて公判前整理手続又は期日間整理手続において請求することができなかつたものを除き、当該公判前整理手続又は期日間整理手続が終わつた後には、証拠調べを請求することができない。
○2  前項の規定は、裁判所が、必要と認めるときに、職権で証拠調べをすることを妨げるものではない。



判例タイムズ1404号で紹介された東京高裁平成24年1月30日判決は、覚せい剤使用の事案において、一審が、長時間の職務質問による留め置きを理由として、その時間について虚偽を記載した資料を作成提出して得た強制採尿令状により得られた被告人の尿および鑑定書は違法収集証拠として無罪とし、さらに、検察官が職務質問の開始時間について被告人側の主張を弾劾するために追加で申請した証拠について、公判前整理手続きを経たのちになされたものであり、「やむを得ない事由」もないとして却下したのに対して、高裁が、証拠採用すべきだったとして取り調べたうえで、被告人を逆転有罪としたという事案です。



本件で、公判前整理手続きにおいて、被告人は午前2時30分頃に開始されたと主張していました。

午前2時48分の被告人の携帯電話の発着信履歴には南という人物と通話していた記録がありましたが、この点について被告人側では公判前整理手続でまったく触れていませんでした。



被告人側が、南との通話において「職務質問を受けている」という内容の会話をしたという主張をするようになったのは被告人質問なかにおいて、検察官が通話履歴の写真撮影報告書の提示を受けて受け答えしたときからでした。



結局、この被告人質問での被告人が「南と職務質問を受けていることについて話した」という供述が一つの証拠となって、長時間の留め置きが認定されることになりました。



しかし、検察官が南から事情を聴いたところでは、南は被告人と職務質問についての会話はしていないと述べていたことから、検察官が南の検事調書と証人申請をしたところ、一審は「やむを得ない事由」がないとして却下したというものです。



高裁では、公判前整理手続きで被告人側が南との会話内容について全く主張していなかった以上、検察官がこの点についての立証をしようと考えなかったとしても仕方ないなどという理屈で、一審が南に関する証拠の取調べを却下したのは違法であるとし、高裁で改めて南を取り調べました。



まあ、確かに、被告人はずるいと言えるかもしれません。南と職務質問についての会話をしていなかったということを知っていたのは他ならぬ被告人であり、公判前整理手続きでそのことを言ってしまえば、南に関する不利な証拠を出されてしまって万事休すとなってしまうので、黙っておいて、公判段階でそのような弁解をしたのではないかとも考えられます。被告人(弁護人)の習性として、どうしても、自分の主張を事前に明らかにしておくのを差し控えてしまうということがあります。



もっとも、午前2時30分に職務質問が開始されたという被告人の主張がある以上、職務質問中であるはずの2時48分の南との通話内容について検察官として当然把握しているべきであろうし、この点について事前に証拠調べ請求しておくべきだったとも言えるように思います。




私も経験があるのですが(私は守秘義務があるので回答しませんでしたが)、事件関係者の携帯電話の問題となりそうな部分に履歴があると、通常は、必ず、警察から「どんな内容だったか」という確認の電話があります。日本の警察はそのあたりの詰めは甘くありません。



職質中に通話したという人間がそんな会話はなかったと言っているというのなら、そんなことはとうに固めておいて証拠として出しておくべきだったともいえるが、被告人の方もずるいので、検察官を救ってやった、というような気がしてなりません。





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