労働判例1098号で紹介された事例です(名古屋地裁平成26年4月23日判決)。



本件で,被告は短大などを経営する学校法人,原告はそこに勤めていた准教授でした。




もともと,平成16年に被告から退職勧奨を受けて原告が断ったことから,原告が地位保全の仮処分命令の申立(原告の申立認容)やその後の本訴でも原告の地位確認が認められたものの(平成18年3月に確定),被告は一貫して原告の復職を拒み続け平成16年以来自宅待機を命じ続けているという状況でした。



原告の地位確認請求の本訴が確定してから約5か月後に,原告の長女で被告が設置する中学校に通っていたことがある長女がいじめを苦に自殺するということが起こってしまい,原告は,被告を相手取って損害賠償請求訴訟を提起し,これも原告の勝訴となっていたということです。




しかし,原告は,長女の自殺のショックなどから,不眠症や抑うつ状態が強くなるなどし,その症状が継続していたところ,平成21年2月,被告は,原告に対し,自宅待機命令を解いたうえで,大学での資格支援担当講座の担当を命じ,同年の4月1日からの病気による欠勤と判断するとの通知をしたうえで,被告が出勤しなかったことから,同日以降の賃金の支払を停止したため,原告が未払の賃金等を請求したというのが本件です。




労働契約においては,働かなければ賃金請求権は発生しないのが原則(ノーワークノーペイの原則)ですが,働けない理由が,雇用者側にある場合(例えば,本件のように自宅待機命令をしているとか,または,違法の解雇をされた,或いは,働こうとしているのに会社に入れてもらえないなど)には,労働者はなおその間の賃金を請求できるものとされています。




本件で,被告は,自宅待機命令を解いて原告に対し働くように命じたのに対し,原告はこれに応じなかったわけですが,原告が働かなかったこと(働けなかったこと)について,雇用者である被告に責任があるかどうかが争われました。




裁判所は,次のような理由をもとに,本件の被告による業務命令は無効として,原告の請求を一部認めました。

・被告が原告に命じた資格支援担当口座というのは,現実に担当している者はおらず,準教授である原告が従事する業務として具体性に欠くものであり,真に原告を復職させる意思のもとになされたかどうか疑わしい。

・長期間の自宅待機命令を解いて復職させるというのであれば,その時点での原告の状況を踏まえて復職後の担当業務を検討すべきところ,被告は,原告から郵送されてきた診断書を開封もしないなど,原告の症状や原告が求めている配慮を踏まえたうえで真剣に復職を検討したとは思えない。





本件は確定しているということです。





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