金融・商事判例1450号で紹介された事例です(大阪地裁平成26年4月21日判決)。



土地の再開発に当たって、不動産会社が一帯の土地を買い入れていくという場合に、土地の所有者と連絡がつかないというケースはよくあることです。



このような場合、利害関係人とし家庭裁判所に対し申立てを行い、て不在者財産管理人を選任してもらい、その不在者財産管理人との間で売買契約などを締結するということになります。不在者というのは、あくまでも生存していることを前提として行方知れずとか連絡がつかないという人のことであり、死亡している場合には相続人との間で契約しなければなりませんし、相続人がいない場合には不在者財産管理人ではなく、相続財産管理人を選任してもらうということになります。




本件もそのようなケースだったようで、再開発を行う不動産会社から土地の管理委託等を受けていた会社が申立人となって、土地の所有者として不動産登記されていたAについて、平成22年3月、家庭裁判所に対して不在者財産管理人選任を申し立てたというものです。



管轄の問題で移送などがあり、平成22年9月になって、家庭裁判所の裁判官(家事審判官)はAの不在者財産管理人として甲を選任しました。



そして、平成23年2月には、A所有の土地について、家庭裁判所の許可を得たうえで、代金40万円で、不在者財産管理人と不動産会社との間で売買契約が締結され決済されました。




ところが、後になって、不在者とされたAは、既に約9年も前の平成13年3月には死亡していたことが発覚しました。

そうすると、そもそも不在者財産管理人を選任する余地はなく、Aの相続人又は相続財産管理人との間で売買しなければならなかったということになります。





Aには4人の子(相続人)がおり、相続人たちが、裁判官がもっときちんと調べていれば、Aが既に死亡していたことは分かったはずであり、そうであれば相続財産管理人は選任されず土地が売却されることもなかったとして、国家賠償請求したというのが本件になります。




本件では不在者財産管理人選任の申立てに当たって、Aの住所が分からないという事情が述べられており、その理由として、土地の登記簿に載っていたAの住所についてAの住民票が取れなかったということがあります。これは、住民票は、死亡や引っ越しなどで除かれてから5年経過すると廃棄されてしまうことから、本件でも5年以上前に死亡したAの住民票はもう残っていなかったのです。




申立てに当たっては、Aの住所が分からないということを明らかにするため、当該住所地あてに送った簡易書留が充てどころ不明で戻ってきた資料とか、現地の近隣住民に聞き込みをしたが誰もAのことを知らなかったという資料が付けられていました。

また、家庭裁判所自身も、警察の運転免許本部にAの運転免許証取得の事実を問い合わせたりしていました。





そこまでやってAの住所が分からなかったのだから、裁判官がAについて死亡しているということが分からず、不在者として認めて不在者財産管理人を選任したことについて調査を怠った違法はないとして、本件の相続人らの請求は棄却されました。





ところで、本件で、土地の登記簿には、Aが平成3年に相続によって本人土地を取得したということが記載されていました。そして、既に閉鎖された当該土地の登記簿には、Aの前所有者としてAの夫であるBが載っており、Bの住所として住居表示変更前の住所が記載されていました。相続人の主張や判決文からはっきりしませんが、この住居表示前の住所表示から辿っていけば本籍(住民票上の住所と本籍は別物で、本籍地の役場が管理している除籍謄本は5年で廃棄されるということはありません。住民票は居住している自治体が管理しているものです。)を探ることも可能ではあったようです(Bの住居表示を辿っても本籍まで調べられないのならAの死亡の事実は結局分からなかったということになります)。



しかし、本判決では、そこまでの調査義務はないとされました。




もっとも、この判決が、閉鎖登記簿まで遡って調べる必要はないとしている点についてはなかなか微妙かなとも思います。

現在の土地の登記簿に「相続」と表示されている以上、何か手掛かりはないかと閉鎖謄本まで調べるというのは普通のことですし、その閉鎖謄本自体は簡単に手に入れることもできます。警察の免許センターにまで調査をかけているくらいなら閉鎖謄本程度を調べること(又は申立人に指示して調べさせること)はたやすいことです。弁護士がこんな申立てをしたとしたら戒告程度の懲戒にはなる可能性もあります。




もっとも、本件で裁判所に過失があるとして損害は何なのかということになるとまた難しい話です。売却代金自体が適正なものだとすると、不在者財産管理人が保管していた相当金額を相続人に対して引き渡せば損害自体はないのではないかということにもなりそうです(不在者財産管理人はあくまでも戻ってくるかもしれない不在者のために財産を管理するのが仕事ですので、手に入れた財産をまるまる使ってしまうわけではありません)。かりにその中から相続財産管理人の費用などが差し引かれているとすればその部分は損害ということにはなりそうです。



本件は控訴されているということです。



ちなみに、本件で相続人らは国を訴えたわけですが、そもそも、Aの死亡と同時に相続が発生し、Aの権利である本件土地の所有権は相続人らに移転していたわけですから、不在者財産管理人の選任当時の土地の所有者は相続人らだったのであり、不在者財産管理人が売買契約をしたとしても、買主は有効に所有権を取得できないということになりそうです。

そうすると、仮に、相続人らが土地の買主に対して無効な移転登記の抹消請求などを求めた場合、長期間にわたって亡くなったはずのAの登記のまま放置していた相続人らの帰責性が認められるのかとか、買主が閉鎖登記簿まで調べてAの死亡(真実の権利者である相続人らの存在)に気付くべきであったかという過失の問題といった論点になり得るようにも思いました。




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