判例時報2216号で紹介された事例です(福岡高裁平成25年9月19日決定)。




DV防止法に基づき保護命令が出された場合,命令の内容としては,接近禁止命令と相手方(加害者)が申立人(被害者)と生活していた住所から退去することを命じる退去命令の2種類があります。


 

第10条(DV防止法 以下同じ)

 被害者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫をいう。以下この章において同じ。)を受けた者に限る。以下この章において同じ。)が、配偶者からの身体に対する暴力を受けた者である場合にあっては配偶者からの更なる身体に対する暴力(配偶者からの身体に対する暴力を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。第十二条第一項第二号において同じ。)により、配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者である場合にあっては配偶者から受ける身体に対する暴力(配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。同号において同じ。)により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者。以下この条、同項第三号及び第四号並びに第十八条第一項において同じ。)に対し、次の各号に掲げる事項を命ずるものとする。ただし、第二号に掲げる事項については、申立ての時において被害者及び当該配偶者が生活の本拠を共にする場合に限る。

 命令の効力が生じた日から起算して六月間、被害者の住居  
  (当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この
  号において同じ。)その他の場所において被害者の身辺につき 
  まとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場
  所の付近をはいかいしてはならないこと。
 命令の効力が生じた日から起算して二月間、被害者と共に生
  活の本拠としている住居から退去すること及び当該住居の付近
  をはいかいしてはならないこと。



命令は無期限という訳ではなく,期限があり,最大で,接近禁止は6か月間,退去命令は2か月間となっています。

退去命令というのは,主として,着の身着のままで逃げてきた申立人(被害者)が引っ越し等のために住居から物を持ち出したりするためのものなので,2か月あれば通常の場合はこと足りるだろということから設定された期限です。DV防止法制定当初は2週間でしたが,それでは短すぎるということで2か月間に延長されたという経緯があります。



 

第18条  

 第十条第一項第二号の規定による命令が発せられた後に当該発せられた命令の申立ての理由となった身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫と同一の事実を理由とする同号の規定による命令の再度の申立てがあったときは、裁判所は、配偶者と共に生活の本拠としている住居から転居しようとする被害者がその責めに帰することのできない事由により当該発せられた命令の効力が生ずる日から起算して二月を経過する日までに当該住居からの転居を完了することができないことその他の同号の規定による命令を再度発する必要があると認めるべき事情があるときに限り、当該命令を発するものとする。ただし、当該命令を発することにより当該配偶者の生活に特に著しい支障を生ずると認めるときは、当該命令を発しないことができる。



とはいえ,各期限が経過した後であっても,さらに保護命令を得たいという場合もあり,その場合,接近禁止命令の場合には,1回目の申立と同様に再度申し立てることになります。ただ,再度の命令を必要とするかどうかという点については,必要性をよく説明することになります。




退去命令の場合には,上記のように条文が別に設けられており,再度の発令要件が厳しくなっています。法制定当初は再度の申立は認めるられていませんでしたが,平成16年改正において再度の申立も認められるようになりました。



退去命令の再度の発令要件が厳しいのは,退去命令の場合には,命令の内容が相手方(加害者)が住んでいる住居から退去させるという内容であるため,相手方(加害者)の利益も考えなければならないためです。




本件では,妻が夫からの暴力を理由として申し立て,退去命令が発令されましたが,2か月間で引っ越しが出来なかったため,再度の退去命令を申し立てたものですが,一審では,妻は当初の期間内に転居できただろうということで退去命令の発令がされませんでした。




しかし,抗告を受けた高裁では,さらに事情を調べたうえで,妻が躁うつ病を患っており,単身での生活は無理であり,頼れる親族などもおらず,グルーホームへの入居を希望していたものの,保証人が必要など,なかなか転居先を見つけるのもままならない状況であったことなどを勘案して,その責めに帰することのできない事由により転居が完了できなかったものと認めました。




そして,夫については,保護命令に違反するような行動があったことやさらに他所での生活を余儀なくされることになったとしても,その収入や稼働状況,生活状況等に照らして,命令を発することにより当該配偶者の生活に特に著しい支障を生ずるとまではいえないとし,再度,2か月間の退去命令の発令が認められました。



本件では,夫にも妻にも代理人の弁護士が付いているようです。
こういう場合,弁護士同士で話し合って,引越日を決めて,その日だけは,双方の弁護士が立会いの上,加害者には立ち退いておいてもらうとか工夫すればうまくゆくことも多いのですが(私も,退去命令は申し立てたものの,相手方に代理人が付いたことから,そのように処理し,引っ越し完了後に申立は取り下げたということがあります),本件ではなかなか難しかったということなのだと思われます。




本件は確定しているということです。




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