判例時報2179号で紹介された事例です(東京地裁平成24年12月27日判決)。




離婚に当たっての際の財産分与において,オーバーローンの不動産(時価よりもローンの方が上回っている物件)の処理というのは頭を悩ませる問題であり,その物件で生活している一方のために他方が住宅ローンを家賃代わりに負担し続けるという合意をしたり,当該物件を欲しがっている一方当事者が銀行と交渉して住宅ローンや不動産名義を変更してもらったりなど,色々な処理の仕方があります。




ただ,裁判所の財産分与という判断においては,財産分与の対象となるのはプラスの財産のみであるとして,オーバーローン物件については特に財産分与の対象とされないということが多いです。




本件でも,夫婦が,婚姻生活中に,妻も800万円支出したうえで自宅を購入したものの,名義は夫単独名義としており,住宅ローンも夫名義で支払い続けていましたが,オーバーローン物件でした。




夫が家を出て,別居開始となり,妻が夫単独名義の自宅に子どもとともに生活するという状態で,離婚訴訟となりましたが,離婚訴訟において裁判所は,財産分与の対象としてはオーバーローンの自宅については含めず,その他の夫名義の預金についてのみ分与の対象としました。




離婚訴訟の後,夫は,夫の単独名義の自宅に居住している妻に対して,明渡訴訟を提起しました。それが本件です。




本件で,裁判所は,離婚訴訟の財産分与において本件自宅が財産分与の対象とはされていない以上,当該財産は清算未了のままであって,その共有関係については別個に判断されるべきだとしました。




そして,本件自宅は,①妻が婚姻前に貯蓄した財産800万円を出して購入していること,②婚姻後別居開始までの期間に支払われた住宅ローンは夫の給与から支払われていたというものの,同居期間中の夫の給与は夫婦共同で得たものであるから,支払われた住宅ローンの半分は妻が支払ったものとして評価できること,③別居後の住宅ローンについては夫の給与のみから支払われたとはいうものの,本来支払われるべき別居期間中の婚姻費用は月額20万円であったところ本件では月額10万円として定められたのは夫が支払っていた住宅ローンの分を加味して減額していたことが認められる(つまり,妻としては本来自分に支払われるべき婚姻費用を住宅ローンに回していたと評価できるということ)といったことを理由として,本件自宅は名義としては夫単独であるが,妻の持ち分が少なくとも3分の1はあるものと判断されました。




そして,共有物件について,一人の共有者が占有している場合に他の共有者は明渡を求めることができないという判例の立場から,夫の明け渡し請求を棄却したのです。




但し,妻は,共有者である夫に対して使用料は支払わなければならないとして月額10万円の支払いを命じられています。




なお,そうすると,今度は,妻から夫に対する自宅の持分権確認,持分移転登記を求める訴訟ということになるのでしょうか。



実務的には良くあり得る話で,判例時報の解説でも実務上重要な意義を有するとされています。



本件は控訴されています。







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