判例時報2164号で紹介された東京高裁平成24年10月18日の決定です。

 

 

 

子どもの引渡しを求める法的な手段というのはいくつかあります。

①人身保護法に基づく引渡し,②審判前の仮処分に基づき引渡し,③子の引き渡しを命じる審判に基づく引渡しといったものです。

 

 

最高裁の判断枠組みにより,①は,子どもの親権者が,親権者ではない者に対して子どもの引渡しを求める場合に限って用いることができるものとされています。

 

 

 

従って,親権者同士で子どもを取り合う場合には,①ではなく,②③の手段がとられるということになります。②と③は連続している段階的なもので,②はあくまでも仮の処分という位置づけで,本来は③で判断されるべきものという位置づけになります。

②審判前の仮処分に基づき引渡しは単独で申し立てることはできず,必ず,③子の引き渡しを命じる審判とセットでなければならないので,②の判断の後には必ず③の審判がされるということになります。

 

 

 

本件では,夫婦の不仲により,妻が子ども(当時4歳)を連れて実家に帰ってしまったところ,別居から約2か月後,夫が,平穏に子どもを自分の自宅に連れて帰り,その夕方に,「子どもが寝ているので今日は帰させられない」「パパがいいと言っている」と言ったのに対し,妻は「それなら泊まってきていいよ」と応じたということです。

 

 

翌日,夫は,子どもを釣れて妻の実家まで来たが,子どもが「パパがいい」と泣き叫んだため,妻の父は「一,二日面倒を見てやりなさい。」と言ったということです。その際,妻は,「もう子供は帰ってこない」と思い,衣類などを夫に渡したということです。

 

 

 

その後,妻の両親が夫の自宅に来て「子どもを返せ」「戻さない」ということで押し問答になりました。

その際,どういうことなのか今一つよくわかりませんが,裁判所の認定では,子どもと対面した妻は「4年間面倒を見てきたのに子どもが笑顔一つ見せないことに衝撃を受けた」ということになっています。

 

 

 

結局,その後も子どもは夫のもとにとどまって,夫方の両親の助力も得ながら,保育園に通うなどして夫側で養育しているという状況です。

 

 

 

この状況で,妻から子ども引渡しを仮に求めるという②の請求に対して家裁はこれを認めましたが,抗告を受けた高裁は,これを取り消しました。

 

 

 

その理由とするところは,②審判前の保全処分で仮に子ども引き渡しを命じたとして,その後の③審判で判断が覆るとまた逆方向での子どもの引き渡しがされることになり,さらに,離婚訴訟によって子どもの親権をどちらに認めるかによってもはまた子どもの引渡しが行われるということになると,子どもが行ったり来たりということになり,子どものためによくないという考え方です。

 

 

 

そのような考え方に立つと,仮の処分で子どもの引き渡しを命じるためには,現在の子どもの状況が強制的な奪取でなされたものであるとか,虐待が起こっているなど,やむを得ない場合に限られるべきだとしました。

 

 

 

そして,本件では,夫にって強制的に子どもが夫側に奪取されたわけではないし,現在,子どもを夫から引き離さなければならないほど問題がある養育がされているわけでもないとして,家裁の判断を取り消したというものです。