判例時報2144号で紹介された事例です(東京地裁 平成23年7月27日)。
事案はこのようなものでした。
ある会社(A会社 不動産関連のホールディングス会社)がオフィス,社宅として賃貸借契約を締結していましたが,その契約には「差し入れた保証金を放棄することで賃貸借契約を即時解約することができる」という特約が付いていました。
そして,A会社は,賃貸人に対して,合計約4億7000万円の保証金を差し入れていました。
A会社は,破産を申し立てる5日前に,賃貸人に対して賃貸借契約の解除を行いました。
A会社の破産により選任された破産管財人は,A会社が保証金を放棄して賃貸借契約を解除した行為は,破産法160条3項の無償行為であるとして賃貸借契約の解除を否認しました。
これに対して,賃貸人は,そもそもこの賃貸借契約においては賃借人であるA会社が破産の申立てをしたときは通知催告なくして直ちに賃貸借契約を解除でき,その場合には保証金残金を放棄するという合意がされていたのであるから,どのみち,保証金は返還する必要がなかったのだから無償否認には当たらないと反論しました。
この点について,裁判所は,賃借人が破産したことに基づく無催告解除の特約は借地借家法に反する賃借人に不利な規定であるとして無効とした最高裁の判例(昭和43年11月21日)を引用し,そもそも賃貸人はA会社の破産申立を理由として契約解除することはできなかったのであるから,解除できたことを前提とする保証金放棄の反論は理由がないとし,A会社がした保証金を放棄した上での賃貸借契約の解除を無償否認に該当するとして否認しました。
破産管財人によってA会社による賃貸借契約の解除が否認された結果,A会社と賃貸人との間の法律関係は元に戻ることになりますが,破産管財人は破産法53条1項に基づき,破産管財人として賃貸借契約を解除した上で,その場合には,保証金放棄の特約は適用されないと主張しました。
これに対して,裁判所は,保証金放棄の特約は当事者が合意に基づいて解約する場合の特約であって,破産法53条1項により破産管財人が契約解除する場合には適用されないとしました。
また,裁判所は,破産法53条1項は,契約の相手方に契約解除を受忍させても破産財団の維持増殖を図るために破産管財人に契約解除権を与えたもので,もって,破産会社に破産前よりも有利な法的地位を与えたものであると解されるとも指摘しています。
破産法53条1項により破産管財人が契約を解除した場合に,もともとの契約に違約金条項など破産者に不利な特約が付いている場合の特約の効力については,争いがあるところであり,違約金条項について適用されると判断したもの,適用されないと判断したもの,裁判例が分れていますが,本件は保証金放棄条項について適用がないと判断した一事例です。
なお,本件は控訴されています。
■ランキングに参加中です。