成年後見人には,本人がしてしまった行為についての取消権が与えられています。

 

 

 

例えば,在宅で生活しているお年寄りがだまされて悪徳商法の被害にあったしまった場合,後見人がついていれば契約を取り消すことができるというわけです。

 

 

 

ただ,実際のところ,成年後見人として取消権を行使するという例はそれほど多くないのではないかと思います。

 

 

 

残念ながら,既に悪徳商法にあってしまった後に,慌てて成年後見の申立てをするなどして成年後見人がついたケースも多いため,成年後見開始前に本人がした行為についてまでは成年後見人の取消権は及ばないからです。

 

 

 

さて,成年後見人のほかに,成年後見監督人というものがついている場合もあります。

 

 

 

弁護士などの専門職が後見人をする場合監督人までつくということはあまり例がありませんが,親族の後見人などの場合には,財産の額や種類に鑑みて,弁護士などが監督人となっているということがあります。

 

 

 

この場合に,後見人が民法13条1項に規定する行為をしようというときは,後見監督人の同意を得なければならないとされています(民法864条)。

 

 

 

民法13条1項は保佐人の同意権についての規定ですが,本人名義で借金をしたりとか,建物の新築や増改築をしたりするという場合には,後見人は後見監督人の同意を得なければならないことになっています。

また,よくあるのは,例えば,高齢の本人の兄弟姉妹が亡くなり,本人が相続人となったため遺産分割をするなどというケースです(なお,後見人が本人の兄弟姉妹で,後見人自身にも相続人である場合には利益相反となるので,そもそも後見人は本人の代理をすることが出来ず,監督人が本人を代表します。ですので,このケースで,後見監督人の同意が問題となるのは後見人が相続人ではない場合,つまり,本人の子であるなどという場合です。よくあることです。)。

 

 

 

後見監督人になった場合には,故意かどうかは別として,後見人が自分の同意を得ずにこのような行為をしないようによく注意しておかなければなりません。

 

 

 

では,後見人が,後見監督人の同意を得ずに民法13条1項の行為をしてしまった場合はどうなるのでしょうか?

 

 

 

この場合,「被後見人又は後見人が」取り消すことができると規定されています(民法865条1項)。

 

 

 

しかし,これはよく考えてみるとおかしな規定です。

 

 

 

後見人は自ら良いと思って監督人の同意も得ずにそのような行為をしたわけですし,被後見人(本人)はそもそも判断能力が低下しているのですから,いずれに対しても取消権の行使を期待できるとは思えません。

 

 

 

しかし,条文上は後見監督人には取消権は与えられていないので,このようなケースに遭遇し,後見監督人として取消権を行使すべきだと考えた場合には,後見人に対して取消権を行使するよう働きかけるということになります。

 

 

 

それでも,後見人が取消権を行使しないという場合には,後見人としての職務の適正に問題があるということになり,家裁に対して問題を報告し,場合によっては後見監督人として後見人の解任請求するとか,そんな問題にもなりかねないということです。

 

 

 

 

ちなみに,平成12年の民法改正前,準禁治産者の保佐人には同意権は明文で認められていたが,取消権についてははっきりと書かれていなかったので,この点について争いがありました。

 

 

 

有力な考え方としては保佐人にも取消権を認めるということではなかったかと思います。後見監督人についてもそれと似たような感じなのですが,後見監督人に取消権を認めるという説があるのかどうかについてはよく分かりません。

 

 

 

条文のお勉強でした。