成年後見人をしていると、本人に対する居所指定権というものが問題になることがあります。
居所指定権というのは、本人の住む場所を決める権限ということです。
結論からいえば、成年後見人には居所指定権はありません。
民法の建前上、成年後見人には本人の財産に関する権限が与えられるだけであって、どこに住むとかどんな医療行為を受けるとか、或いは婚姻する・離婚するなどといった親族法上の行為については、あくまでも本人の意思にゆだねられているわけです。
ちなみに、未成年後見人には、未成年者に対する居所指定権があります(民法857条・821条)。
しかし、本人の住む場所ということについて、成年後見人として難しい立場に立たされることがあります。
その際に、法的にはない筈の居所指定権ということが問題化する局面が、経験上は主に2つあります。
一つは、親族間で本人の介護方針をめぐって対立するという局面です。
ある親族は在宅が良いといい、ある親族は施設介護が良いといっているとか、或いは、ある親族はAという施設が良いといい、別の親族はBという施設が良いといっていて折り合わないという場合です。
こういう場合、第三者の成年後見人は、双方の対立親族などから責められることになります。
成年後見人としては、収支などの財政的な観点から意見を述べることはできますが、居所指定権がないわけですから、「本人をここに住まわせることに決めました。従ってください」と言える権限はないことになります。
逆に言えば、成年後見人に居所指定権があるということになると、最終的に本人が住む場所を成年後見人が決断して決めなければならないということになり、親族の対立が先鋭化している案件では、実際上、大変つらい立場に立たされることになりますので、居所指定権がないということは成年後見人としての逃げ道といえないこともありません。
成年後見人の居所指定権の問題が顕在化するもう一つの局面としては、本人が強く在宅を望んでいるが、客観的には施設介護が良いのではないかと思われる場面です。
この場合は、成年後見人としては本人とよく話をしたり、説得したりして、施設介護へと誘導することになりますが、本人が「絶対に嫌だ」という場合には居所指定権がないのですから、無理強いすることはできないということになります。
ただ、成年後見人に居所指定権はないということについても、よくよく考えると分らなくなることがあります。
本人が認知症などで意思が表明できないときに、成年後見人が施設と契約して施設に入所させるということはよくあることです。
これは、実際には成年後見人が本人居所を指定しているのと変わらないではないかという評価も可能なわけで、実際の本人の意思はどうなんだというところになるとなかなか悩ましいところです。
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