今年の残暑はきびしいとはいえ、夜になると秋の虫の声が聞こえるようになりました。
今週の京都新聞・朝刊の「あの日あの時」というコーナーに、
(株)安井杢工務店の元副社長・安井清(やすいきよし)様が桂離宮昭和の大修理の
ご苦労話を連載されていて、大変、懐かしく読ませていただいております。
私の家業の銘木屋「松文商店」も、桂離宮昭和の大修理には当初よりかかわらせていただき、
当時をふり返り、いろいろな苦労の思い出があります。
私が家業に入ってすぐの頃、昭和60年~61年頃でしょうか、桂離宮の書院群の修理は既に完了し、
庭に点在する茶室や待合いの解体修理が行われていました。
桂離宮の庭園に松琴亭という茅葺きの茶室がありまして、その茶室の土庇(どびさし)の桁には
長さ10メートル、太さ元口27cmという見事なアベマキの皮付丸太が使ってあるのです。
しかし、そのアベマキは永年の風雨によって朽ち果て、皮はボロボロ、中身は虫に喰われて、
唯一の方法として新材に取り替えるしか選択の余地はありませんでした。
そこで、安井杢工務店様から弊社にアベマキの注文というか、松琴亭と同じ形状のアベマキの
探索依頼があり、とにかくそんなものがあるかどうか、全国の山を調べることになりました。
アペマキとはドングリのできるブナ科の落葉樹で、一見クヌギによく似ていますが、
表皮のコルク層が厚く、別名コルククヌギとも呼ばれ、皮がゴツゴツしていて、
なんとも独特の侘びた趣があり、ましてや桂離宮は国の重要文化財であるため
何か他のもので代用することなど考えられませんでした。
京都林業試験場の岩水豊先生に問い合わせ、いろいろ調べていただき、教えていただいた結果、
そんな長くてまっすぐなアベマキは西日本では広島県の東部の中国山地にしかないことがわかり、
早速、福山営林署のお世話になり、私と私の叔父である当時の弊社常務・吉村龍三と
山仕事50年の職人・吉田晴吉さんの三人は広島に飛んだのでした。
中国自動車道・東城インターで降り、営林署の職員さんの案内で、下道と林道を車で走ること、およそ2時間、
更に、地下足袋に履き替え、急な山道をどこをどう歩いているのやら・・・・・・心身ともに疲れ切っていました。
すると、次の瞬間、全員の呼吸が止まったのです。
そこには、まさに目を見張らんばかりの幹の長さは10メートルをゆうに超え、元口約27㎝の
ほぼ通直のアベマキの木が屹立していたのです。
「ああ・・・!! これや~!!!・・・・・・」叔父と吉田さんと私は思わず涙をこらえ唸りました。
今となっては懐かしい思い出となりましたが、あの時の感動は忘れられません。
弊社が歴史に残る桂離宮昭和の大修理にかかわれたことは、この上ない誇りです。