「アーティスト宣言」は悪手であったとの評価がいまでは定着している。(※1)
『マブ論』のライムスター宇多丸と吉田豪の対談でも、東京女子流の完成度の高さを、時代的にすこしタイミングが早かったのかもしれないと憂いながら、こう話している。(※2)
宇多丸「──これは彼女たちに限った話ではないですが、宣言してそこから脱するっていう態度そのものが、一番悪い意味で『アイドルっぽい』とも思いますが」
吉田豪「──そうそう、昔から本田美奈子しかり、菊池桃子のラ・ムーしかり」
宇多丸「──ラ・ムーから学んでいないのか!……いや、ラ・ムーも曲はいいんですよ!」
いまとなっては本田美奈子の歌唱力に敬意を抱かない人はいない。ラ・ムーだって音楽的にかなり面白い挑戦をしている。そして菊池桃子は80年代が生み出したアイドルのなかで、さまざまな困難を乗り越え、学者となり、時の総理大臣にまっとうな提言をした唯一無二の存在である。
アイドルのセカンドキャリア問題がとりざたされるとき、菊池桃子は、山口百恵、松田聖子に次ぐ、第三のロールモデルとして輝きを放っている。
われわれは、いつだってあとから、大切なことに気づく。
東京女子流がなぜ、「アーティスト宣言」をしたのか考えてみたい。もし、お時間があるならば、「アーティスト宣言」とされるネット配信のなかで、なにが語られたのかじっさいに見ていただきたいと思う。(──が、2019年11月現在、下記のUSTアーカイブは失われてしまった)
※リンク消失『アーティスト東京女子流 宣言へ(2015.1.5 TGS UST.TV)』
(──僕がこの下書きを書いたのは2018年の末頃と思われ、そのときまでは存在していた。誰かが意図的に消したというわけではなく、おそらくUstreamの業績悪化、買収整理にともなう影響だろう。これも貴重な歴史だと思うのだが、残念だ。幸い、個人の方のブログ「東京女子流アーティスト宣言(素人テープ起こし) | カピバラ日和」に書き起こしが残されているので、お時間がありましたら、ぜひ御覧ください。煩雑な書き方になりもうしわけありません)
この「アーティスト東京女子流 宣言へ」と題された60分を超える配信のなかで、佐竹義康プロジェクト・ディレクターは、とても穏やかに、ユーモアをまじえながら、しかし慎重に、これまでと、これからの東京女子流について話している。
この動画を見て、佐竹氏や東京女子流を不愉快に感じる人はあまりいないと思う。ただ、ニュース・トピックとして現れたときの「アーティスト宣言」という字面は、かなり刺激が強い。
佐竹氏も一ヶ月後のインタビューでこんなふうに話している。(※3)
「──実際に言ってる中身はそこまで大々的なことではなく、むしろ女子流がこれから向かう未来のための、戦略的な区切りつけをわざわざ『アーティスト宣言』という大それた名前を付けて説明しただけですからね。別に、アーティストになるという宣言をしなきゃ! というわけではなくて、戦略を説明するにあたってちょっと刺激的な言葉を選んだだけでして(笑)」
「──いちばんザワザワしていただいたのは、東京女子流を知ってはいるものの、そこまで興味がない方々のような気がします……」
ただ、そうは言うものの、熱心なファンも、はたしてこれから曲中にコールをしても良いものだろうか、と戸惑わせたようだし、ファンとまでいかなくても、彼女たちのパフォーマンスに好感を持っていた人たちが、ニュースの字面だけを見て、「ちょっと、おごっているのではないか」「アイドルを低く見ているのではないか」と反感を覚えたであろうことも容易に想像できる。
佐竹氏は配信のなかで、「──アイドル現場には熱い応援をしてくれるファンがいるので、その力で東京女子流の楽曲もひろめてもらった、アイドルシーンはすばらしい」(配信45:30) とも言っているのだが、なかなかそういった誠実さやディテールは読みとってもらえず、刺激的なことばだけが流布してしまい、イメージがつくられていく。
それでも、配信のなかで佐竹氏の語った、
「──昨今、アイドルに注目が集まる中で、『アイドル』の呼び方が、その人にとっての『アイドル』という敬称ではなく、『ジャンルとしてのアイドル』という呼び名の方が強くなってきたと思います」
という現状認識や、インタビューで話している、
「──CD売り上げの数字を増やすための、事前販売での握手会といった積み上げ施策は止めようと考えています。つまりは、数か月後に控えるまだ見ぬ握手会のために、今のCDを買ってもらうというパターンは止めます。でも、発売記念のリリースイベントをオープンペースで開催する時には、何らかの形で交流の場を設けようとは考えています」(※3)
というシンプルなリリースイベントへの考え方などを見ていると、東方神起との仕事の経験から、自らの手でつくりあげるアーティストとして、東京女子流のプロジェクトを立ち上げた佐竹氏なりの理想像が垣間見えるような気がする。
そのうえで疑問に思うのは、刺激的なことばを使えば、それが独り歩きして、反発を招くことはじゅうぶんに予想できたはずで、それでもあえてやったのは、ほんとうにスタッフのクリエイティブやプロモーションへの姿勢の説明、女子流メンバーへの演者としての意識づけ〈だけ〉が理由なのだろうか。それにしてはリスクが高すぎるように思える。
あまり憶測にもとづいた深読みをするのは好きではないのだけれど、勝手な推測だとことわったうえで、二つくらい、語られてはいない事情もあるのではと考えてみる。
ひとつは、佐竹氏は会社員であるということだ。
これまでの売上や目標達成率を会社に報告しながら、じゃあ、これからの一年はどう展開させるんだ、半年間のロードマップはどうなっているんだ、と彼の上司や属する部局と折衝しなければならない。とうぜん、企画書も書いて提出しなければならないだろう。
会社によってそういった基準や気風はまったくちがうので、エイベックスがどのくらいの精度のものを求めるのか、まったくわからない。しかし、そういったやりとりのなかで、「アーティスト宣言」という手法が浮かび上がってきた可能性はじゅうぶんにある。
エイベックスには「iDOL Street」というアイドル専門のレーベルもある。
その第一弾グループ「SUPER☆GiRLS」は東京女子流と同じ2010年に立ち上げられ、第四弾グループ「わーすた」が活動をはじめたのが2015年だ。
わーすたは5人組で、主にツインボーカルで歌唱し、ダンスのスキルも高い。東京女子流とは楽曲もヴィジュアルもまったく違うが(ただ、女子流も猫耳をつけていたことがあったけれど…)、会社組織のどこかで誰かが、「iDOL Street」との棲み分けをどうするんだ、と言いだしても不思議ではない。
そして、エイベックスは「アイドル冬の時代」といわれる90年代に、若い女性歌手を「アーティスト」として売り出し、成功した企業である。
過去の成功体験は人も組織も縛りつける。高度成長期のビジネスモデルから抜け出せず、バブル崩壊後に苦しみ、潰えていく企業をわれわれは散々見てきた。
音楽業界のバブル崩壊は他の業界より10年遅れたといわれる。CDの売上がピークだったのは1998年である。(浜崎あゆみがデビューした年だ)
佐竹氏も配信のなかで、CDが売れない時代に、どのようにアプローチしていくのかという苦悩を吐露していた。
「アーティスト宣言」を誰が必要とし、誰が提案したのか、組織のなかのことは外からはわからない。ただ、2015年から2018年の間に、エイベックス内での組織改編や、大きな人事異動があったことは確かなようで、その戸惑いはiDOL Streetの責任者であった樋口プロデューサーの口からも漏れていた。
佐竹氏も結果的に一時期、東京女子流のプロジェクトから離れていたようだ。(※4)
(2015年から2018年の初頭というのは、青山のエイベックス本社の建て替え期間と同じだ)
東京女子流は「アーティスト宣言」によって、アイドルフェスへの出演を辞退し、アイドル専門誌への露出も控えることになる。そして「おんなじキモチ」と「頑張って いつだって 信じてる」の二曲を、カワイイ(アイドル的な)楽曲の象徴として封印する。
「頑張っていつだって信じてる」は僕自身がはじめて東京女子流を見かけて、「小さな女の子たちがポンポンを持って歌っているな」と感じたように、まだ幼かった彼女たちの魅力がつまっている楽曲だ。
「おんなじキモチ」は、可愛らしくシンプルな振りつけが、誰でも簡単に踊れることから、フェスなどでの一体感を演出することができ、東京女子流をこえて、アイドル界のアンセムともいわれるようになっていた楽曲だった。
配信で、この二曲の封印について問われた庄司芽生は、こう答えている。
「──いろんなイベントでたくさん、たぶん一番歌わせて頂いていた曲なので、今後、どうやってライブを盛り上げようかとメンバーでも考えているんですけど、こんかい区切りというか、切り替えをするってことで、もっと成長したときに、あらためてやれば見え方も変わってくると思うんですよ。いまは、やらない期間がありますけど、こんど、わたしたちがもっと成長したときに、あらためて歌って、曲の良さ、また違った良さを見せていけたらいいなと、思います」
われわれは、このあとの彼女たちを知っている。ひとつはっきり言えることは、庄司芽生はこのことばを忘れてはいなかった。
──「アイドルとアーティストのはざまで【4】もうひとつの理由」につづく
(※1)【悪手】あくしゅ
「碁・将棋などで、自分自身を不利にするような悪い手」
*「アーティスト宣言」はアイドルとアーティストをめぐる状況や視点にさまざまな議論を喚起した、そのなかで下記の、
[Article] TOKYO GIRLS’ STYLE’s Artist Declaration: The Difference Between “Idol” and “Artist” in Japanese Music Culture | Japanese kawaii idol music culture news | Tokyo Girls Update(「アイドル」と「アーティスト」を隔てるもの ~東京女子流の「アーティスト宣言」をめぐって~)
──はとても優れた考察なので、ご一読をおすすめします。
この執筆者は「──『アイドル』を名乗るか『アーティスト』を名乗るかは、本質的には別々の登山道から山頂を目指している程度の違いに過ぎない」と結論づけていて、とてもすがすがしい。そして、「──日本のアイドルオタクは、アイドルに物語性を求めがちである」の一文は僕にとってもちょっと耳が痛い。
(※2)『ライムスター宇多丸のマブ論』p556
(※3)東京女子流「アーティスト宣言」の本音を仕掛け人に聞いた | ドワンゴジェイピーnews -公開日:2015/02/09
(※4)@JAM THE WORLD アフタートーク 緊急討論会!?(3) 2016.06.13 - YouTube(佐竹氏出演回、30分あたりから)
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