2010年は、東京アイドルフェスティバル(TIF)がはじまった年だ。
品川ステラボールをメイン会場として、8月に前夜祭を含めて三日間行われた。出場アイドルは45組。AKB48グループは出演していない。(※1)
ただ、前年の2009年1月31日に興味深いイベントがあった。同じ会場で、アイドル選手権「Push★1」というイベントがひらかれている。(※2)
各タレント事務所が推薦するアイドルが対戦し「未来のアイドルNo.1」を決めるという形式のイベントで、フジテレビが主催している。内容はweb中継され、後日、BSフジで放送された。
そのイベントの総合プロデューサーと審査委員長を秋元康がつとめ、審査員として『アイドリング!!!』プロデューサーの門澤清太も参加している。
イベントの記者発表で、『AKB48』と『アイドリング!!!』が登場し、両グループの選抜メンバーによるコラボ・ユニット『AKBアイドリング!!!』が発表された。
そしてイベント当日、AKBアイドリング!!! のデビュー曲「チューしようぜ!」を初披露している。同曲は4月1日にポニーキャニオンからシングルリリースされた。
このあとAKB48とアイドリング!!!は、お互いの番組にそれぞれ出演し、AKBアイドリング!!!として、『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』にも出演している。(※3)
AKB48には「戦うアイドル」というイメージがある。しかし、秋元氏自身はそれを意図していなかったふしがある。
『マブ論』では、宇多丸氏に「RIVER」という楽曲やミリタリー調のミュージックビデオから、「組閣」や「総選挙」という「戦うアイドル」像をメタ的に落とし込んだのではないかと指摘され、
「──あれはねえ、完璧にAKBのメンバーに対するメッセージですよ。彼女たちがもうひとつ大きくなるために、川を越えないといけない時だったから」と答えている。(※4)
秋元氏は、トラブルによって一度は離れたデフスターレコーズの親会社ソニー・ミュージックとも『乃木坂46』(2011年結成)をはじめている。彼はこんな言い方をしている。
「──AKBがキングに移籍してから売れたので、あれだけ一生懸命頑張ってくれたデフスターに申し訳ないなというのもあって、じゃあソニーでも何かやりましょうよって…」(※5)
吉田豪は2011年頃のこととして、「──秋元康さんサイドが『アイドル戦国時代』っていう言葉に対して圧力をかけてきた説っていうのも当時流れたりして。『この言葉を使わないように』みたいに言っていたとか…」と話している。(※6)
テレビ朝日ではじめた『ラストアイドル』(2017年8月~)では、その対戦生き残りのシステムがあまりに残酷に見えるからと、当初の企画を変更して、セカンドシーズンで敗者復活による複数のユニットを結成し、自らを含めたプロデューサー対決をはじめる。(※7)
AKB48には『僕たちは戦わない』(2015年)という楽曲まである。
秋元氏は対立や衝突を好んではいない。しかし競争は必要だ。対決は興奮をもたらす。彼は状況にあわせて、対決が破滅的な衝突にならないようコントロールしながら、競争によって現れる才能を待っているように見える。
90年代末の金融危機のあと、市場競争を重視する新自由主義的な風潮に疲弊し、2008年の「リーマン・ショック」によって傷ついた人々は、過剰なまでに競争にさらされる『AKB48』に時代の空気を感じ、反発と共感の入り混じった複雑な感情をもって、目が離せなくなっていく。上に行きたいけど行けない、選ばれたいけれど選ばれない、そんなメンバーの中に、自分を見た。センターであることを求められつづけた前田敦子も、第2回総選挙で、大島優子にその座を奪われた。のちに前田敦子は「君は僕だ」と歌う。
AKB48の「戦うアイドル」というイメージを決定づけたのは、2012年に公開されたドキュメンタリー映画『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』だ。
このドキュメンタリーには、東日本大震災のあと被災地に訪問してライブを行ったようすから、前田敦子が1位の座を奪還した「第3回選抜総選挙」の光と陰、そして過呼吸と熱中症で倒れるメンバーが続出した西武ドーム・コンサートの舞台裏が記録されている。
ライムスター宇多丸は映画評のなかでこんなふうに言っている。
総選挙については、「──生身の女の子を1年間ここまで追い詰めて、成り立たせている残酷ショーなわけで。こんなことで成り立つエンターテイメントって最低だよ!!最高だよ!最低だよ!!最高だよ!みたいな、「うーん」っていう事になってるわけで…」
コンサートについては「──初日がとにかくボロボロで舞台裏が大混乱していると、文字通り戦場だっていうふうになってるわけです。(…)じゃあ2日目頑張ろうぜ、っていうか、頑張りすぎて、いいですか? 死者続出ですよ、これ、この戦場、203高地とか、ノルマンディ上陸とか、そういうことですよ!!」(※8)
そして、舞台裏では、過呼吸や熱中症でメンバーたちがバタバタと倒れ、倒れながらも立ち上がり、再びステージへともどっていく姿が描写される。
それはまるで「戦場ドキュメンタリー」だった。
AKB48はステージに立つことの過酷さをまざまざと見せつけた。この映画には、彼女たちだけでなく、アイドルという存在への見方を変えるだけの力がある。
AKB48の存在があって『アイドル戦国時代』ははじまった。
そして、2010年がそのはじまりの年だといわれるのは、もう一つ理由がある。アイドルたちの群雄割拠と、それが可能にしたTIF(東京アイドルフェスティバル)の開催だ。
それは2010年の5月、品川プリンスホテルの関係者から、フジテレビの門澤清太に「ステラボールが2日間空いているので、『アイドリング!!!』のイベントをやりませんか?」という話がきたところから動きだす。(※9)
そう、一年前『AKBアイドリング!!!』がコラボ・ユニットを初披露した場所だ。
──『2010年「アイドル戦国時代」【2】 群雄割拠』につづく
(※2)[速報版]アイドル選手権「Push★1」記者発表(AKB48、アイドリング!!!) [スクランブルエッグon the Web]
(※4)ライムスター宇多丸の『マブ論』p495
(※5)『マブ論』p522
(※6)吉田豪 2010年代アイドル戦国時代を語る(YBSラジオ 『909 Music Hourz』書き起こし)
(※7)伊集院光、秋元康が『ラストアイドル』第一回目のリハーサルでいきなりシステムを変えだしたと明かす「残酷過ぎるから」 | 世界は数字で出来ている(2017年12月13日 TBSラジオ『伊集院光とらじおと』書き起こし)
(※8)宇多丸が語る「『Documentary of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』は問題作であり、金字塔であり、到達点だ(2012年2月18日 TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』書き起こし)
宇多丸氏は上記の映画評のなかで、作品に戦慄し、賛辞を送りながらも、「誰がやらせているのか、舞台裏の惨状はスタッフの不手際ではないのか」といったことが巧妙に隠されていると指摘している。
そして彼はアイドルファンであることについて、「──そこでですね、映される観客が『アンコール! アンコール!』ってやってる。そのアンコールの声が暴力的にすら響くわけですよ。もちろん、アンコールを唱えているファンが悪いわけじゃないけど、ここに、この映画は『アイドルのファンであるということは、それ自体が彼女たちに負荷を掛けるというこの構造に加担しているんだぞ』というのを暗に伝えているわけですよ。だから僕は17歳以来のこの問いが再び湧いて来ちまいました。岡田有希子が死んで以来ずっと『アイドルファンであるということは、彼女たちを苦しめる構造の一部であるということじゃないのか?』っていう……」
(※9)TOKYO IDOL FESTIVAL - Wikipedia「経緯」
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