この一連の文章は2018年10月1日に告知されたSUPER☆GiRLSからの大量卒業をきっかけに書きました。

 

 2018年はそれまでに乃木坂の顔であった生駒里奈の卒業や、ももクロ、でんぱ組からも意表を突くような卒業があり、2010年代に中堅グループとして活躍していたPASSPO☆やバニラビーンズが解散するなど、いろいろと考えさせられることが多い年でした。

 

 10月1日の未明、嵐の夜に、「SUPER☆GiRLSメンバーに関して重要なお知らせ」を見て、愕然とし、そのあと現れた渡邉幸愛のブログをすがるように読み、そしてもう一度、「重要なお知らせ」のコメントを読み直して、浅川梨奈の渡邉幸愛への一文の意味に気づいたとき、ああ、これはちゃんと文章にして残しておきたいな、と思いました。

 

 作家で批評家の東浩紀氏は、世の中から取るに足りないもの、つまらないもの、だと思われているものへの視線をひっくり返して、こんなに面白いんだよ、こんなに魅力的なんだよ、と伝えるのが批評の醍醐味だと言っていました。

 

 ある詩人は、ゴミ箱に捨てられてしまったような言葉をとりだして、磨き上げ、もういちど新鮮なかたちで人々の前にさしだすのが詩人の仕事だ、と書いていました。(たぶん谷川俊太郎だと思う)

 

 僕は批評家でも詩人でもないので、とてもそんな力はないのだけれど、そういったじぶんの憧れだけはいつも忘れないようにしたいと思っています。

 

 大江健三郎がこんな事を言っていました。「物語に人を救う力はないけれど、だれかの励ましにくらいはなるのではないかと思って書いている」

 

 そうなればいいなあ、と僕も思います。

 

 だんだん、文章がセンチメンタルになっているのは、あきらかに2019年の年末の出来事のためで、正直にいうと、石橋蛍さんの卒業と、彼女の文章と、笑顔の数々に、完全に目の蛇口が壊れてしまって、大変だった^^;

 

 石橋蛍さんの卒業については、公式にある彼女のコメント、そしてブログと最後のツイートをぜひ見ていただきたい。

 

 もともと芸術家肌の人だなとは思っていましたけれど、じぶんであの文章を書き、じぶんを被写体としてあの写真を撮り、構成して、あのタイミングでアップし、最後にあのツイートをするというのは、ほんとうに見事だと思いました。

 

 これからの彼女には希望しか感じません。きっと弱い人に寄り添ってくれる素晴らしい作家になると思います。

 

 このブログは、「2018年の渡邉幸愛」以降の目次を整理するために書きました。ブログの特性上、古い記事は沈んでいってしまうので、もし順番に読みたいと思ってくれる人がいるのなら、一覧できて役に立つといいなと思っています。

 

 2018年の嵐の夜の出来事から、いったんアイドル界を俯瞰して、もういちど、SUPER☆GiRLSの結成から時系列で書いています。2019年の前半、第四章がはじまったところで、一旦、終了しています。

 

 SUPER☆GiRLSの10年はまだ終わっていません。また書くことになるのだろうな、と思いつつ、まだ、どうなるかわかりません。

 

 書かずにすむのなら、それが一番いいのにな、とも思います。

 

 以前、東京女子流の新井ひとみさんは、「ずっと女子流でいたい」と言っていました。彼女ならそれが出来るかもしれないし、そうあって欲しい。

 

 でも、SUPER☆GiRLSというアイドルグループは違います。渡邉幸愛さんは卒業を撤回してグループの先頭に立ってから、ずっとじぶんに何ができるのかを考えつつ、アイドルとしての出口を意識して活動しています。

 

 だから、一人でも多くの人が、彼女たちを目撃してくれるといいな、と思っています。

 

 人の世は思うようにはいかないけれど、ベストをつくすしかない、それを彼女たちは見せてくれています。

 

 どうすれば、もっと遠くまでボールを投げられるのか、僕も考えつつ、この文章もちょっと長いよなあ、と反省しています^^;

 

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 以下は『2018年のアイドル「卒業と解散」』~『SUPER☆GiRLSの10年』についての[目次]です。

 

 

マニファクチャード・ガールズ・クロニクル

manufactured girls chronicle

 

 [目次]

 

 ■ 2018年のアイドル「卒業と解散」

 

50. 「嵐の夜に…」2018年の渡邉幸愛

 

51. 2018年「アイドル界の乱気流」 まえぶれとしての遠藤舞とGEM

 

52.「ももいろクローバーZは突然に…」有安杏果、駆け足の卒業

 

53.『乃木坂46』卒業の風景 生駒里奈と川後陽菜

 

54.『AKB48』グループの変遷 北原里英と指原莉乃と戸賀崎智信

 

55.「秋葉原ディアステージの挑戦」 夢眠ねむ『でんぱ組.inc』の先へ

 

56.「グループの解散」アイドルネッサンス PASSPO☆ ベイビーレイズJapan バニラビーンズ

 

57. manufactured girl group(企画された女の子たち)2010年代と和田彩花の夢

 

 

 ■ SUPER☆GiRLSの10年

 

58.『SUPER☆GiRLS』の誕生 ──華やかな船出と厳しい航海

 

59.『SUPER☆GiRLS』の成長と『iDOL Street(アイドルストリート)』

 

60.「新メンバーのサプライズ!」 SUPER☆GiRLS、3度目の卒業とはじめての加入

 

61. 渡邉幸愛はどこから来たのか

 

62. SUPER☆GiRLS「第二章」 パフォーマンスの充実と前島亜美の苦悩

 

63. SUPER☆GiRLS「第三章」 前島亜美のリーダー就任と突然の卒業

 

64.「叶わない願い事」 SUPER☆GiRLSにつづく離脱とストリート生の終了

 

65. 撤退戦Ⅰ 『GEM』

 

66. 撤退戦Ⅱ 『Cheeky Parade』

 

67.「汗と涙のシンデレラストーリー」SUPER☆GiRLS 田中美麗の復帰と卒業

 

68.「Don't Stop The Party」 SUPER☆GiRLS 危機からの新展開

 

69.「獅子奮迅!」 SUPER☆GiRLS 浅川梨奈【1】

 

70.「アイドルヲタがアイドルに」 SUPER☆GiRLS 浅川梨奈【2】

 

71.「1000年に1度の・・・」 SUPER☆GiRLS 浅川梨奈【3】

 

72. 浅川梨奈と渡邉幸愛 SUPER☆GiRLSの2トップ

 

73. 2018年のSUPER☆GiRLS【1】 オーディション開始

 

74. 2018年のSUPER☆GiRLS【2】 金澤有希の挑戦

 

75. 2018年のSUPER☆GiRLS【3】 大量卒業の衝撃

 

76. 2018年のSUPER☆GiRLS【4】 それぞれの決断

 

77. 2018年のSUPER☆GiRLS【5】「#夏スパガ」の終わり

 

78. そして、2018年の渡邉幸愛 「彼女の忘れ物」

 

79.「コングラCHUレーション!!!!」 SUPER☆GiRLS 2019年 新たなる船出

 

 以上です。(たぶん、つづく)

 

 

 

 

 SUPER☆GiRLSからの大量卒業という事態は、新メンバーのオーディションに参加していた金澤有希への賛否も、ほぼ決定づけた。彼女によせられた声の多くは、「スパガを支えてほしい」「幸愛ちゃんを助けてあげて」というものだった。(※1)

 

 スパガ結成時のメンバーは12人。それを基準にすると、残留メンバー4人にたいして、8人前後の新メンバーが加わることになる。しかも既存の三期メンバー3人はまだ10代の中高生だ。

 

 すでにスパガには20枚のシングルと4枚のオリジナルアルバムがあり、カップリングをふくめると持ち歌は80曲ほどある。これを新メンバーは覚えなければならない。既存のメンバーも、歌割りやフォーメーションの変更でイチから組み立て直すことになる。これは大変な作業だ。

 

 スパガのパフォーマンスの魅力は、歌割りやフォーメーションの変化で、メンバーそれぞれに見せ場があたえられるところだ。ただ、これはひとりひとりに別の動きが要求されるということで、ダンスにもポジションチェンジにも練度が必要になる。ときにはアクシデントによる変更にも柔軟に対処しなければならない。

 

 最年少メンバーの長尾しおりはブログのなかで加入当初、振りつけを覚えるのがいかに大変だったかを書いている。いろいろあって彼女はグループを辞めることまで考えたようだ。(※2)

 

 じぶんのときよりも更に曲数は増えているので、これから入ってくる新メンバーは本当に大変だと長尾しおりは話していた。

 

 アイドルに興味を持って見ているひとであれば、スパガのように歌割りとポジションチェンジによって見せ場をつくるタイプのグループに、あとから加わるということがいかに大変かは理解している。

 

 しかも、こんかいは新メンバーの方が多くなるという非常事態だ。アイスト出身であり、ローカルからAKB48まで経験している金澤有希は貴重な存在だった。

 

 新体制への移行が発表され、卒業するメンバーは決まった。ただ、新メンバーが何人になるのかは、まだわからなかった。そんなときに渡邉幸愛が個人配信のなかで興味深いことを言っていた。

 

 視聴者からのコメントで「新体制のグループは何人がいい?」ときかれて、渡邉幸愛はあっさりと「5人かなあ…」と答えていた。

 

 コメントの反応は「え?」「少なくない?」「それはスパガっぽくないかも…」というものだった。

 

 さすがに彼女も少しピントがずれていたと思ったのだろう、「とにかく奇数が良いかな、5でも、7でも、9でも」と言っていた。個人的な記憶にもとづいているので、すこしニュアンスに違いがあるかもしれないが、「5人」は意外な答えだったので印象に残っている。

 

(個人的には「5人じゃパティロケだよ。幸愛さん」と思った)

 

 SUPER☆GiRLSが12人で結成されたのは、樋口プロデューサーがモーニング娘。の黄金期をモデルにして、企画を立ち上げ、上司にプレゼンをしたことにはじまる。(※3)

 

 樋口氏は12人は割れる数が多いのでフォーメーションが組みやすい。雑誌の表紙やジャケットなども12人が覚えてもらえるギリギリの数ではないかと話している。

 

 いっぽう渡邉幸愛は、メンバーが偶数だとフォーメーションで重なるところが出てくる。9人になってからは、このくらいの人数のほうがステージでもひとりひとりを見てもらいやすい、と話していた。

 

 以前、宮崎理奈がラジオ番組で、わーすたは海外に行けるのに、わたしたちは人数が多いからなかなか呼んでもらえない、と嘆いていた。わーすたは5人である。スパガは10人を超えるので、海外に限らず、ホテルや交通費などの遠征費用が2倍はかかる計算になる。

 

 さまざまなイベントや地方へのプロモーションなど、フットワーク軽く活動をするにはコンパクトなグループの方がいい。渡邉幸愛が「5人」と口にしたのは、日頃から感じていたリアルな数字なのかもしれない。

 

 しかし、SUPER☆GiRLSには80曲におよぶ資産があり、それはやはり12人というベースからパフォーマンスは構成されている。そして大きなステージでは、それなりに人数がいたほうが迫力もあり華やかになる。

 

 オーディションは、SHOWROOM、FRESH LIVE、MBSラジオの3つのルートでおこなわれている。よほどのことがないかぎり3人以上は合格させると考えていい。

 

 11月4日の公演で最終審査がおこなわれ、合格者が決定した。ただ、その場では発表はされず、新メンバーはレッスンをしたのち12月19日の「デビュー8周年記念ライブ」でのお披露目となった。

 

 そして、2019年1月11日が、卒業メンバーのラストライブとなる。

 

 この、卒業ライブの日程や、三章から四章への移行期間をめぐって、メンバーと運営のあいだで話し合いがあったようだ。

 

 浅川梨奈の卒業発表時のブログを引用してみる。(※4)

 

 『皆様へ②』──

 

(…)

 

それに2019年4月2日までは

スパガでいるつもりだったよ!笑

新体制の兼ね合いで

このタイミングになりました。笑

 

メンバーが一斉に卒業することが

承諾されるとは思わず

私もすごく驚きました。

 

オーディションを受けてくれてる子達の中に

私と一緒に活動したいと

言ってくれてる子がいるのも分かってます。

 

だからこそこのタイミングでいいのかと

悩みました。

(…)

 

 夏まえに、「つぎの卒業のタイミングは12月」と運営の方針がしめされるまでは、2019年の4月2日が自らの卒業のタイミングだと彼女は考えていたようだ。浅川梨奈の誕生日は4月3日。ちょうど10代最後の日だ。

 

 ふたをあけてみれば、1期2期の6人がいったんは卒業を申し出る。さすがにそれは無茶だろうと思ったが、運営は大量卒業を決断した。

 

 ここからはメンバーの個人配信にもとづく記憶や、憶測もはいることをお断りしておく。

 

 浅川梨奈は「5人もいちどに卒業させるなんて、どうかしている!」とすごい剣幕で配信していたことがある。彼女の憤りは2つあったようだ。ひとつは卒業ライブ会場のキャパシティの問題。もうひとつは新メンバーへの育成の問題である。

 

 当初、運営は12月19日の「8周年記念ライブ」で、新メンバーのお披露目と、5人のメンバーの卒業を同時におこなおうとしていた。じっさいに2014年の第二章と、2016年の第三章スタート時は、卒業と新加入が同時におこなわれている。

 

 しかし、こんかいは人数が違う。2014年の卒業は1人、2016年は2人だ。こんかいは5人が卒業する。しかも最後のオリジナルメンバーである一期生3人がいなくなる。

 

 新メンバーの誕生という本来であれば華やかに祝福したい場所で、同時に功労者であるオリジナルメンバーの卒業という別離の場面を描くことになる。いかに旅立ちとして演出しようにも、ちぐはぐになってしまわないか。

 

 キャパシティの問題でいえば、11月4日の最終審査をおこなったライブでは、会場がいっぱいになり、お世話になった関係者さえ招待できないような状況もあったようだ。

 

 卒業するメンバーにとっては、アイドルとして最後のステージになる。親兄弟、友人だけでなく、これまでお世話になったさまざまな人々にその姿を見てもらいたいだろう。12月19日の「TSUTAYA O-EAST 」(約1300人収容)でほんとうに大丈夫なのか? もっと余裕のある会場でやれないものか?

 

 もうひとつ、新メンバーへの育成の問題がある。結果的に、こんかいは7人が新メンバーとして加入することになった。残留メンバー4人にたいして、新メンバーが7人である。はたして、この状態でSUPER☆GiRLSとしてのパフォーマンスを維持できるのか?

 

 浅川梨奈でなくても「バカじゃないの?」と言いたくなる。

 

 ここからは憶測になる。5人が卒業し、4人が残り(しかも3人が中学生をふくむ10代)、7人が加わる。この状況が判明したとき、浅川梨奈はじぶん(あるいは内村莉彩も)が翌年の4月まで残るのはどうかと提案したのではないか。

 

 12月(結果的に1月)の卒業は1期メンバーにしぼり、あらためて4月に2期メンバーに卒業の機会をつくってもいいのではないか。そうすれば12月から3月いっぱいまで、4ヶ月間は後輩の育成を手がけることができる。

 

 浅川梨奈はインタビューで、じぶんが先輩に厳しくシゴかれたので、そういう存在が大事なことを知っている、いまのグループにそれができるのはじぶんしかいない、と話している。彼女は個人の仕事で体験してきた現場での振る舞い方や、自信の持ち方なども後輩に伝えていた。

 

「現場での立ち振る舞いも実は裏でよくLINEして注意していたんです」(※5)

 

 グループ活動以外で、もっとも仕事をしているのが浅川梨奈である。いまのグループで後輩だけでなく、運営にたいしても厳しいことが言えるのは彼女だろう。一期メンバーの宮崎理奈は、「浅川はスパガの鉾(ホコ)だ」と言っていた。

 

 その反面、彼女は取材を受けた記者から、現場でのマナーや受け答えを感心されるほど、公式な場での立ち居振る舞いに優れている。

 

 個人的には握手会での笑顔の上品さと物腰の柔らかさに驚いた記憶がある。

 

 ヲタ芸からヤンキー役までこなし、アグレッシブな言動で運営にも噛みつきながら、取材記者からは立ち居振る舞いを感心される。(※6)

 

 そういう浅川梨奈が、たとえ4ヶ月でも新加入のメンバーとともに活動することは、後輩たちにとっても得るところが多かっただろう。浅川梨奈もSUPER☆GiRLSに深い愛情をもっている。短い間でも新メンバーの育成やパフォーマンス向上に尽力したかったはずだ。

 

 しかし、運営の判断は5人のいっせい卒業で変わらなかった。

 

 運営はまたぽろぽろとこぼれるように卒業者が出る状況を良しとしなかったのだろう。ただ、彼女たちの意をくんで、卒業をわずかながらのばし、1月11日にお台場の「Zepp DiverCity」(約2500人収容)を用意した。

 

 このことによって、12月19日の新メンバー加入から、翌年1月11日の卒業ライブまで、1ヶ月弱の移行期間が現れることになった。この短い間だけSUPER☆GiRLSの総メンバー数は16人となり、宮崎理奈はこの移行期間を「3.5章」と呼んだ。(※7)

 

 11月4日の最終審査で選ばれた新メンバーは、金澤有希、石丸千賀、坂林佳奈、井上真由子、門林有羽、樋口なづな、松本愛花の7人。それぞれに、経験、ダンス、歌、ルックス、愛嬌、元気、など運営が何を期待して採用したかが比較的わかりやすい人選だった。

 

 しかし、アイドルとしてのステージ経験者は金澤有希と坂林佳奈のみ。ただ、坂林佳奈はみずからフリーターだったと話し、ライブハウスで少し歌った経験があるくらいだと言う。石丸千賀はロシア留学までしたバレエの経験者だが、怪我で断念したようだ。(彼女にとってはアイドルがセカンドキャリアとなる)あとの4人はステージに立つのもはじめての素人だった。

 

 彼女たちにSUPER☆GiRLSのダンスとボーカルを訓練しなければならない。

 

 まず、12月19日の初お披露目では、第四章の新曲が発表される。そして1月11日の卒業ライブに先行して、5日から四章メンバーによる新曲のリリースイベントがはじまる。イベントでのミニライブのためには、既存の人気曲も10曲以上は用意しておきたい。

 

 12月のお披露目では、新メンバー7人の発表とともに、第四章の新曲、オーディションの課題曲だった「花道!!!ア~ンビシャス」、自己紹介ソングである「恋してYES!」の3曲が披露された。(※8)

 

 そのあと、第四章メンバーの強化合宿がはじまる。この合宿も卒業していくメンバーが提案したものだ。彼女たちは新加入による歌割りやフォーメーションの変更、それを覚えることがいかに大変かを経験していた。(※9)

 

 卒業メンバーたちは、移行期間として現れた「3.5章」の間に、できるだけのことを新メンバーに残していこうとした。振りつけやフォーメーションの動画を撮って渡し、合宿にもサポートするために日替わりで参加した。二期や三期の加入時にはない手厚さだった。

 

 裏を返せば、既存メンバーより新加入メンバーの方が多いという事態はそれほどに危機的状況だった。

 

 クリスマス返上でおこなわれた合宿は、一週間で20曲を覚えるというハードなものだった。まず、新人は動画を見てフォーメーションを覚えるという経験がない。そして、メンバーが集っての全体練習は、覚える場ではなく、覚えたことを確認、修正、すり合わせする場であるという意識がない。

 

 さすがに金澤有希、石丸千賀は覚えるべきことは頭に入れて合宿にのぞんだようだが、それでも相当苦しんでいた。

 

 ダンスのフォーメーションは全員がそれぞれのポジションに正しく動かないと成立しない。新メンバー全員が苦戦し、レッスン中に立ち往生していた。11人のメンバーがポジションチェンジをくりかえすフォーメーションは難易度が高い。(合宿のようすは、ドキュメンタリー映像として新曲に添付されたBDに収められている)

 

 ふだん穏やかな溝手るかが新メンバーの意識の低さを指摘し、浅川梨奈が「やる気あんの?」と厳しく鬼軍曹ぶりを発揮した。

 

「毎日だれかが泣いていた」と渡邉幸愛はあとで笑って話している。「でも、この厳しいいところを乗り越えたら、ぜったいにステージが楽しくなるから」と励ましていたようだ。

 

 渡邉ひかる、内村莉彩も後輩のレッスンをサポートし、宮崎理奈は後輩たちを笑わそうとしたが、後輩にはその余裕がなかった。(※10)

 

 阿部夢梨はブログにこんなふうに書いている──

 

『* 第4章 強化合宿終了*』

 

(…)

 

合宿の初日では

ファンの皆さんに

決してお見せできる状況ではなく。

 

メンバーの気持ちも

温度差があって

バラバラだったと思う。

 

でも

 

この合宿を通して

メンバー全員の気持ちの温度差が

統一された気がします!

 

とても辛かったけど

とても必要で大切な合宿でした

 

 ──(※11)

 

 2019年1月11日、わずかな隙間に生まれたスパガ「第3.5章」は終わり、渡邉ひかる、宮崎理奈、溝手るか、浅川梨奈、内村莉彩は卒業した。いまはそれぞれの場所で、未来への歩みを進めている。

 

 3.5章でいちばん印象に残っているのは、四章メンバー登場の場面だった。

 

 12月19日の8周年記念ライブは第三章メンバーの9人ではじまり、終盤で卒業予定メンバー5人のMCになる。まだ卒業ライブは来年に控えている。明るく、新メンバーが楽しみだ、という話になる。

 

 そして、リーダーの溝手るかが「スーパーガールズ第四章の登場です!」と促すと、舞台が暗転し、VTR映像で2010年から歴代のメンバーが映しだされる。時代が「第四章」に到達すると、ひとりひとりのメンバーカラーと名前が新衣装を身につけた姿とともに浮かび上がる。それにあわせてメンバーがひとりづつ舞台に登場する。いちばんはじめは渡邉幸愛だった。

 

 映像には「ニューカラー、新リーダー、シャインレッド、渡邉幸愛」と書かれていた。(※12)

 

 つづいて、石橋蛍、阿部夢梨、長尾しおり、「ニューメンバー」として、金澤有希、石丸千賀、坂林佳奈、井上真由子、門林有羽、樋口なづな、松本愛花、が登場する。

 

 舞台上に全員がそろうと、いちど暗転し、──音楽とともに、井上真由子を中心にして、囲むようなフォーメーションが現れる。

 

 音楽のはじまりは軽快で、どこか懐かしいようなドラムの音だ、そして、明るく、楽しげな管楽器が参加する。とても陽気で幸せな音楽。

 

 ああ、これは、モータウン・サウンドだ、と気づく。

 

 彼女たちのダンスがはじまっている。せいいっぱいの笑顔で、軽やかにステップをふむ。衣装にはたくさんの小さな花が描かれ、カラフルな布の断片をいくつも重ね合わせたような、とてもチャーミングで華やかなものだ。

 

 歌声が聞こえてくる。これまでのスパガとは明らかに違う、ハイトーンで可愛らしい声のユニゾンだ。サビでは「コングラチュレーション」という言葉が聞こえる。「新しい旅、新しい空、ハロー、ジャーニー、赤、青、虹がきれいだね。一直線に走ろう花の道すがら、そう私たちの未来図はすでにもう輝き出してるよ──」

 

 新しい旅立ちに夢と期待をふくらませ、そんな自分たちの誕生を祝福する歌だった。

 

(じつはスパガ誕生の「第一章」アルバムで最初に歌唱されているのも「旅立ち」をモチーフとした、軽快なモータウン・サウンドの「NIJIIROスター☆」だ。そのことに気づいたフアンならより深く心を動かされただろう)

 

 多幸感があふれるモータウン・サウンドのなかには、ちょっとした切なさもふくまれている。この曲を卒業していくメンバーはどう感じているのだろうと思った。

 

 第三章最後の曲「わがままGiRLSROAD」は、夢に向かうために、ぶつかり転がって、それでも前に進もう、という覚悟が歌われている。衣装はナポレオンジャケットをベースにしている。名前のとおりナポレオンが着ていた「軍服」をアレンジしたものだ。

 

 BDのドキュメンタリーには舞台袖から第四章を見守る卒業メンバーたちのようすが残されている。無言でステージを見つめる彼女たちの表情は、なんだか不思議なものを見ているようだった。

 

 じぶんのいないSUPER☆GiRLSがそこにはあった。

 

「私たちの未来図はすでにもう輝き出してるよ──」そう歌われる「私たち」のなかに、卒業するメンバーも含まれていてほしい。そう願った。

 

 渡邉幸愛は銀色の軍服を脱ぎ、赤く小さな花に彩られた衣装に着がえた。

 

 新曲「コングラCHUレーション!!!!」を披露したあと、彼女はSUPER☆GiRLSへのこれまでの応援に感謝をのべ、新メンバーを紹介した。そして自らのメンバーカラーが、シルバーからレッドに変わったことを伝え、「ようやく色がつきましたー」と笑わせた。

 

 かつて統括プロデューサは、幸愛の銀色は「戦隊モノでは、あとから現れる救世主の色だ」と話していた。しかし彼女自身は、「銀色だと衣装になると灰色にしか見えないことが多くて」と苦笑いしていた。以前、ピンクが空席になったとき、彼女にピンクにならないかと打診があったようだ。でも「わたしには似合わない」し、ここまできたら銀色をつらぬきたい、と話していたこともあった。

 

 それでも渡邉幸愛は赤色にメンバーカラーを変えた。それは第三章最後のリーダー溝手るかの色だった。

 

 第四章メンバーのお披露目のあと、5人の卒業メンバーが舞台に登場した。溝手るかは手に花束をもっていた。旧リーダーから新リーダーへのエールが送られる。ふたりは向かい合い、涙をこらえることができなかった。

 

 溝手るかは、じぶんよりも後から現れ、エースとして期待されていた渡邉幸愛をなかなか受け入れることができなかった。そういった空気をさっして渡邉幸愛もグループ活動で苦しんだ時代もあった。

 

 そんな時を経て、渡邉幸愛は溝手るかのメンバーカラーである赤色を受けついだ。灰色の遅れてきたエースは、過去を未来につなげる赤いリーダーになった。

 

 「コングラCHUレーション!!!!」は基本ユニゾンによって歌唱される。おそらくまだ歌声が安定しない新メンバーたちに配慮した構成だ。ただ、一箇所だけソロのパートがある。ソロは渡邉幸愛に託されている。後半のクライマックスで、彼女はこう歌う。

 

「夢をのせて、いっしょに笑顔でいよう」

 

 SUPER☆GiRLSという船は、新しいキャプテンとクルーをむかえ出航した。船を降りたクルーたちは、遠くで手を振っている。

 

 航海ではまた、さまざまな天候や荒波にさらされるだろう。それでも風雨に耐え前にすすみ波を切りつづけるのだ。

 

「──コングラCHUレーション!!!! 華やかに進もう!」

 

 

 

 

(※1)S☆G 金澤有希Twitter: 「大好きな先輩方と大好きなアイスト同期の卒業発表。 最後までしっかり応援したいです

 

(※2)長尾しおり(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ Powered by Ameba

 

(※3)iDOL Street 樋口竜雄×編集長 平賀哲雄 スペシャル対談 | Special | Billboard JAPAN(p2)

 

(※4)皆様へ② | 浅川梨奈(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ Powered by Ameba

 

(※5)SUPER☆GiRLS | アイドルプラネット -IDOL Planet-(p8)

 

(※6)スパガ卒業浅川梨奈、明るさと謙虚さで今後も活躍を - 芸能 : 日刊スポーツ

 

(※7)3.5章 | 宮崎理奈(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ 「今日もナイスみやり!」 Powered by Ameba

 

(※8)スパガに元GEMやHKT48メンバー実妹など7名が加入、初解禁の新曲も披露 | ドワンゴジェイピーnews 

 

(※9)SUPER☆GiRLS Twitter:「実は昨日までの(3.5章?)移行期間は卒業メンバーが提案してくれたことでした(2019年1月12日)

 

(※10)宮崎理奈Twitter:「振り付けを教える時も、サンタ帽を被る私達🎅🎁 クリスマスだからね~ 誰も突っ込まないもん㊗️❤️ #クリスマス #スパガ新メンバー合宿 

 

(※11)* 第4章 強化合宿終了*| 阿部夢梨(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ「夢リズム」Powered by Ameba

 

(※12)S☆G 8th Anniv.LIVE 4th member MOVIE - YouTube

 

(※オーディション・ドキュメンタリー収録)

 

(※卒業ライブ収録)

 この一連の文章の、はじまりの場所にもどってきた。(※1)

 

 9月30日は日曜日。台風が日本列島を縦断し、関東は夜になってから風雨が強くなっていた。地域によっては停電もしていた。

 

 そんな嵐の夜。日付が変わったところで、SUPER☆GiRLSの公式ツイッターが「メンバーに関して重要なお知らせ」をアップした。(※2)

 

 公式ホームページには、渡邉ひかる、宮崎理奈、溝手るか、浅川梨奈、内村莉彩の5人が卒業すると書かれていた。卒業ライブは2019年1月11日。三ヶ月後だった。(※3)

 

 卒業するメンバーが5人。残るメンバーは4人。卒業する人数のほうが多い。ファンは混乱した。GEM、チキパとつづいたエイベックスのリストラがここに極まったと感じ、事実上のスパガの崩壊だとつぶやく者もいた。

 

 三期メンバーの阿部夢梨が数ヶ月前に感じた衝撃を、ここでファンが感じることになった。ただ、ひとつだけ違っていることがある。

 

 渡邉幸愛が残っていた。

 

 この夜、卒業メンバーたちのブログがネット上にアップされたあと、いちばん最後に渡邉幸愛のブログが現れた。彼女のブログから長く引用する。(※4)

 

 『皆様へ』──

 

(…)

 

今回の卒業ですが、1ヶ月前まで、私も

その卒業メンバーの中にいました。

 

14年間のアイドル人生を振り返ってみて。

そしてどうなりたいかの

これからの自分の人生を考え、

悩んで悩んで悩んだ結果

卒業を決めていました。

 

決意して事務所の方とお話をしたりして

卒業に向けて着々と進んでいく中で

 

いざ、蓋を開けてみると

卒業を決めていたメンバーは

1期、2期の6人でした。

 

他のメンバーも卒業を決めていたことは

正直すごく驚いたし、

大好きな先輩、大切な同期

 

この人たちが卒業してしまうスパガが

私が本当に居たい場所なんだろうか、って

自分自身に問いかけたときに

やっぱり、それは、違ったし

 

いまの9人だからこそ、見たい景色があって

一緒に活動してきて楽しかったんだなって

そう感じました

 

卒業の決断はきっと間違ってなかった

そんな風に思っていました

 

だけど、卒業を決めてから、

活動をしていく中で、どこかで

自分の中に違和感があって、

 

それはなんなんだろう?って

考えたけど全然わからなくて、

 

足りなくて足りなくて笑

足りなすぎる私の頭を全力で

フル回転して、考えて考えて

考え続けました。

 

そして出てきた答えは、

私は最後の最後まで

自分のことばかりだなってことで。

 

グループに加入して、4年

来年の2月で5年になるのに、

私はグループのために何かできたかな?って

考えたときに、全然ないじゃん!

自分のばかやろーって!笑笑

 

加入して、必死でがむしゃらだった最初の2年

自分のために頑張ってきた2年

 

今度は、グループのための時間を

過ごしたい!!!って思いました

 

1人じゃ不安すぎるけど

今なら、蛍、夢梨、しおり

 

とっても頼れる後輩がいます。

 

それに、逆にね?

この3人だけ残して卒業なんて

できないじゃんか!!って思った笑

 

気づくの遅かったw 3期ごめんねw

 

私はどうしても、この3期だけを残して

卒業することが嫌で、

3期に沢山の負担を残して

グループを去ることが嫌で

 

誰かに説得されたわけでもなく、

誰かに何かを言われたわけでもなく

自分で、残ることを決めました。

 

私が1人だけ残ってできることなんて

ちっぽけなことしか無いと思うんだけどね

 

大好きなこのグループを

最後に私の全てをかけて守りたいって

思いました。

 

先輩方がしてきてくれたように!

 

(…)

 

 ──このように書いたあと、ファンへの気遣いを見せ、オーディション中の未来の新メンバーへも声をかけてから…

 

ほんとさ、よく続けるよねー私も。笑

やんなっちゃうよー笑笑 

けど、これが私だな、とも思う。笑笑

 

 ──と笑う。そして…

 

最後になりますが、皆様にお願いがあります。

新しく入ってきてくれるメンバーの子達

そして3期の蛍、夢梨、しおり

 

みんなすごくすごく不安だと思います。

 

私だけでは支えきれない、

救ってあげられない部分もあると思います。

 

だから、3人のこと、

いっぱい支えてあげて欲しいです。

 

 ──と書いて、文章を結んでいる。

 

 とても心に響く文章なので、できればぜひ全文を読んでいただきたい。

 

 嵐の夜に、あるいは朝起きてみたら突然、9人のグループから、5人ものメンバーが卒業することを知り、なんだそれ!? と混乱しているときに、このブログは小さな光になったと思う。

 

 いちど卒業を決め、先輩、同期の5人が同時に卒業することを知っても、「卒業の決断はきっと間違ってなかった」と感じていた彼女が、どうして卒業を撤回し、残ることにしたのか?

 

「卒業を決めてから、活動をしていく中で、どこかで自分の中に違和感があって──」彼女は考えつづける。そして、自分のことしか考えていなかった、グループのために何かできたのか、と思い至る。そこで後輩の存在に気づいて、「この3人だけ残して卒業なんて、できないじゃんか!!って思った──」

 

 渡邉幸愛は「私はどうしても、この3期だけを残して卒業することが嫌で、3期に沢山の負担を残してグループを去ることが嫌で──」と書いている。

 

 このあたりの文章を読んで、頭に浮かんだのは「Party Rockets(パーティロケッツ)」のことだった。

 

 パティロケは2012年に仙台で結成され、渡邉幸愛は初代リーダーだった。2013年、SUPER☆GiRLSへの加入を打診された彼女は、12月にパティロケから卒業する。このときパティロケに残されたメンバーは3人だった。

 

 渡邉幸愛がスパガからの卒業を決めたあと感じた「違和感」の正体は、パティロケ卒業時の苦しみからきていると思う。どこまで自覚していたかはわからないが、スパガに残される3人の後輩の姿に、パティロケに置き去りにしてしまった3人の仲間を感じたのではないか。だから「どうしても、この3期だけを残して卒業することが嫌で、3期に沢山の負担を残してグループを去ることが嫌」だったのだ。

 

 ずっと整理できない気持ちが彼女のなかにあったのだろう。

 

 スパガの崩壊のような大量卒業のなか、渡邉幸愛の決断は献身的に見える。でも、救世主あつかいするつもりはない。彼女はただ単純に、忘れ物をしていることに気づいて、それを取りにもどっただけなのだ。

 

 だから、「──気づくの遅かったw 3期ごめんねw」と笑っている。

 

 それでも多くの人の気持ちを癒やしたことは間違いない。三期の阿部夢梨はインタビューでこう話している。(※5)

 

 ──先輩がもともと6人卒業される予定だったので、じぶんの目標もわからなくなってしまった。そんな時期に、幸愛さんが残るって決めてくださったおかげで、私も、もうちょっとスーパーガールズとして全力で頑張りたいって思った。

 

「幸愛さんは私にとって本当にまた夢を持たせてくれた大切なひとです」

 

 迷子になった阿部夢梨のもとに、渡邉幸愛はもどってきた。灰色のガンダルフが白の魔法使いとしてもどってきたように。

 

 すこし先走った話をすれば、第四章の楽曲「ナツカレ☆バケーション」と「片想いのシンデレラ」では阿部夢梨がセンターとなっている。

 

 「ナツカレ」の振りつけではクライマックスで渡邉幸愛が阿部夢梨の告白を後押しする。

 

 「シンデレラ」では渡邉幸愛が阿部夢梨に魔法をかける。

 

 コミカルで楽しい演出なのだけれど、上記のインタビューを意識してふたりのダンスを見ると、また違った感慨がある。

 

 卒業発表時の公式ホームページには、5人の卒業メンバーのコメントが載っている。そのなかで浅川梨奈だけが、ひとりのメンバーにむけた一文を残している。(※3)

 

「こうめ、隣で支えてあげられなくてごめん。本当にありがとう」

 

 

 ──「コングラCHUレーション!!!!」につづく

 

 

(※1)本ブログ:「嵐の夜に…」2018年の渡邉幸愛 | マニファクチャード・ガールズ・クロニクル

 

(※2)SUPER☆GiRLS・公式のツイート: "SUPER☆GiRLSメンバーに関して重要なお知らせ https://t.co/wY5nyK107w"

 

(※3)SUPER☆GiRLSメンバーに関して重要なお知らせ|NEWS|SUPER☆GiRLS(スパガ) Official Website

 

(※4)皆様へ | 渡邉幸愛(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ 「幸愛のはぴらぶろぐ♪」(2018-10-01 00:43:31)

 

(※5)SUPER☆GiRLS 新たなる道へ (阿部夢梨編) - YouTube

 

 

 

 

 

 

 

 2018年夏のアイドルイベントに浅川梨奈はフル出場した。

 

 TIF(東京アイドルフェスティバル)では他のアイドルと共演するコラボステージにも登場し、虹コンの「トライアングル・ドリーマー」をパフォーマンスして、「△△(さんかく、さんかく)」とずいぶん上機嫌だった。(※1)

 

 夏の終わりの@JAM EXPO(アットジャム・エキスポ)では、解散するPASSPO☆のトリビュート・ステージに、スパガのメンバーとともに立った。スパガとアプガ、PASSPOの三組で共演した「Dear My Friends」では、浅川梨奈が歌いながら泣いていた。

(※2)

 

 PASSPO☆のキャプテン根岸愛は「スパガとアプガはこれからも頑張っていく」ので戦友としてこの曲をいっしょにやりたいとMCをした。しかし、このとき浅川梨奈をはじめ、渡邉幸愛をふくめた一期、二期メンバーの6名が卒業することを決めていた。

 

 阿部夢梨は、先輩がみんないなくなってしまうので、「きっと、もう来年は、横浜アリーナの大きなステージには立てないよ」と三期メンバー3人で話し、泣いていたという。(※3)

 

 のちのインタビューを見ると、阿部夢梨はこのころ「じぶんの目的さえ見失って、行方不明になってしまった」と話している。彼女たち残される三期メンバーにしてみれば、見捨てられたような気持ちだったのかもしれない。

(※4)

 

 9月になると、ニューシングル「わがまま GiRLS ROAD」が初披露された。ビートの効いたロック調のカッコいい楽曲で、夢に向かって前進しようという力強い歌詞や「わがまま」を「我が道」とかけたタイトルは、センターに立つ浅川梨奈をイメージしたものだと思われた。

 

 ダンスもユニークで、格子状に重なったフォーメーションから、ひとりを中心に円陣をくみ、複雑に体勢を変えながら回転する。こんどはボーカルを残して、非対称のフォーメーションで演劇的な動きをする。全員でそろえるところは指先までピッタリと合わせて、かがんだり、背伸びをしたり、身体の上下の動きも大きい。激しくてドラマチックな振りつけだ。

 

"Hi,Sapporo! 「わがまま GiRLS ROAD」 対バン初披露🚀✨ スパガ楽曲初のトラップビートです。… "(2018年9月23日:公式のツイート動画)

 

(せっかくの面白い振りつけなのだから定点から全体のフォーメーションがわかるダンス映像を公開すると良いのにと思った。ギラレボ- YouTube のように)

 

 振りつけをしたのは、CRE8BOY(クリエイトボーイ)。AKB48グループや乃木坂46などを手がけ、こんかいはじめてSUPER☆GiRLSを担当した。浅川梨奈は「もっと早く出会いたかった」と言っていた。手応えを感じていたのだろう。(※5)

 

 たしかに若手が経験をつみ、ベテランが洗練されて、長い時間をともにステージですごした9人だから完成された作品だった。

 

 観客のわれわれも、何か新しいことにチャレンジしていると感じたし、個人的にはこのダンスが見たくてリリースイベントに赴いた。

 

(そうしたら、しおりさんの生誕イベントもあり、サイリュウムを頂いたので、これは前の人のまねをしてふれば良いのだな、と思って合わせていたら、ダンスをほぼ見逃してしまうという、楽しい経験もした)

 

 「わがまま GiRLS ROAD」は9月1日の『ワンマンライブ~#夏スパガ~』で初披露され、11月14日にリリースされる。現行の9人体制では最後のシングルとされた。SUPER☆GiRLS第三章の到達点である。

 

 新メンバーのオーディションも同時に進行しており、11月4日のワンマンライブが最終審査の場となる。そして12月19日におこなう8周年記念ライブで、合格メンバーのお披露目があるとアナウンスされた。(※5)

 

 ファンはまだ、3人から5人が増員されるだけだと思っていた。

 

 9月30日、スパガの2018年の夏は終わった。

 

 

 ──『そして、2018年の渡邉幸愛 「彼女の忘れ物」』につづく

 

 

(※1)浅川梨奈さんはTwitterを使っています: 「さんかくさんかく~  / Twitter (2018年8月2日)

 

(※2)浅川梨奈Twitter: 「私のアイドル人生の中心には どんな時だってPASSPO☆がいました…(2018年8月26日)

 

(※3)* @ JAM EXPO 2019 * | 阿部夢梨(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ「夢リズム」(2019年8月25日)

 

(※4)SUPER☆GiRLS 新たなる道へ (阿部夢梨編) - YouTube

(2019年1月11日公開)

 

(※5)『#夏スパガ』完結!SUPER☆GiRLS(スパガ)が早くも次の展開を発表!未来のスパガ候補生も登壇し『スパガ再加速宣言』は続く!

 

 

 9人のメンバーは新体制への意向を問われた。

 

 一期メンバーの渡邉ひかる、宮崎理奈はこのとき24歳、一般社会ではまだまだ若いが、アイドルとしては8年のキャリアがありベテランになる。溝手るかはまだ21歳だが、作詞作曲をこなし、シンガーソングライターとして単独でライブハウスに立つこともあった。

 

 一期は一般公募からオリジナルメンバーとしてSUPER☆GiRLSになった。12人いた同期は3人になっていた。スパガへの強い思いと同時に、「ずっとスパガでいられるわけではない」ことも身にしみていただろう。

 

 二期の内村莉彩は18歳。ちょうど受験生のタイミングで、翌年は大学進学の年だった。浅川梨奈とともにスパガに加入してからは4年だが、ストリート生としての活動があり、アイドルとしては6年のキャリアがある。

 

 浅川梨奈は19歳。もともと「アイドルは10代まで」との考えをもっていた。ほんとうは高校卒業時の18歳でアイドルも卒業する予定だった。しかし多くの人から止められ、じぶんも自立するにはまだ早い、と思い、一年先延ばしにして、俳優としての土台作りと、後輩の育成をやりきる、と決めた。(※1)

 

 以前、浅川梨奈が2017年の夏もほとんどスパガのグループ活動に参加していたことを書いた。おそらくアイドル最後の夏になるかもしれないと考えていたのだ。(※2)

 

 渡邉幸愛はこのとき20歳。ただ、3月生まれなので浅川梨奈よりも学年は2つ上になる。彼女も将来は俳優になりたいと口にしていた。

 

 そして小学3年生からステージに立っていた彼女は、一期メンバーよりもアイドルとしてのキャリアが、じつは長い。

 

 のちのインタビューでは、「私も13年間アイドルをやってきて、今なら自分に『お疲れさま』と言ってあげられると思って、卒業を一度決めました。個人活動で自分のやりたいことを勉強しながら、別の夢に向かって進んでいこうと考えていた…」と話している。(※3)

 

 やりたいことというのは「演技」だろう。11月に発売された写真集のメイキング映像でも将来は「お芝居がしたい」と話していた。(※4)

 

 渡邉幸愛の俳優としてのキャリアは、同期で年下の浅川梨奈にくらべて、はるかに少ない。

 

 2017年にテレビドラマが2タイトル、2018年には映画が2タイトル、いずれも主要キャストではあるけれど、主人公の仲間や敵役だ。舞台経験も2本くらいだろうか。

 

 浅川梨奈は2012年のストリート生時代から、舞台や短編映画、ドラマなどの現場にふれ、水着グラビアをきっかけとして、2016年の映画『14の夜』やドラマ『咲-Saki-』に出演する。その後、主演した映画だけで5タイトルあり、他にも多くの映画やテレビドラマ、舞台に、ヒロインや主要キャストとして出演している。

 

 スパガの現場では、ファンから「レアモンスター」あつかいされるほど、俳優としてのキャリアをつんでいた浅川梨奈。そんな彼女でも、卒業にあたって、これからお芝居をやっていくために──

 

「ワークショップであったり、オーディションであったり、またゼロからやっていきたい。現場経験はいっぱい踏ましてもらったから、基礎とか、技術面とかを上げていきたい」と話している。(※5)

 

 じぶんにグラビアやアイドルのイメージが強いことを自覚した上で、お芝居の基礎からやりたいと話し、同時に「料理教室に通って、女子力を上げて、モテにも徹したい」と、ちゃんとオチをつける。まったく聡明な人である。

 

 すぐそばにいて、俳優としてのキャリアもある浅川梨奈にしてそういう姿勢なのだから、おなじく「お芝居をしたい」と考えている渡邉幸愛が、「やりたいことを勉強しながら、別の夢に向かって進んでいこうと考えて…」アイドルからの卒業を決めたのはとても理解できる。

 

 すこし余談になるけれど、演技の基礎やワークショップについて、平田オリザの興味深いインタービューを思い出したので引用したい。

 

 以下は、演技のうまい俳優を育てるには、教育によるトレーニングよりも、演出家の指導のほうが有益ではないかという話しである。

 

 ──後安美紀「演劇と同時多発会話 」(『アート/表現する身体』から)

 

 平田「──ある時期、それをなんとかこう細分化して訓練方法を考えようかと思ったこともあったんですけど、やっぱりどうもだめで、(…)」

 後安「ニューヨークのアクターズ・スクールでは、いろいろ俳優の演技を開発するための授業があるみたいなんですけど…」

 平田「ああ、それでも、まあ開発できないことはないけど、やった気になるだけだからね(笑)。うまくはならないよね。役者は。役者はうまくならない」

 後安「え、それはどうしてですか?」

 平田「役者っていうのは、だって才能が8割ぐらいだから、あとは、いや、2歳とかからやれば別だよ。だからそのうちそうなるんじゃないの? ピアノやヴァイオリンと同じようにやらなきゃだめだ。だから今天才と言われている役者さんは何か代わりのことを3~4歳のころからやってたんだよ。別人格を演じたりしていた」

 後安「そうすると大人になってからいろいろ教え込んだからといって、うまくはならない」

 平田「うん、だめな人はだめ(笑)」

 後安「うわー、厳しい。成長の余地なしなんですか」

 平田「だから、いやいや、一定の確率で才能のある人がいるから、その人は、いい演出家と出会わないと開花しないから、いまできることは、出会う機会を増やしていく。確率の問題だから」

 後安「いい演出家にあたらないと」

 平田「そりゃもう絶対にそう。俳優は、かわいそうだよ」(※6)

 

 劇作家で演出家の平田オリザは、ももクロの主演映画『幕が上がる』の原作者であり、彼の演技ワークショップは高く評価されている。映画のクランクイン前にはももクロのメンバーも参加していた。

 

 そんな平田オリザですら、俳優は才能が8割だと言っている。演技の才能がなければ、いくらワークショップをやったところでうまくはならない。小説『幕が上がる』のなかでも、演劇部の教師が、「お芝居は練習したからって、うまくなるもんでもないよ」と言っていた。まったく身も蓋もない。

 

 ただ、興行の世界では「演技のうまさ」だけがキャスティングの理由ではない。人の魅力というのはさまざまである。同時代の日本を代表する映画監督であり俳優の北野武も「凄い役者」とは、器用な猿ではなく何もしないパンダである、と言っている。(※7)

 

 演技にとっていちばん邪魔なものは「無駄な緊張」なので、ワークショップであれ、実践の現場であれ、それがなくなればいい。あとはその物語世界に必要なことを理解して、おこなえるかだけだ。演出家はそれをサポートするにすぎない。うまく行っていれば何も言わないし、いかなければ演出にこそ手腕が求められる。

 

 相米慎二監督は新人俳優に具体的な指示をださずに、何度も何度も同じ場面をくりかえさせた。(おそらくそうやって疲れさせることで、無駄な緊張をとり、頭を混乱させることでお芝居への欲を放棄させたのだろう)

 

 北野武監督は、俳優の演技が求めるものと違うと感じたときは、その俳優を背中から撮影し、必要であればあとでセリフも吹き替えたと聞く。

 

 『七年目の浮気』(1955年)のビリー・ワイルダー監督は、マリリン・モンローに何回も同じ演技を要求したそうだ。

 

 短いセリフがうまくいかず、80回リテイクしたこともある。

 

 インタビュアーに、どうして何度もやらせたのか? と訊かれ、監督は「彼女には天性の感覚があって、『これはおもしろい』とか『ここが泣きどころだ』とか本能的に察知する。それをまた見事にやってのける。何度撮りなおしを繰り返そうと、いつかはハッとするものがあらわれてくるとわかっていた」と言う。

 

 「そのことは彼女に伝えたんですか?」と問われると、ワイルダー監督は沈黙し、しばらく考えてから答えた。「いや、彼女はいつも泣いていた」(※8)

 

 マリリン・モンローはハリウッド映画のスター俳優となりながら、のちにニューヨークのアクターズ・スタジオに通い、メソッド演技法を学んだ。

 

 その後、『お熱いのがお好き』(1959年)でゴールデン・グローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞している。

 

 その作品の監督はビリー・ワイルダーだった。

 

 ずいぶん話がそれた。

 

 平田オリザは、演技は才能が8割であって、俳優にとって大切なのは良い演出家との出会いだと言っている。さらにいえば、俳優の未来を切りひらくのは、良い作品に出会えるかどうかだ。

 

 出会いは「運」でしかない。出会えるときは出会えるし、出会えないときはいつまでたっても出会えない。ただ、早くはじめた方がチャンスは多い。(※9)

 

 渡邉幸愛は「内臓がえぐられるほど」悩んで苦しんで、卒業を決めた。

 

 

 ──『2018年のSUPER☆GiRLS【5】「#夏スパガ」の終わり』につづく

 

 

(※1)皆様へ① | 浅川梨奈(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ Powered by Ameba(2018年10月1日)

 SUPER☆GiRLS アイドルプラネットIDOL Planet(p5)

 

(※2)本ブログ:「獅子奮迅!」SUPER☆GiRLS 浅川梨奈【1】

 

(※3)SUPER☆GiRLS アイドルプラネットIDOL Planet(p7)

 

(※4)『渡邉幸愛 ファースト写真集 koume (DVD付)』

 ちなみにこのDVDに収録されたインタビューは、グループからの卒業を決めていた頃なので、どこまで話していいか困惑しながら答えていたと話している。

 

(※5)11月24日OA SUPER☆GiRLSのスーパーラジオ! 浅川梨奈卒業SP ハイライト動画 - YouTube(18:20)

 

(※6)「演劇と同時多発会話 劇的時間の作られ方」後安美紀(佐々木正人『アート/表現する身体』東京大学出版会 p53)

 

(※7)北野武にとって「凄い役者」とは、器用な猿ではなく、何にもしないパンダである。|北野武が語る一発勝負の演出論|北野武|cakes(ケイクス)

 

(※8)『ワイルダーならどうする』キネマ旬報社p212

 

(※9)余談ながら、江角マキコが映画『幻の光』(1995年)でデビューしたのは彼女が28歳のときだ。バレーボール選手として実業団で活動し、故障して引退後、ファッションモデルに転身していた。

『幻の光』は是枝裕和監督の劇場映画デビュー作でもある。

 

 更にいうと、ほぼ無名の俳優だったシルヴェスター・スタローンが自ら脚本を書き、映画会社に売りこんで、主役の座をつかんだのが『ロッキー』である。彼が29歳のときだった。(シルヴェスター・スタローン - Wikipedia

 

 遅くはじめても出会いはあるし、自らの力づくで運をつかみとることも、この世界ではある。