じつは、8月末の時点では、当時のスパガメンバー9人のうち、6人の卒業が決まっていた。
残るのは三期生の3人、年長でも石橋蛍、阿部夢梨が16歳。長尾しおりに至ってはまだ中学3年生の15歳だった。
現行メンバーからベテランと中堅の6人が抜け、若手3人だけが残される。
ミーティングで、その事実を知らされたとき、最年少の長尾しおりは「驚きという言葉では表しきれないような気持ち」になり、「正直、何度も卒業するメンバーの人数を数え直し」、そして「もはやこれは、SUPER☆GiRLSなのか?」と困惑した。
(※1)
石橋蛍は「──怖さや不安で頭がいっぱいになり…」(※2)
阿部夢梨は「マジですか!?」と絶句したあと、泣いた。(※3)
このような状況になったのには理由があった。
卒業発表のタイミングで出された運営からのコメントに次のような一節がある。
──2020年の結成10周年にはまた日本武道館に立とう!と志し改めてスタートを切るため、強い気持ちで活動を共にできるグループにしたいと、活動計画を立てました。
卒業が毎年あり、体制が不安定な中では到達することが難しいため、新メンバーが加入する次のタイミングがメンバーが変わる最後とし、全力で大きなステージに上がっていく姿を描けるグループにするという事がSUPER☆GiRLS10周年に向けて、どんな戦略や戦術よりもまず必要な改革方針でした──(※4)
これを読んで思い出されるのは、2017年にグループを離れた三代目リーダー前島亜美がインタビューで語っていた言葉だ。
「──スパガってメンバーが卒業する度にグループの士気が下がってしまうんですよ。(…)もちろん『このままじゃダメだ!』って上げていくんですけど、(…)『スパガって年始のライブで必ず卒業発表があるね』って言われちゃうような状況になってしまう。それがすごく悔しいなって思って。でもどうすることも出来ず、ミーティングで「もう誰も辞めない状態でスパガを続けていきたい」「みんなで頑張ろう!」ってなっても、結局また誰かが卒業してしまうので、どうしても士気が下がってしまう──」(※5)
2010年の結成から2018年の夏までに11人が卒業している。
この「毎年、卒業者が出てしまい、安定しない」という問題意識を運営、とくに樋口プロデューサーも共有していたのだろう。彼は問題を認識しながら、社内の事情でしばらくスパガの担当から離れていた。
もうひとつ、ハロプロのヲタでもあった樋口プロデューサーは、モーニング娘。の「プラチナ期」を意識したのではないか。
「──プラチナ期に改革をもたらせた大きな要因と言われることがある。モーニング娘。は、ジュンジュン&リンリンが8期の「留学生」として加入した2007年より、長い間、メンバーの入れ替わりがなかったことだ。唯一あったのは7期 久住小春の卒業(2009年12月)で、約4年弱の間、グループは同じメンバーだった──」(※6)
この時代のモー娘。はメディアで活躍した「黄金期」のメンバーが卒業し、人気が低迷していた。ただ、メディア露出は減っていたものの、ライブ活動に力を注ぎ、パフォーマンスの向上につとめた。のちに「プラチナ期」と評価される時代を彼女たちはつくる。
以前、樋口プロデューサーが配信番組のなかで、「メンバーの卒業はなにも良いことがない。卒業者のファンもいっしょに離れていってしまう」と話していた。
前島亜美もインタビューで「実際にひとり去るごとに一緒に去っていってしまうファンの方もいて、それがすごく悲しくて……」と話している。
卒業によってファンは減り、新加入によってフォーメーションや歌割りをまた作り直す。それを繰り返していては人気もパフォーマンスも向上しない。
樋口プロデューサーがスパガの責任者としてもどってきたとき、表向きに示したのが「再加速宣言」のロードマップとオーディションであり、内部的には長期間のメンバーの固定という改革だった。
しかし「メンバーの固定」が改革と呼ばれてしまうのも奇妙な話だ。けれど、それができていないというのが現実だった。
樋口プロデューサーは「再加速宣言」を4月から準備し、6月に発表する。溝手るかのブログによれば、卒業を考えはじめたのも6月頃とある。(※7)
おそらくこのタイミングで運営スタッフは9人のメンバーに、「新体制ではグループ活動を最優先にしてメンバーを固定したい」と伝えたのだろう。その上で「つぎに卒業者を出すタイミングは年末の新体制発足のとき、そのあとは少なくとも2年間、2020年になるまで卒業のタイミングはないと思ってほしい」と覚悟を求めた。
いろいろなアイドルグループの話を聞くと、運営との話し合いで卒業を決めるとき、だいたい半年から一年くらいかけて準備をすすめる。出演依頼や契約などの調整、グループ全体のスケジュールとの兼ね合い。メジャーであれ、マイナーであれ、円満にグループを離れるにはそれなりの時間が必要となる。
2018年の上半期にスパガから卒業した田中美麗は発表から3ヶ月、志村理佳は6ヶ月の時間を置いている。とうぜん、それ以前からスタッフとは話し合っていたはずだ。田中美麗の場合は怪我という不測の事態だったので、急遽という感じがあり、より切なかった。
6月の「再加速宣言」の裏で、新体制への意向を問われたメンバーは、夏にかけてスタッフと個別に面談をしながらそれぞれの意志を固めていったようだ。
年上のメンバーにとっては2020年までの2年間をどう考えるのかが重要だっただろう。グループの活動を最優先にするなら、個人活動は犠牲になる。
あるメンバーは、個人配信のなかでこんなふうに話していた。
「──いま卒業するか、つぎはもう、あったとしても2年後までない。そしたら、考えちゃうよね…。でも、それくらい言わなきゃいけないこともわかるし、どっちもわかる…」
卒業を決めたメンバーはこんなふうにも言っていた。
「──ほんとうは、もうちょっとやっていたかったけど、でも、そろそろ、自分の席を次の人に譲らなきゃいけないタイミングなのかなって…」
じぶんの思いだけでなく、グループにとって最も良い身の振り方とは何なのか、キャリアの長いものほど考えることになった。
2年とは、そういう時間だった。
──「2018年のSUPER☆GiRLS【4】それぞれの決断」につづく
(※1)お知らせ | 長尾しおり(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ Powered by Ameba(2018年10月1日)
(※2)大切なお知らせ と 私の想い。| 石橋蛍(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ「ほたるのむしかごのなか」
(※3)SUPER☆GiRLS | アイドルプラネット -IDOL Planet-
インタビュー(2018年11月8日掲載)
(※4)SUPER☆GiRLSメンバーに関して重要なお知らせ|NEWS|SUPER☆GiRLS(スパガ) Official Website
(※5)<連載 第11回>スパガ個別インタビュー:絶対的エースの覚悟と執念「“劣化した”とか言われてますけど」前島亜美の正念場 | Daily News | Billboard JAPAN
(※6)新垣里沙(前編) 苦労人が語るプラチナ期の幕開け | 朝日新聞デジタル&M(アンド・エム)
(※7)皆様へ。 | 溝手るか(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ 「がんばるかっ」 Powered by Ameba(2018年10月1日)
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