青空が広がり絶好の試合日和。

 

 後攻の私達はそれぞれ自分のポジションに走った。

 

 相手は弱小校。下手なミスさえなければ絶対に勝てる。

 

 

 

ープレイボール!

 

 

 

 審判の合図で試合が始まった。

 

 1人目、2人目も見逃し三振。3人目は内野ゴロで抑えた。

 

 まだ一回の表だが、調子が良い気がする。

 

 

 

 

 次は裏。バッターボックスには理佐さんが立つ。

 

 50mのタイムは7秒前半。

 

 どんな球でもヒットにし、出塁しなかったことがほぼない。

 

 

 

理佐「かっとばしてあげるよ。」

 

 

 

 宣言通り理佐さんの打った球は綺麗な放物線を描きホームランになった。

 

 

 

理佐「こんなもんか。」

 

 

 

 余裕の表情を見せた理佐さんは軽いランニングをするかのように一周して帰ってきた。

 

 

 

小林「ナイスホームランです!」

 

理佐「ありがとう。でも、打った感じまだ本気は出してない筈。だから気をつけた方が良いよ。」

 

小林「はい!」

 

 

 

 結局何事もないまま18対0で6回の表を迎えた。

 

 一球目、内角低め。

 

 いつも通りオダナナがストライクにしてくれた。

 

 が、先程と様子が違う。

 

 

 

審判「タイム!」

 

 

 

 タイムのコールが出たため、オダナナに駆け寄る。

 

 

 

小林「オダナナどうした?」

 

 

 

 抑えている手首を見ると赤く腫れていた。

 

 

 

小林「大丈夫?いつから?」

 

織田「私は大丈夫だから。」

 

 

 

 心配になったのか、理佐さんも一塁から駆けつけた。

 

 

 

理佐「このままじゃ無理だ。交代しよう。」

 

織田「私なら大丈夫です。」

 

理佐「あんた、今の自分の手首がどういう状態か分かってる?このままじゃ球に負けてボールが増える。」

 

 

 

 理佐さんの言う通りだ。

 

 私は毎回綺麗なストライクを投げれているわけではない。

 

 今まではオダナナがなんとかしてくれたけと、今の状態じゃ私の重い球を受け止めきれない。

 

 

 

小林「ごめんオダナナ。もっと早く気づいていれば…。」

 

織田「ゆいぽんは悪くないよ。」

 

理佐「勝ち進んでいくことを考えると今は休んだ方が良いと私は思う。」

 

織田「でも、私が下がればキャッチャーがいなくなります。」

 

 

 

 そう。この部活はもともと部員が少なく、キャッチャーはオダナナの他にもう1人しかいない。

 

 しかもその1人は家の用事で休んでいる。

 

 

 

理佐「じゃあ私がやる。部員の中で一番由依の球を取ってきたから。ファーストは他の子に任せる。良いですよね?監督。」

 

 

 

 理佐さんはいつのまにか横にいた監督に聞いた。

 

 

 

監督「キャプテンが言うなら良いだろう。俺はお前らを信じてる。」

 

 

 

 結果、理佐さんがキャッチャーに入り、空いたファーストには3年生が入った。

 

 試合が再開し、理佐さんもしっかりと取れている。

 

 このまま順調にいけば大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果は26対0。

 ランナーは2人出たが、完勝だった。

 

 

 

織田「おつかれ様!ごめんね、途中で降りちゃって。」

 

小林「気にしないで。でも、次の試合までに治してよね。」

 

織田「もう、ゆいぽんからそんなこと言われたらすぐ治っちゃうよ!」

 

 

 

 相変わらずオダナナは私のことが好きみたいだ。

 

 片付けを終え、2人で帰る。

 

 

 

織田「今日家に来ない?親いなくて寂しいし、これからの試合について話したい。」

 

小林「いいよ!反省点もたくさんあるしね!」

 

 

 

 帰り道はどうでもいい話をしながらオダナナの家に向かった。

 

 家に着き玄関を開けるとオダナナは異変に気付いた。

 

 

 

織田「血の臭いがする。しかも、母さんの!」

 

 

 

 急いで靴を脱ぐいで中に入ると、血だらけの狼が倒れていた。

 

 

 

織田「母さん!母さん!しっかりしてよ!」

 

母「奈那、早く逃げて。今、村の男数人があなたのことを探しに行ったから。見つかったら殺される。」

 

織田「母さんを置いて行けないよ…。」

 

母「私は大丈夫だから。早くお行き。由依ちゃん、奈那のことよろしくね。」

 

 

 

 そう言い、オダナナのお母さんは目を閉じた。

 

 

 

織田「母さん!起きてよ。目、開けてよ!」

 

小林「今は早くこの場を離れないと。私はオダナナに死んで欲しくないの!」

 

 

 

 それでも動かないオダナナを無理矢理引きずって玄関に向かう。

 

 早くしないと、オダナナが…、

 

 

 

男「いたぞ!こっちだ!」

 

 

 

 やばい、見つかった。

 

 あっという間に力の強そうな男達に囲まれてしまった。

 

 

 

男「お嬢ちゃん、その子は危ないから早く離れるんだ。」

 

小林「いやです!オダナナは危なくなんかないです!優しい子です!」

 

男「いいから早く。」

 

 

 

 無理矢理私達を引き離そうとして男が私の腕を掴んだ。

 

 

 

織田「汚い手でゆいぽんに触るな!」

 

 

 

 オダナナが男を殴った。

 

 しかし、その直後にオダナナは取り押さえられてしまった。

 

 

 

小林「殺さないで!オダナナは悪くない!」

 

男「親方、どうしますか?」

 

男「まだ獣人ってことが決まったわけではない。狼の姿になるまで檻に入れておけ。」

 

 

 

 散々殴られて気を失ったオダナナは縄で縛られて連れて行かれた。

 

 私は何にも出来なかった。

 

 オダナナは私のことを助けようとしてくれたのに、私のせいで…。

 

 

 

理佐「由依!」

 

 

 

 走ってきたのか、息を切らした理佐さんが玄関に立っていた。

 

 

 

理佐「男達が獣人って騒ぎまくってたからもしかしてと思ったんだけど…。」

 

小林「連れて行かれた…。私は何も出来なかったんです。守らなきゃいけないのに。」

 

理佐「由依は悪くないよ。私がもっと早く来れてたら。」

 

 

 

 私は怖かった。本当にオダナナが殺されてしまうのではないかと。

 

 理佐さんが何か言っているが、全く耳に入ってこない。

 

 私は意識を飛ばしてしまった。