蝉がうるさい季節になった。

 

 制服もブレザーからポロシャツに変わり、購買でもアイスが売られている。

 

 でも、教室には肝心な物がない。

 

 

 

原「暑い。クーラーないとかほんとありえなくない?先生達は職員室で涼めるからいいけど私達は地獄だよ?」

 

小「暑いならくっつかないでよ。」

 

 

 

 そう、クーラーがないのだ。

 

 窓を開けても風はほぼ入ってこない。

 

 クーラーがあるのはコンピュータ室と職員室とホワイトウルフの幹部室だけ。

 

 アイスもすぐ売り切れてしまって、涼しくなる物が何もない。

 

 

 

原「ゆいぽーん、助けて。暑くて死にそうだよ。」

 

小「私も無理。」

 

 

 

 今日の暑さは尋常じゃない。

 

 熱中症対策の為に、授業中も水分補給が可能になってるけど、水を飲んだだけじゃ涼しくならない。

 

 今は自習時間だがほとんどの生徒が勉強するのを諦めた。

 

 

 

小「ちょっとした賭けに出てみない?」

 

原「何すんの?出来るだけ動きたくない。」

 

小「昼休みに、チャイムが鳴った瞬間にダッシュで購買に行くの。もしかしたら買えるかもしれないじゃん。」

 

原「えー。だるい。」

 

小「ほら、行くよ。3.2.1…。」

 

 

ーーキーンコーンカーンコーン

 

 

小「急げ!」

 

原「待ってよ!」

 

 

 

 私達は全力で階段を駆け下りる。

 

 私達の教室は5階で購買は1階。

 

 私ははぐれないように葵ちゃんの腕を引っ張り人混みの中を進む。

 

 ただでさえ暑いのに購買に近づくにつれて人口密度が高くなり、サウナ状態になる。

 

 購買についた頃には先に来た上級生達で既に長い列ができていてた。

 

 

 

原「凄い人だね。アイス残ってるかな?」

 

小「厳しいかも。」

 

 

 

 1人一個というルールはない。

 

 だから前の人が買い占めたら私達は食べれない。

 

 暑さにやられそうになりながらも並んでいると、前の方が騒がしくなった。

 

 

 

不「テメェ、何抜かしてんだよ。」

 

不「調子乗んなよ。先輩に譲るのが普通だろうが。」

 

 

 

 不良達が言い争いを始めた。

 

 私はホワイトウルフとして行くべきなのだろうか。

 

 迷っていると、聞き慣れた声が聞こえた。

 

 

 

理「くだらねぇことで騒ぐなよ。お前も年上なら後輩に優しくするのが普通だろうよ。」

 

不「やんのかコラ?」

 

理「私は大人しく並べと言ってるんだ。」

 

不「お前になんの権限があるんだよ。」

 

 

 

 権限。それなら私が持っている。

 

 私は葵ちゃんに並んでいてもらい仲裁しに行った。

 

 

 

小「他の生徒の迷惑になるので静かにしてもらえませんか?」

 

不「誰だお前?」

 

小「ホワイトウルフ準幹部の小林です。今すぐに争いを止め、静かにすれば今回は見逃します。」

 

不「ったく。しゃぁねぇな。わかったよ。」

 

小「ご協力ありがとうございます。」

 

 

 

 なんとかその場を収め、私は葵ちゃんのところに戻った。

 

 

 

原「ゆいぽんかっこいいね。」

 

小「そんなことないよ。私は仕事をしただけだから。」

 

 

 

 理佐の言うことも聞かないならどうしようもない気がして、正直言うと怖かった。

 

 

 

理「由依、ありがとな。怖かったでしょ?」

 

 

 

 いつのまにか理佐が横にいた。

 

 

 

小「少しね。でも、理佐が近くにいたからなんか安心だった。」

 

理「そっか。ご褒美にこれ奢るよ。隣の友達の分もあるから。」

 

小「えっ、でも。」

 

理「多分もうすぐ売り切れになるから。」

 

 

 

 葵ちゃんが私の後ろに隠れた。

 

 

 

小「葵ちゃん、この人は優しいから大丈夫だよ?見た目はちょっとあれだけど。」

 

理「あれってなんだよ。」

 

小「ごめんって。」

 

原「本当に大丈夫なの?」

 

理「安心しな。何かあったら助けてやるからさ。」

 

 

 

 私の後ろから徐々に出てきた。

 

 

 

理「ほら、溶ける前に食べちゃいなよ。」

 

 

 

 理佐は葵ちゃんにアイスの入ったビニール袋を渡して立ち去って行った。

 

 

 

小「戻ってご飯食べようか。」

 

原「そうだね。」

 

 

 

 帰り道もアイスが溶けないようにダッシュで戻る。

 

 

 

原「あのさ、ゆいぽんって黒い羊のリーダーとどういう関係なの?」

 

 

 

 やっと教室に着き、席に座ると葵ちゃんが聞いてきた。

 

 

 

小「理佐のこと?私の大切な人かな。」

 

原「なんで不良なんかと仲良くするの?ゆいぽんはホワイトウルフなんだよ?」

 

小「さっきの見てたらわからない?本当は良い人達なの。多分理佐がいないともっと学園の治安も悪くなるんだよ。」

 

原「でも周りの人は…」


小「必ずしも多数派の意見が正しいとは限らないでしょ?だから私はそれを証明する。」

 

原「私はかまわないけど、生徒会選挙には不利になるかもね。」

 

小「大丈夫だって!」

 

 

 

 生徒会選挙まであと6週間。

 

 つまり、私が会長になってホワイトウルフを解散するまで6週間。

 

 それまでに守屋先輩の尻尾を掴まないと。

 

 

 

菅「小林さん、ちょといい?」

 

 

 

 私は菅井先輩に廊下に呼び出された。

 

 

 

小「どうしましたか?」

 

 

 

 菅井先輩は辺りをキョロキョロ見回し、なにかを確認した後USBを渡してきた。

 

 

 

小「何ですかこれ?」

 

菅「あまり詳しくは言えないけどきっと小林さんの役に立つから。あと、このデータのことは絶対にあかねんにバレないようにして。私は小林さんの味方だから。」

 

 

 

 そう言うと菅井先輩は急いでどこかへ行ってしまった。

 

 

 

小「なんだよ。急に渡されてもな。家帰ったら理佐に聞いてみよう。」

 

 

 

 席に戻ると葵ちゃんがまだアイスを食べていた。

 

 

 

原「ゆいぽんどうしたの?なんかあった?」

 

小「何でもないよ。さっきの騒ぎのこと聞かれただけ。」

 

 

 

 私は菅井先輩から受け取ったUSBをスカートのポケットにしまい、残りのアイスを食べた。