不「おい、そろそろ起きないと学校遅刻するぞ。」
私は聞き慣れない声で目を覚ました。
ああ、そうか。昨日泊まったんだ。
不「てか、名前なんて言うんだ?このままおまえって呼ぶのもなんだろ。」
小「東欅坂学園1年の小林由依です。」
不「うわ、マジか。理佐さんに殺される。」
小「理佐さんのこと知ってるんですか?」
不「知ってるもなにも、黒い羊のリーダーだぞ。俺もメンバーだけど、理佐さんから、小林由依って子には手だすなって言われてんだよ。しかも、ホワイトウルフが黙ってないだろ。」
小「大丈夫ですよ。誰にも言わないんで。」
不「良かった。あ、俺の名前は琥珀。よろしくな。」
琥珀君って言うんだ。黒い羊ということは工業科かな?
てか、理佐さんってそんなに恐れられているのか。本当は優しい人なんだけどなぁ。
琥「朝飯作ったから食べな。制服とかはどうする?」
小「一回帰って着替えてくるかな。ついでに教科書とかも取りに行きたいし。」
琥「じゃあ愛佳に頼むか。あと数分したら帰ってくると思うし。」
小「愛佳?」
琥「俺の姉貴。東欅の卒業生なんだけど、夜中まで仕事で朝帰ってくるんだ。あっ、帰ってきた。」
玄関の開く音がして、クールな女の人が入ってきた。
志「あんた、また女子拾ったの?」
琥「ちげぇよ。てか、頼みがあるんだ。小林さんの家まで送ってってくれ。」
小林の名を聞いて志田さんの表情が変わった。
志「小林って、理佐のところの?」
私ってそんなに有名なのか?
まあ、可愛いから仕方ないか。って、違うだろ。理佐さん繋がりだからだろ。
志「エンジンかけとくからご飯食べ終わったら車庫にきな。」
小「すいません、ありがとうございます。」
志「琥珀はチャリで行けよ。」
琥「愛佳のケチ!」
2人の言い合いを聞きながら琥珀君が作ってくれた朝食を食べ、食器を洗い、車庫に向かった。
車庫に入ると、志田さんが運転席から顔を出していた。
志「後ろ乗って。多分、行先は理佐の工場でしょ?」
私はドアを開けて後部座席に乗り込んだ。
志田さんは私のことをどこまで知っているのだろうか。
志「由依ちゃんも大変ね。」
小「えっ?」
志「理佐から聞いてるわよ。由依ちゃんなら学園を変えられるかもって。」
小「私なんか何もできてないですよ。」
志「大丈夫よ。理佐は間違えた選択をしたことがないから。だから、信じてあげて。困ってるのなら頼ってあげて。そしたら多分理佐は嬉しいから。」
なんだか、昨日のことが申し訳なくなってしまった。
急に家を飛び出して、なんの連絡もせずにいた自分が情け無くなった。
志「着いたわ。ここで待ってるから、着替えて荷物持ってきな。学校まで送ってあげるから。」
志田さんにお礼を言い、土生先輩の家に入る。
リビングに入ると土生先輩が支度をしていた。
土「由依ちゃんどこ行ってたの?理佐心配してたよ?」
なぜか今は喋りたくなかった。
私は素早く着替え、鞄を持ち、志田さんの車へと戻った。
無言のまま車は校門の前に到着した。
志「帰りも迎えにくるから。多分理佐のところにはしばらく帰りたくないでしょ?うちならいつまでもいていいからさ。」
小「なんかすいません。お願いします。」
志「はいよ!じゃあ、気をつけてね!」
とりあえず変える場所は確保できたが、理佐さんのことが気になって仕方がなかった。
教室に入ると葵ちゃんが既に来ていた。
原「おはよー。あれ?なんか元気ないけど大丈夫?」
小「おはよう。大丈夫だよ!ちょっと昨日、夜更かししちゃってさ。」
原「なんだー、よかった。」
安心したのか葵ちゃんは自分の席へと戻っていった。
私は1時間目の授業の準備をし、グラウンドを眺めていると理佐さんが正門が閉まる寸前に駆け込んできた。
今日の正門担当は守屋先輩だ。
遅刻ギリギリだからか、守屋先輩に怒られていた。
担「小林!外見てないで前を見ろ!」
いつのまにか担任が来ていたらしい。また注意されてしまった。
その後も朝の連絡を聞き流し、バレないように外を眺めていた。
担「小林、守屋が生徒会室に来いって言ってたぞ。」
ずっと外を見ていて気がつかなかったが、いつの間にか連絡は終わっていたらしく生徒が教室から出ていく。
私も重い腰を上げ生徒会室へ向かった。