《時論公論》
「農業政策をどうする」
2013年01月10日 (木)
合瀬 宏毅 解説委員
こんばんは。時論公論、今夜は迷走する農業政策です。今回政権に復帰した自民党は、民主党が行ってきた、戸別所得補償をバラマキと批判し、これを見直すことを公約としてきました。
「攻める農林水産業」を掲げてきた自民党は、強い農業を実現することが出来るのか。見ていきます。
農業政策の行方に関心が集まるのは、農業が食料生産という私たちの生活に、不可欠な産業であるにも関わらず、農家の高齢化など、生産基盤自体が弱体化していること。そしてその強化がTPPなど経済連携協定を進める上でカギを握っているからです。
その農業。食料生産を担う就業者数、2000年からの10年間で33%が減少。残っている農家の多くが零細で平均年齢は66歳と高齢化が進んでいます。農地面積も、456万ヘクタールに減少し、農業生産額は8兆円に下落しました。
この結果、カロリーベースの食料自給率も39%と年々低下しています。
海外からの食糧供給が止まった場合、日本の人口を養うためには、450万ヘクタールが必要とされていますから、今は国民を養うぎりぎりの水準です。
高齢者主体の農業では、水の管理や雑草とりなど、細かい作業に対応出来ず、農産物の品質低下の原因ともなっているといいます。
若い人たちが農業に入ってこない原因ははっきりしていて、現在の規模では農業所得が低く、暮らして行けないからです。
農業で生計を立てるためには、経営規模を拡大して生産コストを下げる。さらに加工などに乗り出して付加価値を高い経営にしなければなりません。
このままの状況でTPPなどに参加し、関税を撤廃すれば、農業は壊滅状態になります
では、自民党はこれをどうしようとしているのでしょうか。
自民党が選挙中から訴え続けてきたのは民主党が掲げてきた戸別所得補償の見直しです。
民主党はコメなど農産物の価格が原価割れした場合、差額分を政府が補填する仕組みを広げてきました。
今回自民党はこれを廃止。水田や畑が、治水対策や景観保護などの役割を果たしているとして、農地に対して補助金を支払う新たな制度を始めるとしています。
また農家や農業法人、それに新たに農業を担う人には補助金で経営支援し、加工などの高付加価値化や、輸出を倍増させる、攻めの農政を展開するとしています。
さらに民主党政権で削減された農村の公共事業を復活、自民党時代の農業予算に戻すとしました。
今年度の農林水産省予算は2兆1000億円でしたから、それを2兆5000円にまで復活するというわけです。
確かに民主党が導入した戸別所得補償は、規模ややる気にかかわらず全ての農家を対象にしたもので、非効率な農家を守り、大規模化を阻害するとして批判が多かったことは事実です。自民党もこれをバラマキと批判し、強く見直しを訴えてきました。
しかし自民党が掲げる農地への支払いも、農地を持っているだけで支払い対象になるという、民主党に負けない気前の良さです。
また農村の整備事業ですが、予算を大幅に拡大するとしており、明日閣議決定される、緊急経済対策でも、農地の整備などに1兆円を盛り込む、大盤振る舞いです。
こうした対策が農業のコストを減らし、生産性向上に役立つ物であれば良いのですが、先に金額ありきでは、それこそバラマキと批判されても仕方ないと思います。
ではなぜ、安倍政権がこれほど農村に配慮するのか。それは前回行った政策の失敗があります。
安倍総理は2007年、第一次安倍内閣の時に、農業政策を大幅に転換し、全員を保護するやり方から、都道府県で4ヘクタール以上の大規模化を目指す、やる気のある農家に政策を集中しました。いわゆる「戦後農政の大転換」です。
しかし零細農家切り捨てという農村の反発を受け、戸別所得補償を掲げる民主党に、参院選で農村での一人区を奪われ惨敗しました。
さらにその後の衆院選でも多くの農村票を失って、野党に転落しました。
今回の大判振る舞いは、その時の反省から農家への配慮が色濃くうかがえ、今年夏の参院選を強く意識したものとなっています。
しかしこうした全員を支える政策が、長続きしないのは明らかです。
民主党は政権交代時に、多様な農家、つまり全員が農業を支える農業構造を実現するとしていました。しかし政権を取って2年で、結局20から30ヘクタールの大規模農家中心の農業構造を目指すと、転換しました。
TPPなど農業を巡る状況が変わる中、全員を同じように守るやり方では、競争力もつかず、財政的にも支えきれなくなったからです。
農業政策には、競争力の強い農家を育成する競争政策としての面と、補助金で農村のくらしを守る社会政策の二つの面があります。
重要なのはこの二つをきちんと分け、両方に目配りしながら政策を進めていくことです。安倍内閣の前回の失敗は、競争政策を先行させ、社会政策としての目配りが足りなかったことが原因でした。
安倍政権としては元の考えに戻り、農村の維持という社会政策に配慮しながら、競争力のある大規模な農家を育てていく。そうした政策を早く示すことが必要でしょう。
さて、今後農業政策を進めていく上で、以前から積み残した課題がいくつかあると思います。
三つあげたいと思います。
まずはコメの生産調整です。
民主党は、戸別所得補償を受ける条件としてコメの生産調整に参加することを求めてきました。その結果、多くの農家が生産調整に参加し、生産調整の強化につながって、コメの値段が上昇しています。
国が価格にこれだけ干渉するのは異常ですし、税金を投入するのなら、価格を下げる方向に持って行くべきです。
新たな制度でもこのまま生産調整を続けるのか。検討が必要でしょう。
二つ目は農地集約化の加速です。
4年前に行われた農地法改正で、農地の集約が進み、企業の農業参入なども進みました。今ではイトーヨーカ堂やイオン、それにローソンなどが、野菜などを生産する農家と共同で法人を作り、大規模な農業生産に乗り出しています。
こうした法人は地域での雇用拡大にもつながっていますが、農地の獲得がまだ、上手くいっていません。農地の集約化を進め、企業参入が加速されるような取り組みを進めるべきです。
そして三つ目はTPPなど経済連携協定への対応です。
これまで農林水産省は、経済連携をすすめた場合の日本農業への影響を大きく掲げ、不安をあおってきました。
TPPに参加しようがしまいが、自由化の流れは止めることは出来ない世界の流れです。
経済連携を進めた場合、どの品目にどの程度の影響が出るのか、国民的な議論を進めるためにも、正確な情報提供に努めるべきです。
自民党は再来年度の予算に向けて、政策の具体策を示すとしています。しかし世界的な穀物価格高騰やTPPなど農業を巡る状況は、急激に変化しています。
残された時間が少なくなる中で、農業をどう強化していくのか。その道筋を早く示すことが、自民党の責任ではないでしょうか。
(合瀬宏毅 解説委員)
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「農業政策をどうする」
2013年01月10日 (木)
合瀬 宏毅 解説委員
こんばんは。時論公論、今夜は迷走する農業政策です。今回政権に復帰した自民党は、民主党が行ってきた、戸別所得補償をバラマキと批判し、これを見直すことを公約としてきました。
「攻める農林水産業」を掲げてきた自民党は、強い農業を実現することが出来るのか。見ていきます。
農業政策の行方に関心が集まるのは、農業が食料生産という私たちの生活に、不可欠な産業であるにも関わらず、農家の高齢化など、生産基盤自体が弱体化していること。そしてその強化がTPPなど経済連携協定を進める上でカギを握っているからです。
その農業。食料生産を担う就業者数、2000年からの10年間で33%が減少。残っている農家の多くが零細で平均年齢は66歳と高齢化が進んでいます。農地面積も、456万ヘクタールに減少し、農業生産額は8兆円に下落しました。
この結果、カロリーベースの食料自給率も39%と年々低下しています。
海外からの食糧供給が止まった場合、日本の人口を養うためには、450万ヘクタールが必要とされていますから、今は国民を養うぎりぎりの水準です。
高齢者主体の農業では、水の管理や雑草とりなど、細かい作業に対応出来ず、農産物の品質低下の原因ともなっているといいます。
若い人たちが農業に入ってこない原因ははっきりしていて、現在の規模では農業所得が低く、暮らして行けないからです。
農業で生計を立てるためには、経営規模を拡大して生産コストを下げる。さらに加工などに乗り出して付加価値を高い経営にしなければなりません。
このままの状況でTPPなどに参加し、関税を撤廃すれば、農業は壊滅状態になります
では、自民党はこれをどうしようとしているのでしょうか。
自民党が選挙中から訴え続けてきたのは民主党が掲げてきた戸別所得補償の見直しです。
民主党はコメなど農産物の価格が原価割れした場合、差額分を政府が補填する仕組みを広げてきました。
今回自民党はこれを廃止。水田や畑が、治水対策や景観保護などの役割を果たしているとして、農地に対して補助金を支払う新たな制度を始めるとしています。
また農家や農業法人、それに新たに農業を担う人には補助金で経営支援し、加工などの高付加価値化や、輸出を倍増させる、攻めの農政を展開するとしています。
さらに民主党政権で削減された農村の公共事業を復活、自民党時代の農業予算に戻すとしました。
今年度の農林水産省予算は2兆1000億円でしたから、それを2兆5000円にまで復活するというわけです。
確かに民主党が導入した戸別所得補償は、規模ややる気にかかわらず全ての農家を対象にしたもので、非効率な農家を守り、大規模化を阻害するとして批判が多かったことは事実です。自民党もこれをバラマキと批判し、強く見直しを訴えてきました。
しかし自民党が掲げる農地への支払いも、農地を持っているだけで支払い対象になるという、民主党に負けない気前の良さです。
また農村の整備事業ですが、予算を大幅に拡大するとしており、明日閣議決定される、緊急経済対策でも、農地の整備などに1兆円を盛り込む、大盤振る舞いです。
こうした対策が農業のコストを減らし、生産性向上に役立つ物であれば良いのですが、先に金額ありきでは、それこそバラマキと批判されても仕方ないと思います。
ではなぜ、安倍政権がこれほど農村に配慮するのか。それは前回行った政策の失敗があります。
安倍総理は2007年、第一次安倍内閣の時に、農業政策を大幅に転換し、全員を保護するやり方から、都道府県で4ヘクタール以上の大規模化を目指す、やる気のある農家に政策を集中しました。いわゆる「戦後農政の大転換」です。
しかし零細農家切り捨てという農村の反発を受け、戸別所得補償を掲げる民主党に、参院選で農村での一人区を奪われ惨敗しました。
さらにその後の衆院選でも多くの農村票を失って、野党に転落しました。
今回の大判振る舞いは、その時の反省から農家への配慮が色濃くうかがえ、今年夏の参院選を強く意識したものとなっています。
しかしこうした全員を支える政策が、長続きしないのは明らかです。
民主党は政権交代時に、多様な農家、つまり全員が農業を支える農業構造を実現するとしていました。しかし政権を取って2年で、結局20から30ヘクタールの大規模農家中心の農業構造を目指すと、転換しました。
TPPなど農業を巡る状況が変わる中、全員を同じように守るやり方では、競争力もつかず、財政的にも支えきれなくなったからです。
農業政策には、競争力の強い農家を育成する競争政策としての面と、補助金で農村のくらしを守る社会政策の二つの面があります。
重要なのはこの二つをきちんと分け、両方に目配りしながら政策を進めていくことです。安倍内閣の前回の失敗は、競争政策を先行させ、社会政策としての目配りが足りなかったことが原因でした。
安倍政権としては元の考えに戻り、農村の維持という社会政策に配慮しながら、競争力のある大規模な農家を育てていく。そうした政策を早く示すことが必要でしょう。
さて、今後農業政策を進めていく上で、以前から積み残した課題がいくつかあると思います。
三つあげたいと思います。
まずはコメの生産調整です。
民主党は、戸別所得補償を受ける条件としてコメの生産調整に参加することを求めてきました。その結果、多くの農家が生産調整に参加し、生産調整の強化につながって、コメの値段が上昇しています。
国が価格にこれだけ干渉するのは異常ですし、税金を投入するのなら、価格を下げる方向に持って行くべきです。
新たな制度でもこのまま生産調整を続けるのか。検討が必要でしょう。
二つ目は農地集約化の加速です。
4年前に行われた農地法改正で、農地の集約が進み、企業の農業参入なども進みました。今ではイトーヨーカ堂やイオン、それにローソンなどが、野菜などを生産する農家と共同で法人を作り、大規模な農業生産に乗り出しています。
こうした法人は地域での雇用拡大にもつながっていますが、農地の獲得がまだ、上手くいっていません。農地の集約化を進め、企業参入が加速されるような取り組みを進めるべきです。
そして三つ目はTPPなど経済連携協定への対応です。
これまで農林水産省は、経済連携をすすめた場合の日本農業への影響を大きく掲げ、不安をあおってきました。
TPPに参加しようがしまいが、自由化の流れは止めることは出来ない世界の流れです。
経済連携を進めた場合、どの品目にどの程度の影響が出るのか、国民的な議論を進めるためにも、正確な情報提供に努めるべきです。
自民党は再来年度の予算に向けて、政策の具体策を示すとしています。しかし世界的な穀物価格高騰やTPPなど農業を巡る状況は、急激に変化しています。
残された時間が少なくなる中で、農業をどう強化していくのか。その道筋を早く示すことが、自民党の責任ではないでしょうか。
(合瀬宏毅 解説委員)
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