【Buckskin(バックスキンの靴)】

昔からバックスキンの靴にはお洒落なイメージがある。そのバックスキンだが、正確には大鹿などの皮の銀面(表面)を削り起毛させたもので、オスの鹿から取られたものを指す。メスから取れたものはレィンディァと呼んで区別され、子牛や子山羊を加工したものはさらにスェードと別の名前が付けられている。ところが起毛された革を全てスェードと紹介する例もあって、混乱することが多い。バックスキンの表面は非常にデリケートだが強くしなやかで肌触りがよいため、靴や手袋、革製のジャケットに利用されてきたとのこと。そこで今回は届いたばかりのクレバリー20足目の靴を紹介しながらバックスキンの魅力に触れてみたい。


1 セミブローグアデレイド
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スタイルはオーソドックスなセミブローグで、内羽根周辺がパーフォレーションで囲まれたアデレイドスタイルだ。ただしパーフォレーション部分を良く見ると両端が扇を広げたような形状になっていて角がついている。昔ポールスミスがクロケット&ジョーンズに作らせたパーフォレーションのカーブ部分が全て角付きのフルブローグを思い出させる。つま先のパーフォレーションは小ぶりであまり注文しないタイプのものだがサンプルどおりにしている。セミブローグは靴のデザインで最も好きなものの1つなので、ジャケット&パンツスタイルに合わせて秋冬を中心に活躍してくれそうだ。


2 ソール
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靴を注文するようになると靴のデザインや素材とともに、ソールにも凝ってみたくなる。クレバリーでは1/2inch、1/4inch、3/16inch(1/4inchよりさらに薄く、路面の乱れが足に響く)など色々試してみた。ただ、それぞれ注文主に最も合うソールの仕様があるだろう。紐靴の場合は通常クォーターインチでつま先に2列の釘打ち、ヒールはクォーターラバーチップ付、これがマイスタンダードということになる。昔はつま先にメタルトゥチップを装着したこともあるが、歩くときに引っかかるので今は止めている。靴のスタイルでソールの仕様は変わるが、自分が一番しっくり来る仕様は殆ど変わっていない。


3 靴の仕上がり
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仕上がりは実に丁寧で、今までのクレバリーの中でも1,2を争う。元のサンプルは黒のカーフで作られたものだったが、茶のバックスキンで作るとエレガントなカントリーシューズに仕上がって中々良い。そもそも前回のトランクショウでは指定した素材より濃い茶色のバックスキンで仮縫い状態まで仕上げてしまったため、急いで作り直して今回のトランクショウに間に合わせたのだろう。因みに濃茶のバックスキンは仮縫い状態のままなので、この後相談してボトムメイキングを依頼しようと考えている。


4 インサイド
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キャップはクレバリーで最初に作ったものとほぼ等しい。全体的に靴が長くなってきているためだろうか、このところ大きめのキャップが主流になっているように感じる。インサイド側から見るとクォーター部分はかなり高く、ヒールカップも決して小さくはない。スティッフナーは素材のせいだろうかクロコダイルのものより押した時の感触は柔らい。横から見たピッチドヒールは控えめで、つま先のパーフォレーションも目立たない。アデレイドの特徴であるフェイシングを囲むパーフォレーションこそ角があってデザイン性の強いものだが、それ以外を抑えることで全体のバランスを取っているようにも見える。


5 スタグスェードとの比較
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スタグスェードはstag suede で、このstagは成長した雄ジカを指している。同じ雄ジカでもbuckの方が若いシカを指すのだろうか、こちらの方が毛足が短く密着している。ブラシを使って毛を逆立ててもスタグスェードほど差異は見られない。stagとbuckという単語が独立してあるということは両者の間には違いがあるのだろうが、見たところバックスキンの方がスェードの感覚に近い。写真で見ると色目が近いように感じるが実際はスタグスェードの方が濃く赤みが強く、バックスキンの方が黄色が強い。


6 スタグスェードとの比較(2)
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スタグスェードの靴は7足目のもので2001年のもの。既に9年目に入り、秋冬になると活躍することもあって履き皺が見える。元々イミテーションのフルブローグにしたのでトゥ部分(カウンターもイミテーション)はプレーントゥと同じで、履き心地は快適な代わりに皺も入りやすい。一方のバックスキンはキャップ、カウンターともにパーツを重ねたオーソドックスなタイプ。ただセミブローグなので曲げやすく、履き皺も真横に綺麗に入るだろう。両靴の間には8年の開きがあり、靴の長さも4mm程度長くなっている。ラストは変わらないがシューパフ(先芯)で調整しているらしい。

クレバリーのウェブサイトでニュースタイルの靴を見ると今までのサンプルよりも細く、長いデザインに変化していていることが分かる。昔、注文靴のショーウィンドウには細く長い足の人だけが履けた様な美しい靴がサンプルとして飾られていたが、最近ではそうしたロングノーズでエレガントな靴が既成靴として誰でも履ける時代になっている。注文靴も足に合うだけでなく、時代に合ったスタイルやデザインを生かし、顧客の望む靴を届けることがポイントになるだろう。注文したけれど「格好悪くて二度と注文する気がしない」客をリピーターとして迎えるためには、クレバリーも進化していかなくてはならない。記念すべき20足目の靴を見ると作風の変遷には目を見張るものがある。

《ライセンスだけで十分かも。》
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