■「公共事業より若年層を呼べ」 中村尚史・東大教授
中村尚史(なかむら・なおふみ)氏 九州大院修了、博士(文学)。専門は地域経済史。10年より現職。主著に『地方からの産業革命』。46歳。
――自民党は10年間で200兆円の公共事業を実施する国土強靱(きょうじん)化計画を打ち出しました。
「これ以上、日本全国でコンクリートを増やしてどうするつもりなのか。東日本大震災の被災地ではなお余震が起きており、最低限の防潮堤は必要だ。しかし震災以前と同程度の防潮堤をつくっても、今回と同じ、もしくはそれ以上の津波が来れば防ぎようがない。むしろどう逃げるのかを考えた方がよい」
――戦後日本は公共事業によって都市と地方の格差を埋めてきました。
「戦前の地方には大地主や地方財閥のような資産家がいて、いろいろな産業に投資する経営資源があった。それが農地解放や財産税で没落。加えて地方の主産業だった石炭や繊維が斜陽化した」
「そこで出てきたのが『インフラさえ整備すれば何とかなる』という考え方だ。田中角栄の列島改造計画がその代表例。全国に高速道路を通し、工業団地用地を埋め立てた。だが土地や人件費が安いだけが売りものの企業誘致では郷土愛は育たない。その結果、企業はもっと安い海外へと出て行った。これをもう一回繰り返しても意味がない」
――地方の活性化はどう進めればよいですか。
「人材育成に投資することだ。若年層を地方に呼び込む。最近は都市から地方へ移るアイターンが増えている。ハコモノをつくるよりも少ない予算で効果が上がっている」
――田園生活が好きでも地方には仕事がありません。
「仕事は与えられるものではなく、つくるものだ。アイターン組の多くは自分で起業する。この観光資源は生かしようがあるとかは外から来た人の方がみえたりする。IT時代なのでウェブ作成とか自分で都市から仕事を受注する人もいる」
「あと必要なのは人と人のネットワーキングだ。商品化・事業化に向け、こういう能力の人と一緒にやればよいとかをつなぐ。地方は濃密な共同社会があるというのは思い込みだ。現在では案外、それぞれの人が孤立している」
■「政党が地域の声拾えず」
――政党は住民の声をきちんと吸い上げていますか。
「民主党だけでなく、自民党もできていない。例えば被災地の住民の要望は個別具体的だ。首長はそれをそのまま語り、政党の調査団はそのまま聞く。これでは何が必要かが国に伝わらない。総合的にみて街をどう再建すればよいのかを一番分かっているのは市町村の現場の職員だ」
「この場合、県庁は間に入っているだけ。市町村は『じかに国と話させてくれ』と思っている。震災によって道州制も考慮すべきだと思った。全国一律でなくてもよい。復興庁は相変わらず縦割りだし、岩手、宮城、福島3県を廃止してまとめて国の直轄地にしてしまうのも一案だ」
――復興と地域振興の両立は難しい課題です。
「北海道の奥尻島は1993年の津波で大被害を受けた。当時はまだバブルの余韻もあり、島をぐるりと囲む立派な堤防をつくった。しかし、人口減に歯止めがかからない。大規模な公共事業を実施するだけでは効果がない」
――被災住民を集約して住まわせるコンパクトシティー計画が検討されています。
「一概によいとも悪いともいえない。住み慣れた場所から離れた場所に避難している間に痴ほうが出た高齢者が自宅に戻ったら症状がよくなった例もある。過疎地のコミュニティーを維持できる方法がないか。人は土地とのつながりがないと生きていけない面がある。それをつなぐのは昔は郵便局だった。いまは生協か」
「都市部にも同じような問題はある。かつて都市周辺でニュータウンといわれたような地域は高齢化、過疎化が深刻だ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
■政治の仕組み考え直す好機
自民党の一党支配下ではロッキード事件などが政界を揺るがせた。どうすれば汚職をなくせるのか。政治改革論議の末にたどり着いた答えが「政権交代可能な二大政党制」だった。
なるほど政治腐敗は減った。他方、新たな問題が生まれた。党派対立による「決まらない政治」だ。戦前も機能不全だった二大政党制は日本には不向きなのか。一党支配時代に汚職の温床だった公共事業ばらまき政治でない地域振興策はあるのか。
主要政党が与野党双方を経験した今こそ日本政治の仕組みを考え直すよい機会だ。
(編集委員 大石格)
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中村尚史(なかむら・なおふみ)氏 九州大院修了、博士(文学)。専門は地域経済史。10年より現職。主著に『地方からの産業革命』。46歳。
――自民党は10年間で200兆円の公共事業を実施する国土強靱(きょうじん)化計画を打ち出しました。
「これ以上、日本全国でコンクリートを増やしてどうするつもりなのか。東日本大震災の被災地ではなお余震が起きており、最低限の防潮堤は必要だ。しかし震災以前と同程度の防潮堤をつくっても、今回と同じ、もしくはそれ以上の津波が来れば防ぎようがない。むしろどう逃げるのかを考えた方がよい」
――戦後日本は公共事業によって都市と地方の格差を埋めてきました。
「戦前の地方には大地主や地方財閥のような資産家がいて、いろいろな産業に投資する経営資源があった。それが農地解放や財産税で没落。加えて地方の主産業だった石炭や繊維が斜陽化した」
「そこで出てきたのが『インフラさえ整備すれば何とかなる』という考え方だ。田中角栄の列島改造計画がその代表例。全国に高速道路を通し、工業団地用地を埋め立てた。だが土地や人件費が安いだけが売りものの企業誘致では郷土愛は育たない。その結果、企業はもっと安い海外へと出て行った。これをもう一回繰り返しても意味がない」
――地方の活性化はどう進めればよいですか。
「人材育成に投資することだ。若年層を地方に呼び込む。最近は都市から地方へ移るアイターンが増えている。ハコモノをつくるよりも少ない予算で効果が上がっている」
――田園生活が好きでも地方には仕事がありません。
「仕事は与えられるものではなく、つくるものだ。アイターン組の多くは自分で起業する。この観光資源は生かしようがあるとかは外から来た人の方がみえたりする。IT時代なのでウェブ作成とか自分で都市から仕事を受注する人もいる」
「あと必要なのは人と人のネットワーキングだ。商品化・事業化に向け、こういう能力の人と一緒にやればよいとかをつなぐ。地方は濃密な共同社会があるというのは思い込みだ。現在では案外、それぞれの人が孤立している」
■「政党が地域の声拾えず」
――政党は住民の声をきちんと吸い上げていますか。
「民主党だけでなく、自民党もできていない。例えば被災地の住民の要望は個別具体的だ。首長はそれをそのまま語り、政党の調査団はそのまま聞く。これでは何が必要かが国に伝わらない。総合的にみて街をどう再建すればよいのかを一番分かっているのは市町村の現場の職員だ」
「この場合、県庁は間に入っているだけ。市町村は『じかに国と話させてくれ』と思っている。震災によって道州制も考慮すべきだと思った。全国一律でなくてもよい。復興庁は相変わらず縦割りだし、岩手、宮城、福島3県を廃止してまとめて国の直轄地にしてしまうのも一案だ」
――復興と地域振興の両立は難しい課題です。
「北海道の奥尻島は1993年の津波で大被害を受けた。当時はまだバブルの余韻もあり、島をぐるりと囲む立派な堤防をつくった。しかし、人口減に歯止めがかからない。大規模な公共事業を実施するだけでは効果がない」
――被災住民を集約して住まわせるコンパクトシティー計画が検討されています。
「一概によいとも悪いともいえない。住み慣れた場所から離れた場所に避難している間に痴ほうが出た高齢者が自宅に戻ったら症状がよくなった例もある。過疎地のコミュニティーを維持できる方法がないか。人は土地とのつながりがないと生きていけない面がある。それをつなぐのは昔は郵便局だった。いまは生協か」
「都市部にも同じような問題はある。かつて都市周辺でニュータウンといわれたような地域は高齢化、過疎化が深刻だ」
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■政治の仕組み考え直す好機
自民党の一党支配下ではロッキード事件などが政界を揺るがせた。どうすれば汚職をなくせるのか。政治改革論議の末にたどり着いた答えが「政権交代可能な二大政党制」だった。
なるほど政治腐敗は減った。他方、新たな問題が生まれた。党派対立による「決まらない政治」だ。戦前も機能不全だった二大政党制は日本には不向きなのか。一党支配時代に汚職の温床だった公共事業ばらまき政治でない地域振興策はあるのか。
主要政党が与野党双方を経験した今こそ日本政治の仕組みを考え直すよい機会だ。
(編集委員 大石格)
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