堕胎薬自作に偽造メール 法廷で明かされた医師の「堕胎計画」
7月31日10時42分配信 産経新聞
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警視庁の出頭要請に応じ、自宅を出る小林達之助容疑者=5月18日朝、金沢市もりの里(大渡美咲撮影)(写真:産経新聞)

「達之助、どうして」。被害女性の悲痛な思いが法廷に響いた。交際相手の女性から妊娠を打ち明けられ、勤務先から持ち出した子宮収縮剤を「ビタミン剤」と偽って投与し、流産させたとして、不同意堕胎罪に問われた医師、小林達之助被告(36)。前代未聞の医療スキャンダルは舞台を法廷に移したが、東京地裁で開かれた初公判では、二股(ふたまた)交際を維持しつつ、あの手この手で堕胎を画策した小林被告の姿が浮き上がった。自業自得の危機に見舞われたエリート医師がとった行動とは…。

■幸せ絶頂での流産宣告

「もう赤ちゃんはいません」

昨年1月13日、被害者の女性がかかりつけの産婦人科から告げられたのは、信じ難い言葉だった。女性は妊娠6週目。愛する人の子供を授かり、幸せの絶頂にいたはずだった。

女性に異変が生じたのは前日夜のことだ。自宅で激しい腹痛を感じ、トイレへ駆け込んだところ、出血。血には肉片のようなものも混ざっていた。翌日に産婦人科を受診するも、すでに流産したことを告げられた。

27日に東京地裁で開かれた初公判で読み上げられた女性の供述調書には、子供を失った女性の悲痛な感情がつづられていた。

《いちるの望みが絶たれた。大事な、大事な、2人の赤ちゃんを失った。小林の目は私と同じように、悲しんでいるように見えた。『きっと、自分の体のせいで流産したんだ。もっと仕事をセーブしていればよかった。私のせいだ。私のせいだ』と小林に言った》

この「小林」こそが、31日付で東京慈恵会医科大学付属病院(東京都港区)を解雇された医師、小林被告だ。女性は自分の生活状況が原因だと思い、自分を責めたという。しかし、実際には小林被告が周到に仕組んだ“堕胎計画”の一端だったのだ。

■入籍2日前の仰天告白

検察側の冒頭陳述などによると、小林被告と女性が交際を始めたのは平成19年4月ごろ。同じ病院で働いていた女性を、小林被告が食事に誘うなどしたのがきっかけだったという。

「『結婚したいと思っている人がいる』と親に話したんだ」

20年春には、こんな思わせぶりな言葉を小林被告からかけられたという。次第に結婚を意識するようになっていった女性。秋ごろには、避妊せずに性交渉をするようになり、同年12月29日、妊娠が発覚した。

翌30日に女性から「妊娠した」と告げられた小林被告は仰天する。それもそのはず、小林被告には2日後に入籍をする予定の別の女性がいたためだ。

「子供が生まれれば、結婚が破談になってしまう…」

ここから、出産を回避するための小林被告のあの手この手の画策が始まった。

■「借金が10億以上」「親が反対し…」言い訳の果てに堕胎を決意

当然ながら、被害女性は小林被告と結婚し、出産したいと考えるようになった。しかし、小林被告はこんな言い訳を繰り返し、出産や結婚をあきらめさせようとしたという。

「親に10億円以上の借金がある。だから結婚できないんだ」

「親に妊娠したことを話したところ『結婚は絶対に認めない』と言われた」

それでも女性の出産の意思が固いことを知った小林被告は、女性をだまして子宮収縮作用のある薬を服用させ、強制的に堕胎させることを考え始める。

予定通り21年の元旦に別の女性と入籍をすませると、小林被告はその足で勤務先の病院へ向かい、「担当患者に処方する」とうそをついて子宮収縮剤の粉末15包を入手する。しかし、このときは実行を思いとどまり、すぐにこれを廃棄した。

翌2日には被害女性宅を訪れた後、妻を連れて両親が運営する医院へ向かう。この医院の調剤室からこっそり持ち出したのは、乳棒と乳鉢。小林被告はこれで、年末に勤務先から持ち出していた子宮収縮剤21錠のうち8錠をすりつぶし、ビタミン剤をまぜて粉薬を自作する。

「新しいビタミン剤が手に入ったんだ。妊産婦にいいらしいんだ」

数日後、小林被告はそういって被害女性に“オリジナル粉薬”を差し出した。

■カプセル、偽造メール…“小道具”も続々

ただ、女性は「妊娠中はできるだけ薬を飲みたくない」と、服用に難色を示す。

「このままでは、薬を服用しないのでは…」

焦りを感じた小林被告は、女性に薬を飲ませるため、後日改めて女性宅を訪問。粉薬を入れるためのカプセルまで手渡す。

このカプセルが功を奏したのか、女性がようやく薬を服用すると、小林被告は今度はある紙を差し出した。

《…これは妊婦のために開発されたビタミン剤である…》

紙は小林被告に届いたメールをプリントアウトしたものだった。差出人として、実在する別の医師の名前が記載されていた。しかし、これも女性に薬がビタミン剤であると信じさせるため、小林被告が偽造した“小道具”だった。

粉薬を服用し始めてから4日目の1月12日、女性は腹痛や出血を訴えて救急搬送される。診察した医師が下した診断は「切迫流産」。なんとか胎児の鼓動は確認されたものの、小林被告のほぼもくろみ通り、母体は徐々に弱っていった。

体調を崩した女性に、小林被告は追い打ちをかける。

「点滴しなきゃ。病院に行って点滴を取ってくるよ」

病院から自宅に戻った女性に小林被告はこう言い残し、女性宅を後にする。しばらくした後に戻ってきた小林被告が手に持っていたのは、点滴器具と薬剤の入ったパック。実はこのパック内には、事前に勤務先から持ち出した陣痛誘発剤が注入されていた。

小林被告の言うとおりに、弱った女性は点滴を受ける。小林被告は一度外出した後、三度、女性宅に戻り、再度点滴を投与。その日の夜、女性の体調は急変し、ついに流産する。

■「許されない」「どうして」…崩壊した二股交際

女性を流産させるため、あらゆる手を尽くしてきた小林被告。その一方で、妻との新婚生活も順風満帆に過ぎていった。被害女性に点滴を打っている間に、妻と模擬結婚式を見学に行ったこともあったという。

また、堕胎の目的を達した後も被害女性と何食わぬ顔で交際を続けていた。同年9月には石川県内の病院に転勤となり、妻とともに引っ越したが、女性との交流が途絶えることはなかった。

しかし、小林被告が11月に披露宴を開催すると、その事実が知人らを通じて女性の耳に入り、女性は小林被告がすでに結婚していたことを知る。小林被告の裏切りに気づくとともに、流産のいきさつについても不信感を抱いた女性は、警視庁に相談。事件が発覚した。

初公判では、小林被告にもてあそばれた2人の女性の調書が読み上げられた。

《今回、夫がしたことは許されることはない。(事件の背景には)その場しのぎのうそを重ねてきた夫の生き方があると思う。夫には自分が弱いからこその優しさがあり、そういうところが好きだった。夫とどうしていくかは、夫が事件をどのようにとらえ、考えるかを見ていきたい》

小林被告の妻の調書だ。その後には、被害女性の調書が続く。

《赤ちゃんがいると分かったとき、本当に幸せな気持ちになった。赤ちゃんを愛し、育てていく人生を思い描いていた。達之助、あなたに命を預け、あなたを信じて亡くなっていった患者さんがいたのに、どうして。私はもう人を信じられません》

被告人席で目を閉じたまま読み上げを聞いていた小林被告。その心に、2人の叫びは届いているのだろうか。来月5日に予定されている論告求刑が注目される。