PLUTO KISS -7ページ目

着信6 2

これに従って進めということなのだろうか。
宝条は光の筋に従って足を進める。
しばらく進むと、光の筋は途中で屈折し、路地裏へと進路を変えた。
路地裏に向かって伸びていく光を追っていくと、そこには一件の廃墟になっているバーの物件。
光は扉の向こう側に続いている。
宝条は扉を開けてみた。
室内は至って何処にでもある普通のバーをさほど変わりはない。
中央にあるテーブルの前まで歩みよると、突然指輪は割れて砕けてしまった。
「葉月の指輪が・・・。」
砕けたのと同時にテーブルの下の板がスライドして地下へと続く階段が出てきた。
「進めってことか・・・。」
階段を下りて地下へと辿り着くと、地上への入り口が閉まってしまった。
――・・・雰囲気が違ってる・・・ここからはレベルが違うぜ。気をつけろ。危ないと思ったら、すぐに俺と入れ替われ。――
「ああ、わかってるよ。頼りにしているよ、宝条。」
――豊穣・・・――
「なんだい?」
――・・・お前は・・・どうして俺を選んでくれたんだ?――
「・・・どういう意味?」
――研究所で死亡してからお前を連れて脱走しただろ、あの後、俺とお前はひとつになった。その時、どうして俺を選んでくれたのか・・・不思議で。――
「君も今更なことを言うね。そんなの決まっているだろう?」
前方から近寄る気配に、宝条は重剣を構えて先にいる何かを捉えながら答える。
「友達だから。」
宝条は踏み込んで何かを切り捨てた。
跳ね返ってくる返り血は明らかに血ではない何か別の物質の異臭。
「・・・どうやら入り口からずっと『失敗作』が放置されているんだろうね。」
――元は人間だった・・・彼ら。――
「原型を留められていないのは過剰なまでの細胞の投与だろうね。同じ生体反応を感じる。」
――・・・・・・なあ――
「何?」
戦い続ける宝条に、内なる宝条が重い口を開いた。
――信じたくはないんだけど・・・街を潰そうと考えている社長のところに向かっているのに、どうして俺たちと同じように魔物になってしまった人間がここに大量繁殖してるんだ?それってさ・・・もし、俺の推測が間違ってなければ・・・――
「社長は、プロジェクト・アルカナムの関係者・・・?」
いや、ありえるかもしれない。
クロノス自身プロジェクト・アルカナムの関係者と言っていたくらいだ。
組織が存在しても別に不思議なことではない。
じゃあ、社長も魔物化している・・・?
「プロジェクト自体は研究所が潰れたのを60年くらい前にみているから研究は行われていないと思う。あの時研究員も研究材料も器具も全て瓦礫の下に埋もれていったのを僕は見ている。」
――だが、社長がおし研究材料の一部である『細胞』を持っているとすれば?――
「でも細胞は直ぐに使用しないと細胞自体が死んでしまう。」
――ウォールのブラックマーケットで稀にマーケットの長が配布してくれる薬物。――
「・・・煙草や錠剤の中に細胞を練りこんでいるってこと?」
――生前だが少し聞いたことがある。細胞を薬物に練りこんでそれを吸わせたり服用させていると、麻薬とは違う症状が出てくるらしい。麻薬は快楽、幻覚、幻聴
など。でも細胞を摂取すると、快楽なんてこない。来るのは突然の殺意。――
その言葉を聞いて考える。
思えば入社してすぐの頃の社長は温厚ですこしふざけていたりして、明るく優しい人だった。
だが、突然殺戮を望みだした。
――昔投与された人間の症状とよく似てた。――
「だとすれば・・・社長を排除しなくちゃいけない。」
宝条は道を突き進んだ。
社長のもとに辿り着くまであと少し。


開け放たれたままだった窓から風が入ってきて、デスクの上の資料が床に散らばった。
それらを拾い上げようとした四方。その時、宝条の次回の仕事内容が書かれていた資料が目にはいった。
「・・・なんだか・・・胸騒ぎがする。」


もう、四方にはこれから起こる運命が感じ取れていたのかもしれない。


「ふふふ・・・これで私の芸術品は完成する!!」
高らかにそう宣言しながら笑う社長のもとへ、宝条はやってきた。
宝条の気配に気づいてか、社長は振り返ると満足そうに微笑んで、「待っていたよ。」と言った。
「・・・社長、あなたもしかして・・・。」
「君たちと同じさ。私の時も、あの日から止まったままだ!」
そういいながら試験管の中に入ったものを見せてくる社長。
それは、宝条と豊穣を魔物の身体に作り上げた主犯。
「アルカナム細胞・・・通称、A細胞。」
「やっぱりあなた・・・。」
「心地いい・・・殺害を目的に活動する魔物の本能・・・君たちはこんなにも素晴らしい快楽の中で生きているのか!」
その言葉にカチンと来た。
気がつけば宝条の身体は社長のすぐ目の前まで移動して、重剣の切っ先を社長の顔に突きつけていた。
「僕らに殺害本能なんてない。」
「それは勿体ないことだ。何故殺さない。殺す快楽を与えられた特別な身体をお前は持っているんだぞ。それに・・・」
言葉の続きをいいながら、社長は宝条の身体を引き寄せると、背中に手を回し、背中に腕を突き刺し、肉をえぐりながら、中にある何かを掴み、引っ張り出した。
「ああぁっぁあああああぁああああああッ!!!!!??!」
「私は失敗作だ・・・ただ殺害本能だけが定着した不安定な魔物・・・だが、君たちは本物の魔物。翼は魔物の証だ。」
宝条の背中からはダークブルーの翼が生まれた。
それが、魔物の証。
(翼があるだけで魔物の証・・・ね。)
「翼は、自由を求める象徴だ。魔物の願いはただ一つ・・・・・・人間になる。」
――ああ、俺たちは人間になるんだ。――
「身体こそ、もう人間から離れていっている。けれど、それでも人間でありたいと願う魔物の願いは・・・全てを消し去り、再誕を望むこと。」
――次は人間でありますように。と。――
二人は共に重剣を握り、そのまま社長に向かって振り下ろした。
このまま彼を生かしておいても、結局はまた同じことを繰り返してしまうのだから。
ならばせめて。
そう思って振り下ろしたのに。
「っ・・・はぁ・・・ああぁぁあぁああ・・・!!!!!」
奇声を上げながら崩れ落ちる社長の声に反応するかのように社長の背後にあったポッドのロックが解除された。
溶液を溢れ出しながら、開いたポッドからは、ひたっ・・・ひたっ・・・と、何者かが歩いてくる音がする。
「・・・・・・うそ・・・。」
――これって・・・!――
ポッドから出てきたのは、まだ幼さの残る少年。
短髪の深緑色の髪の毛の下から赤い瞳を覗かせて、こちらを見据えている。
「・・・僕・・・だ。」
それは、死んだはずの自分自身だった。
「・・・どうして・・・僕が・・・?」
目を白黒させて、自分の昔の姿から目が離せないでいると、社長が今にも事切れそうな様子で最後の言葉を紡いだ。
「・・・君の死体を試験的に・・・ポッドで・・・育成・・・させた・・・見事なまでの・・・回復力・・・・・・・・・君は最高の適合者だ・・・。これが・・・私の最高の・・・芸術品・・・・・・フラッド・・・。」
そのまま息を引き取った社長。同時に昔の自分が宝条に向って炎を放ってくる。
咄嗟に重剣で防いでみせるものの、あまりの火力に耐えきれず、重剣を抑えきれなくなりそうになる。
「っ・・・!!」
――相棒ッ!!代われ!お前には無理だ!!――
「・・・いいや・・・無理なんかじゃないさ・・・。」
――力負けしてんじゃねぇか!!幾ら細胞摂取して身体が魔物並みに強くても、ポッドで長い間育てられたアイツの方が力は強いんだぞ?!それに長時間お前が表に出てるんだ!そろそろ精神力が尽きちまうぞ!!!そんなことになったら、お前はもう・・・!!――
「・・・もう1人の僕・・・。僕は、あの身体に戻って、君にこの身体を返そうと思う。」
――相棒・・・?!――
「・・・僕は長く君の身体を借りすぎた。」
――だが・・・そんなことしてもし、拒絶反応起して魂自体が結びつかなかったら・・・!!――
内なるもう1人の自分の言葉に、宝条はただ薄く笑って、重剣を地面に突き刺すと一言。
「・・・その時は迷わず切り捨ててくれ。長い間、ありがとう。僕は、僕の物語に、決着をつける。」
そう言って、宝条の身体から何かが光となって飛び出して、昔の自分・・・豊穣光の中へと溶け込んでいった。
「・・・相棒ぉぉぉおおおおッ!!!!!!」
豊穣が居なくなった宝条の身体には、本来の身体の持ち主である宝条が表に戻ってきた。
目の前で、豊穣が内部で何かと戦っているのか、豊穣は奇声を上げながら、背中から血飛沫をちらせ、白い翼を広げた。
その翼は既にボロボロで、羽が飛び散った。
「・・・相棒・・・。」
「・・・・・・。」
無言で豊穣は自分の手をサーベルへと変えると、宝条へ向って飛び掛った。
宝条も咄嗟に重剣を引き抜き、攻撃を受け止める。
お互いの顔が近くなり、見つめあいながら剣を交える際、見えた豊穣の表情。
顔は苦痛で歪んでいた。
空いた片手で頭を抑えながら、攻撃を仕掛けていたのだ。
「・・・うっ・・・あぁぁっ・・・・!!・・・・魔物なんか・・・に・・・!!」
「なりたくないんだろ?分かってる。俺もなりたくない。」
零れた言葉とは裏腹に、無常にも繰り出される豊穣からの攻撃。
ただ宝条は、それを受け止めてやることしかできなかった。
だが、突然豊穣の動きは止まり、口から血を吐き出し、うずくまる。
突然の事態に動揺を隠せずに宝条が様子を伺っていると、豊穣の身体から産み落とされる魔物の子供。
触手を張り巡らせ、豊穣に取り付いていく。
「嫌・・・だ・・・嫌ダ・・・嫌だァァアァァ!!魔物になんかなりたくない!!!」
魔物ではなく、豊穣光の心からの叫び声。
自分が魔物に近づいていく恐ろしさに、もう彼はただ涙を流し、必死に抵抗するしか出来なかった。
どんなに振り払っても、身体に纏わりついてくる触手。
宝条も最初は触手を取り除き、魔物の子供を倒すのを加勢していたが、とてもじゃないが追いつけない。
「・・・・・・相棒。」
「・・・もう1人の僕。」
そっと手を繋いで、宝条も彼と共に触手に取り付かれていく。
「・・・大丈夫。もう、大丈夫。ここで全てを終わらせてあげるから。」
次第に薄れていく豊穣の意識。
瞳の色が濁り始めていたのに宝条は気がついていた。
もうすぐ「人間の豊穣光」は死んでしまう。
「でも、決して1人にはしないから。」
「・・・あり・・・がとう。」
完全に触手に取り囲まれた二人。
その中で、宝条は最後のメールを打った。
「・・・さぁ、相棒。力を解放して。」
「・・・僕の細胞、全部、使って・・・。」
触手の中で二人の身体が触れ合うのと同時に眩い輝きを放ちながら、激しい爆発を起した。
爆発は施設内全てを焼き払い、厄災の全てを消し去った。

カランッ・・・

Edgeの社章ロゴのついた任務用の携帯がその場に落ちた。



着信6

宝条の重剣と、クロノスのシルバーがお互いに響きあう。
大きな宝条の重剣が振り落とされると、それをはじく小さなシルバー。どうして受け止められるのかが不思議なくらいだ。
左手に持っていたシルバーで重剣を受け止め、右手のシルバーを投げつける。
それを避けてみせるが、避けても次が飛んでくる。
次にシルバーが飛んでくるのと同時に避けながら、足でクロノスを蹴飛ばし、距離を取ると、重剣を構えなおしてクロノスに突進していく。
クロノスは余裕の笑みを浮かべて、宝条が迫りくるのを待ち受けていると、すぐ目の前で宝条は重剣をクロノスに向かって投げつけた。
まさか投げつけられるとは思ってもいなかった様子で、一瞬驚くが、重剣を片手で受け止め、柄を握り、宝条の姿を探すが、もう視界には宝条の姿はなかった。
「余所見していますと、殺しますよ。」
背後から聞こえた声。
クロノスが受け止めた重剣の切っ先はクロノスの背後に向かって伸びている。
何故か重剣が先ほどより重く感じるのは気のせいだろうか。
そう思いながら、ゆっくり振り返ると、そこには宝条が立っていた。
「・・・さすが魔物。」
「褒め言葉ありがとうございます。じゃあ、楽に死なせてあげますよ。」
そういい、宝条の手の内からクロノスの胸に向かってサーベルが伸びて貫いた。
貫かれたクロノスは何処か嬉しそうな表情で、サーベルを引き抜いた。
クロノスの感情が読み取れない。
「もっとだ。もっと俺を楽しませて!」
叫ぶのと同時に無数のシルバーが飛んでくる。
逃げ場などない。
あと数センチで宝条に刺さってしまう。
「俺をなめてるのか?糞餓鬼。」
何故かシルバーは全て弾き返された。
はじき返されたシルバーは無常にもクロノスの体に次々と刺さっていく。
「なんで・・・?」
「なんで?だって?それは俺が魔物だからに決まってるだろ。魔物は人間にはできないことを成し遂げられるからな。」
そして、留めといわんばかりに、重剣でクロノスの体を突いた。
重剣にぶら下がるような状態で串刺しにされたクロノスの体を重剣と共に振り下ろし、地面へと叩きつける。
溢れる赤が留まることはなかった。
「・・・嬉しい。やっと・・・終われる。」
クロノスの口から零れた言葉。
非常に嬉しそうな表情でそう言った彼はゆっくりと息を引き取った。
「・・・最終演奏って・・・アンタの最終演奏かよ。」
開かれたままの彼の瞳を閉ざしてやると、ふと、彼の服から一冊のノートが飛び出てきているのに気が付いた。
とても小さく、ビジネス手帳ほどのもので、たいしたことなど書かれていなさそうだが、なぜかビジネス手帳は胸ポケットにもあった。
不思議に思ってそれを開いてみると、手帳の中には80年以上前から今までのことが要約されてはいるが、事細かに書かれていた。
最後のページに書かれていた言葉はこうだった。




あの二人がいつか研究所から逃げ出してくれればいいと思う。
俺にはきっと彼らを助けることはできないんだ。俺も、彼らと同じで魔物だけれど。
俺の場合は亡くなってしまった主犯であるマスターの命令に従って処理事務をこなしていかないといけないから。
この命令に背く力が欲しかった。あんな非道な人間のせいでこんな体になるくらいなら、死んでしまいたかった。
だけど、彼らは魔物と同じようにみえて、本当は、人間なんだ。
まだ、人間なんだ。

二人が逃亡した。嬉しかったけれど、俺は彼らを捕まえなければならない。お願いだ。一刻も早く遠くへ。

逃亡から一週間が過ぎた今日、報告があった。二人は死亡してしまったらしい。だから、死体回収へ向かったのだけれど、そこにはもう二人の死体はなく、先についていた処理班の死体だけが転がっていた。
処理班の一人が撮影していたらしい映像を帰って再生してみると、そこには処理班を殺害していく宝条の姿があった。
誰もいないのに、誰かと喋っている。「俺」と「僕」の一人称を変えながら。
そして豊穣の死体を担いで、何処かへ消えてしまった。
もしかしたら、豊穣と宝条は一人の体に二人いるのかもしれない。そう思うのはどうか俺の勘違いであってほしい。





「・・・本当は、俺たちを助けたいと、味方してくれている側だったんだな。」
「でも、僕らはそんな彼に助けるための手を差し伸べてあげられなかった。」
溢れ出てくる涙は豊穣のもの。そっとクロノスの死体を岩陰に寄りかからせるのは宝条の行為。
「「おやすみ、クロノス。」」
二人は、また一人へと同化していき、この馬鹿げた研究に終止符を打とうと心に誓った。


一方その頃、睦月の手によって、四方は社長の部屋から解放され、電源を入れられ、再起動を果たした。
よく現状が掴みきれていないようだが、今はまだ全てを伝えては、彼は無理をしてしまうだろうと思い、気を使った睦月は余計なことは口走らなかった。
「そういえば葉月は?二人はいつも一緒だろう?」
「・・・葉月は長いお休み中なんだ。」
「へぇ・・・。いいなぁ。」
まだ本調子でない身体をゆっくり動かしてみせる四方に睦月は以前四方が使っていた携帯を投げ渡した。
社員たちが四方に連絡が入れられないと言っていたので調べてみたが、どうやら社長の仕業で携帯を使えないように改造されていたようだった。
だが睦月から言わせてもらえば、お遊び程度の改造だった。すぐに復旧することができた。
治った携帯を四方に渡すと、以前から届かなかったメールや着信まで再受信していたので、ものすごい量の着信に四方は驚いていた。
「うおっ?!なんだこれ!各部署からメールに着信・・・半端ないな。」
「まぁねー・・・みんな君と連絡とれなくって困っていたみたいだし?」
「・・・てか、なんで俺ずっと気絶してたんだっけ・・・?」
「・・・覚えてないの?」
「俺、たまにこんなことあったんだけどさ、その前後の記憶ってほとんどないんだ。」
カチカチと携帯をいじりながらそういう四方に睦月はなんとも言えない気持ちが芽生えた。
(何もわからないで、ずっと利用されていたんだ・・・正直、俺や葉月より可哀想だ。)
「つか・・・光は?俺光と飯食いに行くつもりだったんだけど。」
「ああ・・・彼は遠征任務に出ていてね、しばらく帰ってこれないんだ。」
「まじかよ。はぁ・・・仕方ない。とりあえずちょっとパソコンも開いてくるから。」
パソコンに眠っていた間に溜まってしまった仕事や情報などが山済みに届いていると察した四方は急いでオフィスへと戻っていった。
携帯はうっかりここへ忘れていってしまっていたが。
とりあえず、四方になんら後遺症も見受けられないので大丈夫だろうと判断した睦月も室内から出て行ってしまった。
二人が出て行ったのと同時に四方の携帯に着信が入る。
ディスプレイには「相棒」の名称。


「・・・とりあえず睦月さんのおかげで携帯も復旧しているみたいだしメールもばっちり!」
パタンと音を鳴らして携帯を閉じると、宝条は貿易港へと向かいターボダッシュを走らせた。
早く全てを終わらせよう。
ただそれだけを胸に。

四方がオフィスから帰ってくると、携帯に着信があった。
「あ、宝条からメール入ってる。」

新着メールが一件あります

To:宝条光
Title:No title

今回の任務は長引きそうです。
あなたが解放されているのなら、僕はとてもうれしく思っています。
時間があれば、メールか電話入れようと思います。
                  end

「・・・早く帰ってこいよ。相棒。」
携帯を片手に嬉しそうに微笑む彼だったが、すでに物語は歯止めの利かないところまで進んでしまっていた。
宝条が貿易港ロゼッタへと着いたのは四方が丁度メールを確認しているころだった。
「・・・なんだよ、これ。」
あまり訪れたことなどなかったが、貿易港ロゼッタは確か人口も多く、商売が盛んで、観光客も多いはずだ。
しかし、そんな姿を留めてはいなかった。
住民たちは必死に必要最低限の荷物を手にして逃げ回っている。
家屋は倒壊し、炎上している場所が多々見受けられる。
「おい、お兄ちゃん、お前も逃げなさい!」
突然宝条の方を掴んで揺さぶり、呼びかけてくる年輩の男性。
恐らくこの街の自警団か何かだと思われる服装だが、彼もかなりの負傷を負っていた。
「おじさん、一体何が・・・?」
「ああ・・・なんか頭の狂った奴がヘリコプターから街に向かって攻撃してきて・・・!」
「・・・遅かったか!」
おじさんを振り切り、街の中に向かっていく。
おじさんの制止の声が聞こえたような気がしたが、身体は勝手に街の中へと吸い込まれていく。
幾つか家屋を超えて、突き当たりを曲がった時だった。

ビチャッ・・・

「え・・・。」
宝条の頬に生暖かい何かが飛んできた。
目の前で広がる光景は、社長の部下であろうedgeの社章ピンズをつけた男性が一人・・・サーベルで住民の一人の首を吹き飛ばしていた。
それを目の前で見てしまったその住民の子供であろう子は、ただ呆然として頭を身体が別々になった住民の姿をみている。
頬についたものにそっと触れてみると、手は赤く染まった。
切り捨てられた住民の血だ・・・。
「・・・どうしてだ・・・どうして殺したァァアアアッ!!!!」
怒りに任せて重剣でサーベルを吹き飛ばす。
手に感じる衝撃と、突然の襲撃に驚いた様子でこちらを見ている男性だったが、宝条を見た瞬間逃げ出そうと背を向けた。
彼に向かって氷の魔法で手足を拘束すると、そのまま放置で切断されてしまった住民の遺体に近寄る。
その時、子供が宝条に向かって銃口を向けてきた。
無言の「触るな」の圧力。
だから宝条はそれ以上は何もしなかった。
「ごめん・・・本当にごめんね。」
「・・・・・・。」
「君も早く避難するんだ。ここの道を曲がってまっすぐ行けば、自警団のおじさんが誘導してくれている。早めに合流して一刻も早く遠くへ。」
それだけ言うと、宝条はまた街の中へと姿を消していった。
恐らくこれらは社長の仕業ということはわかっている。
だが、社長の目的はedgeのあるあの街を消滅させることじゃなかったのか?
色々考えながら街の中を進んでいると、突然睦月から預かった指輪の一つが光りだし、一筋の光を放ちだした。
「え・・・何?」
光の筋は道の先を刺している。

不在着信6

プルルルルル・・・

プルルルルル・・・

ガチャッ

『留守番電話サービスに接続します。発信音の後に、お名前とご用件をお話ください。』

ピーッ

「もしもし、俺の声、聞こえていますか?あれからもう6年も経っています。1年だけでもものすごく長く感じるのに、6年なんて気の遠くなるような時間を俺に押し付けるなんてお前は本当に上司に喧嘩を売る部下だな。・・・早く帰ってこいよ。いつまでも待ってる。この身体朽ち果てるその時まで。忘れないでいてやるから。ずっと忘れる気なんてないから。・・・光、俺、お前に一つだけ聞きたいことがあるんだ。帰ってきてからでいいから答えてくれ。お前は・・・―――。」

ブチッ


ツーツーツー・・・・・・