海外緊急手術体験記<2>
この日の台北空港は、明日に旧暦の大晦日を控えた・・・という、特別な日で、どこもかしこも大混雑していた。。。我々のツアーの本隊は予定とおり、台湾新幹線で高雄に向かってもらって、私とヨメサンと添乗員さんは、もう添乗員さんが、早々に、二日目と三日目に泊まる予定の福華大飯店というホテルに特別に早く泊まらせてもらうダンドリをしてくださっていたので、そのご好意を受けることにした。。。
大混雑の空港のタクシー乗り場。。。車椅子に乗っている私たちも行列に並ぶ。。。こっちの人は、ハンディキャッパーでも特別扱いはしてくれないのやろうか。。。。南国台湾とは言っても、冷たい雨でかなり寒いなか、なかなか進まないタクシー待ちの列に並びながら、まったくといってよいほど、収まってはくれない腸の痛みに私は必死になって耐えていた。。。
どうも、ツアーの添乗員さんも、空港の医師も、私の腹痛の症状を、少し悪いものを食べてしまっただけ・・・ぐらいにしか、認識してくれていないのではないか。。。そんな感じがしていた。。。そんなんやないのに。。。このとき、もう都合四時間以上もこの激痛に耐えている私は、どうしらよいのか分からなくなってきていた。。。
年末の桃園から首都台北に向かう高速道路は大渋滞である。。。普段、何も無ければ四十分ほどの道のりを、我々は渋滞のためおそらく一時間半ほどかけて、やっと台北の中心部にあるホテルに到着した。。。ロビーでチェックインのため少し待たされて、私たちは、ようやくホテルの部屋に車椅子で入った。。しかし、横になった・・・そんなぐらいで、この痛みが治まるはずがない。。。多分、疲れが出て、寝たら直るぐらいに思われていたのやろうね。。。やっぱり、痛い時は、我慢しないで、しっかりアピールすることも大事や。。。
日本人っていうのは、とかく、ツアーとかの団体行動中とかだと、他の人に気を使って、我慢してしまうことが多い。。。ただ、今回のような緊急事態なら、この選択肢は、下手したら、手遅れ・・・という最悪の事態になることがある。。。痛い時には、恥ずかしがらずに、素直に痛みを表現すべきだし、しっかりアピールすることも必要である。。。
ホテルの部屋に入って十分ほどしても一向に痛みは治まらない。。。あかんわ。。。救急車呼んでもらって。。。はじめからそうすりゃ良かったんや。。。ただ、このホテルのスタッフにこのことを言うと、なんと、このホテルのおとなりが台北市立の仁愛病院という大きい病院なのだという。。。救急車を呼んでいるより、行ったほうが早い。。。ホテルのベルボーイさんが車椅子に私を乗せ、日本語を理解するホテルのコンシェルジュの女の人が、私の通訳役をかって出てくれた。。。
お隣り・・・とは言っても病院へ行くには少し大きい目の交差点をわたっていかないといけない。。。車椅子に乗せられながら横断歩道を渡っていても、歩行者より車のほうが優先されるお国柄。。。日本じゃこんなことは絶対に無いだろうけど、車椅子に乗っている人でさえもお構いなしに車がつっこんでくる。。。ここは、日本と違うんや。。。って改めて痛感させられた。。。こっちの横断歩道の信号には、まぁ日本にもあるけど、あと赤になるまで何秒・・・なんていう表示が出る。まだ五十秒近くもあるのやけど、人の多い繁華街の交差点は車も多いけど人も多い。。。ただ、ここは台湾である。車椅子であっても優先してはくれない・・・。れっきとした中華社会なのである・・・。
私を乗せた車椅子は救急の病院入口から入った。。。あぁ、これでストレッチャーに乗れる。。。って思った私は甘かった。。。車椅子のまま、受付やら、診察やらレントゲンをうろうろ。。。向こうの年配のお医者さんいわく。。。この腹の出っ張りは、とても悪い。。。がんの可能性が高い。。。キャンサーっていう英語で癌を指す言葉は分かったから、この片言の通訳で、私は愕然となった。。。そりゃ、私は一年前に大腸がんをやっている。でも、その除去手術は成功していて、術後の化学療法も不要で、いろいろ必要な術後検査はさぼったこともなく。。。それが今更癌だ・・・といわれても。。。っていうのが、正直なところやった。。。
その後、エコー検査を何人もの医者さんがテレビ画面を見て、ここがどうやら、なんて言っているのやろうね。。。正直中国語はまったく分からない私にとって、ここでの医師の繰り出す質問の一割も言っていることが、分からない。。。おまけに意識も少し混濁している。。。ならば英語で・・・と思うのだが、その英語も一、二割ほど伝わっていたらええほう。。。ほんと意思の疎通に困って、泣きそうな気持ちになった。。。
この状況。。。私は何て不幸なのやろうか。。。日本ではない外国でなかなか意思の疎通もままならないまま、ひょっとしたら、私はこのまま、死んでしまうのではないか。。。そんな、いやな予感すらした。。。まさに、八方塞り。。。最悪や。。。
そんななか、ほんと助かったのは、辛(シン)さんという、ホテルのコンシェルジェの女性や。。。彼女は東京のホテルでの勤務経験が一年ほどあり、少ない語彙のわれわれ夫婦の意思確認やら質問疑問に、随分通訳としてけ、ヘルプをしてくださった。。。彼女がもしこの場にいなかったら、われわれは何も決められないまま貴重な時間を浪費しつづけなくてはならなかっただろうからね。。。
救急部門の責任者である少し年配の少し太った医師の見立てでは、私の小腸は腹膜から飛び出た状態でぎゅっと口をふさがれた状態になっている。この状態は大変危険な状態で、放置すれば、死んでしまうほど深刻な問題だ。いまここで緊急手術をするか、それとも、日本に帰国するまで我慢するかどちらかだ。。。我々は選択を迫られた。。。もし帰国待ち・・・となったら、五分五分ぐらいの確率で、生命の危険がある。。。のやそうや。。。。
後から聞いた話では、空港で痛み止めの注射をしたことは、今となってはあんまり良いことではなかったようである。この手の薬は、ぎゅっと締まってしまった小腸の腸の動きを止めてしまうから、小腸が壊死してしまうからなのやという。。。そんなこと、言われても。。。一番気の毒なのは、ヨメサンである。。。もう完全にウロが来ている。。。そりゃそうやで。。。台湾に入った途端にこんな大騒ぎ。。。生きるか死ぬかの判断を今すぐせよといわれても。。。そんな大事な判断、すぐには出来ない。。。人に意見を聞こうとしても、医者の妹は日本。。。。国際電話のかけ方もなかなか自信がない。。。そんな状況やったからね。。。
朦朧とした意識の中、嫁さんにいろいろ説明を聞いて、結局、私は、緊急手術をしてもらうことにした。。。いや、それしか選択肢は無かった・・・というのが本音かね。。。いざ、手術をやるとなったら、そこからが早い。。。向こうからしたら、何を迷っているのか。。。緊急手術をする選択肢しかないやんか・・・てなところかね。。。
まず費用は二十万から五十万ほどはかかる・・・とのこと。。。命に代えられない。。。了解。。。
救急の処置室の端っこでカーテンで仕切られてはいるものの、素っ裸にされ、術着に着替えて、手術前の検査。。。私には以前心筋梗塞とか大腸がんの既往症があるといったら少し嫌がられたみたいだったけど、念のためにいろいろレントゲンを撮る。。。あっという間に手術室に運ばれて、夢の中。。。手術は無事、一時間半ほどで終わった。。。
執刀してくれたのは、蔡先生という五十代ぐらいの男性の方。。。英語でしゃべってくれる。。。麻酔医の先生は、女性で、なかなか日本語が流暢やった。。。でもニ、三分で即オペ開始。。。尿道に管をつっこむけど良いか。。。無論、異論は無い。。。尿路、尿路っておっしゃって、どういえばわかるか・・・必死に向こうも言葉を捜してくださる。。。まぁ、ヨメさんに聞くと、手術はあっという間やったという。。。その間、いろいろと連絡したので、台北にいる友人も駆けつけてくれたというけど、麻酔が十分に効いていた私は、何も覚えていない。。。