海外緊急手術体験記<1>
2010年の2月12日、我々を乗せた飛行機は、関西国際空港をほぼ定刻に出発した。一見順調に見える今回の旅行のスタートも、私は、どうも尋常ではない腹部の痛み・・・に驚かされていた。。。私は、自身がやった大腸癌手術から、もう、ほぼ一年を過ぎていて、術後傷痕ヘルニアというのに、悩まされながらも、この一年間で、何とか平常に近い生活が送れるようになっていた・・・のやね。。。もう飛行機ぐらい大丈夫やろうという、、私の甘さもあったのやろう。。。
飛行機というものは、離陸後、だんだん高度を上げていくごとに、機内の気圧というのが、どんどん下がっていくものや。。。耳の鼓膜がペコッていうやつ。。。ちょうど、ポテトチップスの袋を飛行機の中に持ち込むと、上空に行くと、その袋がパンパンになるように、私の小腸内も多分、どんどん内圧が上がっていたのやろうね。。。前の手術の傷跡が原因で、腹膜のやや弱くなっていたところから、小腸が外へぐいっと、一センチほど膨れ上がってしまって、ちょうど腹筋の筋の隙間に嵌まり込んだような状態。。。つまり,小腸が閉塞した状態になってしまったんや。。。
私には普段、少しヘルニアの症状があったので、小腸が少しぬるっと外に押し出されてくるような感覚になることは日常茶飯事やった。。。だから、このときも、私は念のために、ちょっとキツイ目の腰痛ベルトを裏表逆にしてきつく縛っていて、これで大丈夫やと、タカをくくっていたのやね。。。
だから私は、また、いつものように、腹の上から腸をゆっくり押さえ込むと簡単にまたぬるぬると体の中に入っていくものやと思っていた。。。ところが、この日はいつもとは、随分勝手が違う。。。出っ張ってきた小腸を押さえ込もうと思ってもカチカチになってしもてこれが不可能や。。。それどころか、腸が筋肉に挟み込まれてしまっているので、痛いことこの上ない。。。のや。。。ヤバっ・・・。
飛行機は、私の腹の痛みなど、どこ吹く風。。。順調に高度を上げて、水平飛行になってくると、キャビン内では、カチャカチャと、機内食の準備が始まった。このとき、私たちは、本当に久しぶりに非常口横の前が広い席をアサインされて喜んでいた。。。ただ、今は、それどころではない。。。人間、あまりにも激しい痛みに襲われ続けると、冷や汗が出てくる。。。じとっ~とね。。。何とか、この苦痛から逃れようと、何度も何度もトイレに行くけど、少ししか胃の中には食べ物は無く、それを吐いてしまえばあとは胃液だけ。。。下から出るものも、もう、ほぼ無い。。。
腸の痛み・・・っていうのを表現する言葉に、断腸の思い。。。っていうのがあるけど、ちょうどそれに近い。。。もう、七転八倒の苦しみっていうヤツ。。。私は、耐え切れずに、少し朦朧としてきた意識の中で、エコノミー席の最後部へ行って、肘置きを跳ね上げて、横になるスペースを探した。幸い、この便の後部座席のあたりはガラガラ。横になりながらも、痛み続ける腸を締め付けられた部分を少しでも楽になる体位は無いかを探し続けたのやね。。。
関空から台北まで距離なんて、沖縄とそう大差は無い。。。国内線に限りなく近い、たかが三時間ほど。。。と思っていたのだけれど、いざ自分がこんな目に会うと、何と、この時間の、長いこと長いこと。。。何とか飛行機が、荒天の台湾桃園国際空港に、着陸したころには、もう耐え難い苦痛はピークに達していた。。。
この時の私には、ひよっとしたら、飛行機が地上さえ降りれば、機内の気圧が平常に戻るので、この痛みから解放されるのではないか・・・という微かな期待のようなものがあった。ただ、その期待は、飛行機がゲートに到着し、機体の動きが完全に止まっても、一向に私の腹の痛みは変わらないことで、無残にも打ち消されてしまった。。。
この地獄のフライトの時間。私はいろいろなことを考えていた。こんなことになるのなら、旅行を断念していれば良かった。今すぐ日本に跳んで帰りたい気持ちだけれど、もう引き返せない。。。飛行機はもう外国である台湾に着いてしまっているし、何とか早く医者に行って、この痛みを何とかして欲しい。。。そんな気持ちやった。。。
どこの空港もそうやけど、飛行機が到着してから到着ゲートまでの距離は結構ある。普通ならこれから入国審査とか手荷物の受け取りに向かう時は、少しでも早く・・・となるから、ちょっと乗客たちの足は小走り気味になるものや。。。この少し早いスピードが腹の痛みを持つ私にはちょっと辛い。。。やっと追いついた手荷物受け取りのベルトコンベア前で、私はどこか休める場所はないかと探したが生憎あたりには椅子一つ無い。。。仕方がないので、近くにあった手荷物を載せるカートの荷台部分に私は思わず座り込んでしまった。。。
本当は、この痛さからしたら、もう地べたに倒れてしまいたいような痛さやった。。。でも、そこは他人の目もある。。。まして、業界の団体旅行なのだから、同行者は、京都にある倉庫業を営む会社の社長さん方ばっかり。。。無様な姿は出来ることなら見せたくない・・・という意識が自然と出てしまう。。。でも、私の腹の痛みは、もうそんなレベルではない。。。アカンわ。。。添乗員さんに団体行動は無理だっ・・・て言いに行ってくれとヨメサンに頼んだ。。。
機内からヨメサンは、私の尋常ではない状態を心配してくれていた。海外旅行に出て、旅行はスタートしたばかりやのに、いきなり大トラブル発生。。。どうなるのやろう。。。不安でいっぱいやったのは、私もヨメサンも同じ気持ちや。。。どうしたらええのや。。。
かなり、ふらつきながらも、私は添乗員さんに連れられて、車椅子で空港にある医療室に連れて行かれた。。。そこでは、台湾人の女医さんが、聴診器を持って、私の膨らんだ腹部の音を聞いている。。。腸の動きが悪くなっている。。。とりあえず、痛み止めを打つ。。。私はオシリにちょっと痛いめの筋肉注射を打たれて、十分ほどで痛みが引くはず。。。という言葉を信じていた。。。でも二十分経っても三十分経っても痛みは治まらない。。。。ヤブ医者め。。。人に当たっても仕方がないのやけど、とりあえずこの激痛何とかしてほしい。。。アカンのか。。。