○アイアン・ホース/THE IRON HORSE

監督 ジョン・フォード

☆☆☆

出/ジョージ・オブライエン、マッジ・ベラミー、シリル・チャドウィック

silentfilmlivemusic.blogspot.com/2014/06/updating-era-of-railroad-dominance-to.html
上記HPより画像お借りしています。

 

 サイレント時代の映画を観る醍醐味のひとつに、エキストラ何人雇ったんだー!!? という驚異の画面作りがあります。

 もちろんCGなんて無い時代ですからとにかく目に見えるものは全て用意しなければならない。絵(当時からマットペイントって名称なのかな?)やスクリーンプロセスで騙す場合も多いですが、ロケ撮影の時なんかよく見ると(手前から1キロぐらい先の)奥にいる人たちが動いているのが確認できたりして本当にビックリします。

 プラスして、この『アイアン・ホース』のように牛だの馬だのまで相当数が投入されると「この現場の助監督はキツすぎて死ぬな……」と不吉な思いまで抱かされますよ!!

 そしてまあご覧下さいよ、背景の人物ひとりひとりに至るまで施されている演出。画面中央で行われている物語進行とは関係なく、隣の人と話しをし、なんだかご機嫌に歩いている娘さんを振り返り、まっすぐ歩いているかと思うとカクッと右に曲がるおっさんとそれに驚く人。劇場の大スクリーンで観る物であるという前提が成せる技ですよね。右上に小さく映る点がごとき人物の動きまで観客に観えるという緊張感。

 もちろん、こういった画面構成や演出の妙は後年になって映画を楽しんでいる僕たち現代の観客がより強く感じているだけの事です。当時はそれしか方法がなかったのだし、だから他と競って丁寧な演出が施されていたのでしょう。

 映画ならではの大人数であったり、本物の動物であったり。舞台との、小説との、ラジオとの差異。

 そんな驚異の数々!!

 だけでなしに繊細なドラマも紡がれていました。

『アイアン・ホース』においてもインディアンの人たちは悪役として(というか強盗団的に)登場します。しますが、そういう好戦的な部族もいれば鉄道会社の護衛に付く部族も登場してくる。普通に商売相手。

 東西ふたつの鉄道会社がお互いに出会う日を夢見て鉄道敷設を続けますが、一方の会社では働き手の殆どが中国人で、他方でも外国人の労働力が大いに投入された。労働力の中に白人はいなかった、という字幕も表示される。

 映画内で主人公は白人であり、他国の人やネイティブアメリカンの人たちが一個人として描かれる事はまだまだ無い映画ではありますが、訴えている事は分かり易く現代に十分通じます。

「あっち側とかこっち側なんて無いよ」

 という。どっちも同じ。国境だのなんだのなんて繋がっちゃえば意味ないから!

 で、映画の悪役としては主人公の父親を殺した人物が出てきますが、こいつが人種を偽って画策する人物なんですよね。最初はインディアンのひとりとして(メーキャップして)出てきて主人公の父親を殺し、次いでメキシカンの富豪として(メーキャプして)出てきて人々を誘惑して間を裂く、そして最後は主人公の目の前に本来の白人の姿で出てきて正体を晒す。

 このキャラクターってようするに悪魔ですよね。変幻自在に姿を変えて、人々に不幸をもたらしたり誘惑して道を踏み外させる。

 この道を踏み外す代表が、ヒロインの婚約者であるわけですが、踏み外す時の脚本も非常に丁寧でした。「鉄道会社に嘘ついたら沢山お金がもらえるわよ」と金で誘惑されるのですが首を縦には振れない。しかし気持ちが揺れているところへ魅惑の美女が肉体的な誘惑を仕掛けてくると、もうどうにも逆らえない。

 この人は取引に従って主人公を殺そうとする。崖の下に降りるために主人公に結わえているロープを斧で切断します。ロープが切れ、主人公の重みで結んでいた木から一気呵成に外れていくのを見た瞬間恐怖に歪む顔!

 ――おれはなんてことをしてしまったんだ。

 そして結局は生き延びた主人公が戻ってきて相対する時、浴びるほど酒を飲んだのもあって恐怖に体が震え続けている。いまさら許しは請えない……徹底的な乱闘が主人公との間で行われる。

 でも暴力に暴力で返してしまった主人公は、ヒロインと袂をわかつ事になってしまう。

 映画は、暴力が生み出すのは不幸だけだというのを強調する。

 主人公が父親の敵をついに取るその瞬間。相手の首を絞め、殺したその瞬間。一瞬前まで勇ましく争っていた主人公は、相手が息をしていない事に恐怖して、ただひたすら呆然となる。

 相手の死をもって終える争いに、勝利なんてものは無い。

 銃で撃ち殺すのではなくて手で絞め殺すという構成が絶妙ですね。お手軽な人殺しはスクリーンでエンターテイメントとして消費されてしまうので、主人公には文字通り手を下させる。

 ……っていうかインディアン(普通に商売相手)を大虐殺して奪った土地に鉄道を敷く工事を、外国人労働者たちに甚大な被害を出しながら続けた史実を元にした映画ですので、人の命を軽く描いてもらっちゃ困る訳ですが。

 はあ……金持ちが自分の土地に鉄道を通す為なら他の人の命や人生なんかどうでもいいっていう場面は、どうしたって塚田一郎国土交通副大臣(当時)による下関北九州道路、通称「忖度ロード」の事を思い出しちゃうし。なんか、観終えて暗くなっちゃった……。

 っていうか普段は「本物を撮影する事が優れているなんて事はない」と書いている僕ですが……やっぱり本物での撮影はスゲえなあ! と忖度して書いております(笑)。

filmint.nu/?p=8949

上記HPより画像お借りしています。

汽車が虹を渡る……完全にどうかしてるデザインが抜群。