○アフター・アース/AFTER EARTH

監督 M・ナイト・シャマラン

☆☆

出/ジェイデン・スミス、ウィル・スミス

https://en.wikipedia.org/wiki/After_Earth

上記HPより画像お借りしています。

↑本編でも非常に印象的だった台詞がキャッチコピー。考えすぎるとトランプ擁護発言みたいに感じてくる。

 

 えー、人類が地球を離れた後の世界。「母なる」地球よりも「後」の時代、という事で何故か「ええ加減乳離れせえよ!」という女性を踏み台にして成長する男を描いていますね……いや、あの、SFというか未来が舞台なのに家父長制スゴいね! みたいな描き方って逆に少ないというか珍しい……。

 

 はい。シャマランが大好きな「えっ、俺ってば世界に選ばれし者じゃん?」描写が炸裂しております(この映画の原案はウィル・スミスらしいですが)。

 特に酷いのは最初の方にある「撮影班が捉えた驚異の瞬間! 恐怖を感じないウィル・スミス!」の場面ですね。阿鼻叫喚の中、ゆっくり歩いて怪物を斬り殺すウィル。あのー、結構周りでみなさん殺されてるっぽいですけど……あ、撮影中ですか、はい、すいません。

 最近の人が無双がどうのという言葉を使ってますけど、まあそんなイメージですよね。スミス無双。

 敵は恐怖を嗅ぎつける盲目の怪物。人が恐怖を感じた際に出されるフェロモンを嗅ぎ分けて殺しにくる……。

SFなんだし、恐怖のフェロモンを薬で抑えるとか、肌に塗ったり身につけることでフェロモンの匂いを一時的にごまかすアイテムとか出さないんすか?」

 という突っ込みは置いておいてもですね、ジェイデンが覚醒する場面から発散されている「描いているテーマと描写が決定的にズレてしまっている」匂いを嗅ぎつけてしまいました。

 SFだけどガジェットの電波状況悪いので腕を空に向かっていっぱいに伸ばす(中継基地とか近くにあるのかな?)、という衝撃的な描写もさる事ながら、ジェイデンがゴーストを体得してしまう描写が大問題。

 あの、日ごろ尊敬する父親の背中を追っていたお姉さんが目の前で殺された時、自分はカプセルに隠れていた、というのがトラウマになっている訳ですね。

 ウィルも家族を守れなかったふがいない自分に腹が立つあまりジェイデンともギクシャクしちゃって。

 で、これの答えが「ジェイデンもウィルっぽくなる」なんですよ。

 いいですか? 娘も息子も父親に憧れて背中を追っていたが、娘は戦って死亡。息子は隠れていたので生き延びた。

 息子が見るお姉ちゃんの夢が「起きろ」だの「カプセルから出る時だ」だのと言いますが、悪夢として演出してましたよね(後で手のひら返すけど)。

 あのやたらでっかい鳥が「まあうちの子の事も守ってくれたし、見た事ない生き物だけどあんたも子供なんでしょうから守ってあげましょう」という場面もありましたよね。動物だって命の大切さを知っている。

 これ、ジェイデンが出す答えがウィルと同じじゃ駄目でしょ。

 お姉ちゃんはジェイデンより出来が悪かったから死んだのかい?

 違うでしょ?

 誰かを守る為の闘いは尊い、みたいな着地をさせているんだと思うんですけれど、この考えには凄い違和感があります。

 一番良いのはお姉ちゃんとジェイデンが怪物から一緒に逃げて、いまも一緒にいられる事でしょう? どうしてもそのチャンスがないと判断したから、お姉ちゃんはジェイデンだけでも助かるために戦ったんでしょう?

 戦いたくて戦ったんじゃないでしょう?

 だから父親とも母親とも姉とも社会とも違う、自分だけの答えをジェイデンに見つけて欲しかった。

 逃げる事の何が悪いんだよ。隠れる事のなにが悪いんだよ。

 こう、原始時代っぽい環境が舞台なんだから、この逃げ隠れすんのは死なない為じゃんっていう考えがより強調されて良いと思うんですよね。

『ジュラシック・パーク』を観ていてさ、「博士たちは逃げてばかりで弱虫だ」なんて思わないですよね? よもや子供たちに向かって「さあ、恐竜どものケツ蹴り上げてやりな!」なんて言わないですよね? 「逃げろ」か「隠れろ」もしくは「頭を使って生き延びろ」じゃないの? 言うとしたら。「やり過ごせ」とか。

 で、ジェイデンにも「頭を使って生き延びて」欲しかったですね。突如ゴーストを体得するのではなくて、父親とは違う手段で自分自身を救って欲しかった。

 この文句って映画の前提条件にも必須な筈なんですよ。人類が現在住んでいる惑星では敵対する生物が居てその人たちが人類抹殺の為に作ったのが、恐怖のフェロモンを察知する怪物な訳ですよね。

 ……って事は、この映画では実質何一つ問題は解決されないまま終わっている。人類が敵対する先住民に対してまたひとつ(ひとり)兵器を手に入れたというだけの話になってしまっているんですね。

 あの鳥の場面、結構感動したんですよ。自分の命を賭して、知らない子を守ってくれるっていう。で、マントヒヒの死体の山を映したり、ひな鳥たちの死体の山を映したりしてる訳ですよこの映画は。あの場面からジェイデンは何を学んだのか? 感じたのか?

 なんか現状の映画だと「ただただあの怪物が怖くなる憎くなる」為の描写にしか観えない。地球に不時着して、人類居ないから動物や植物が増えまくってて、そんな景色に感動するって場面も最初の方にあった筈なんですけどね。

 生とか死から見えてくるものって、命の重さとかだと思うんすけどね。

 視力も与えられず、恐怖を察知して相手を殺す事だけを目的とした生き物。共存は出来ないかも知れない。一緒に居たら殺されちゃうだろうし、現状発信器どうにかしたいから邪魔。でも絶対的優位に立っているのに、殺す必要あったのかなあ。

 ……お姉ちゃんを殺されてるってのもあるし、まったく筋が通らない話運びではないんですけれど……せめて格好良く殺すんじゃなくて、殺した相手に対して涙を流すとか「ごめんキミは悪くない」とつぶやくとか……<寄生獣>のパクリですが……息子の成長を表すのに何かしらの命が失われる必要あったかなと。

 

 とまあ、決して褒められた映画でもないんですが、嫌いではないです(笑)。

 映画冒頭が墜落から始まるのは本当に良かったし(ただし3日前に戻るのは駄目だなあ)、なによりジェイデンとウィルの演技がとても良かった。

 ジェイデンはちょっとやり過ぎなぐらいビビりである事を見せる演技で、これは盲目だけど慣れてる土地柄というのをやり過ぎなぐらいの駆け足で見せた『ヴィレッジ』のブライス・ダラス・ハワードを思い出させますね。新人に近い俳優たちの、力入りまくりな感じもあって結構良いんですよ。

 ウィル・スミスは軽口をたたけない軍人演技。ちょっと家族の思い出がどれもこれもキラキラ甘いやつばっかなので「どんな家族だったか」ってのがさっぱり伝わってこないのですが、まあ愚直に真面目な性格がイジられているパパってのはわかりますよね。

 でまあ、『サラマンダー』っていう映画でもクリスチャン・ベールがそうでしたが、冒頭で「なんかのテストに落っこちる」という描写がある。早い話が「親の期待に報いられない自分」っていう事です。

 いやいや、後年命のやり取りしてる時に「ああ、そういえばテストの成績悪かったな……」なんて思い出しますかね?

 仮に学業で親の期待に背いたって事を描写したいなら、1回のテストじゃなくて数年にわたって努力しても成績が良くならないっていう描写にしないと駄目じゃないかなー。『アフター・アース』でも3年連続失敗してるとかにしないと、「まあトラウマもあるし良いんじゃない?」としか思えないわけで……むしろ傷心の息子に怒鳴り散らすウィル・スミスが大人げなく感じちゃう(演技は良かったんですけどね)。

 そもそも、産んでもらったし育ててもらった義理もあるので親の期待は絶対に応えなければならないものざんす! なんていうのはナンセンスでしょ。誕生前に「産んでくださーい」って頼んだわけでもないでしょうに。

 っていうか話のフリがマンネリなだけか。ハリウッドよ……。

 あ、あとシャマランと言えばな音楽のジェームズ・ニュートン・ハワードも凄い良かったですね。基本聞いたことある感じの劇伴が流れるんですけれど、この変にSFっぽくしなかった戦略が凄い上手くいっていると思います。

 あと外せないのがデザイン。なんかプライバシーはどうなってんの? と思う網々なデザインが家から宇宙船から施されていますが(なんとドアがない!)、これスゲえ良かったです。なんというか近年の映画では、現実に即した描写やデザインがどうしてもありがたがられる傾向が強いので、ケレンミたっぷりの映画が観たい向きには不遇の時代なんですよね~。

 だからもう、ただただひたすらにセンス・オブ・ワンダー! なこの映画の美術は観ていて心躍らされましたね。宇宙船の見た目はダサかったですが(よくある魚に似せる的なやつ)。

 あとウィル・スミスの外見ねー。無精ひげ無しのツルんとした無機質な感じが目新しくて良いよい。やっぱ作品ごとに外見を作るってすごく大事ですよね。

 しかし食事の場面で、ウィル・スミスがお箸使えないからいつまでも食べ物を口に運ばないんですよね……そこは別にフォークでもなんでも良かったんじゃ。

 

https://www.huffpost.com/entry/m-night-shyamalan-after-earth_n_3354951

上記HPより画像お借りしています。

↑キャリアのどん底に居た頃のナイト監督。再ブレイクおめでとうございます!

 

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