塾の仕事をして30年以上になるが、先生方の夏の学習交流会に初めて参加した。
参加順に紹介すると
①子どものネットリスク教育研究会イベント「子どものためのICT教育の充実を」
②全生研全国大会「子どもが子ども時代を生きる権利が保障される学校をつくりだそう」
③全日本教職員組合などによる実行委員会主催「みんなで21世紀の未来をひらく教育の集い」
「熱心な先生方は、夏に、こういう学びをどっさりされるのだ」と、独学でやってきた私には、羨ましくさえ思えた。
オンラインだからこそ参加できたのだが、条件が許されるなら、来年以降も参加していきたいと思える有意義な時間であった。
中でも私が注目したのは、「GIGAスクール構想」に基づくICT教育の実践であった。
誤解を恐れずに言えば、全体に2極化しているという印象だった。
一つは、子ども達が主体的パソコンの良さを知り、主体的に使って授業を進めようという実践報告。
もう一つは、なぜ、小学生からパソコンを使った授業をする必要があるのか?という懐疑的な立場からの発言だ。
前者では、教育委員会の研修で、「オクリンク」「ムーブノート」などのアプリを知って、その凄さにびっくりする先生方の様子が報告されたり、
ICTの利活用を前提に「よき使い手」を育てることを主張する研究者からの報告がされたり。
後者の傾向は、こうした前者への批判として出された感が強い。
実は、この私も「後者」に属する。
この中で報告された「デジタル・シティズンシップ」には強い疑問を抱く。
こうした傾向の研究者の文章を紹介した書籍に『デジタル・シティズンシップ』(大月書店)がある。
「デジタル・シティズンシップ」を直訳すれば「デジタルの市民教育」。
この本の著者の一人である坂本旬氏は、例えば次のように述べている。
デジタル・シティズンシップは単なる「情報モラル」の言い換えではなく、STEAM教育や
1人1台のPC環境の整備など、ICT教育をより前進させるために不可欠な施策だ。
私も度々書いてきたが「STEAM教育」は、経済界の要望を学校教育に反映させた内容であり、教育現場からの発想ではない。
こうした施策に無批判のまま、「ICT教育をより前進させるために」デジタル・シティズンシップを位置づけているのだから、これは当然批判されなければならない。
また、やはり著者でもある今度珠美氏は、別の雑誌でこう述べる。
「GIGAスクール構想」とともに学校への「1人1台端末」の導入が急ピッチで進んでいますが、
ICTが日常の隅々にまで浸透している現代に、子どもたちにどんな力をつけるのか、
まだ十分に議論されていないように思います。(全日本教職員組合「クレスコ」7月号より)
今度氏は、前掲書の著者の一人でもある。
もしも坂本氏のように、「GIGAスクール構想」や経産省の「未来の教室」に無批判であるなら、今度氏は子どもたちにどんな「力をつける」と言うのだろうか?今度氏の話からは「どんな力をつけるのか」という教育の内容が聞こえてこない。
更に今度氏は、雑誌インタビュアーからの「私の高校時代には『勉強の邪魔になるから』とスマホは持ち込み禁止でした」という質問を受けて、こう答えている。
日本では、「間違った使い方をするのではないか」と、どうしても規制、抑制してしまいがちでした。
子どもを信頼し、よき使い手になるためによさを生かす、という視点が欠けていました。
すごくもったいないことではないかと思います。(全日本教職員組合「クレスコ」7月号より)
昨今、視力や大脳の発達阻害が叫ばれている。だから、この発言には驚く。
極端な例だが、「アルコール」については、子どもに規制せずに「良き飲み方」を教えるべきだという方は、まずいない。
「スマホ」も発達を阻害する可能性があるのだから、「禁止」も含めての検討が必要なのではないだろうか?
少なくとも、細心の慎重さが求められるのではないだろうか。
こうした傾向に対して、一方でICT教育の現状に批判的な立場からの提言もあり、私自身も大変勉強になった。
その一人は山極寿一氏だ。
「教育のつどい」の全体会で「教育の原点」をテーマに基調報告をされた。
氏の理論については私も紹介してきているのでここでは触れないが、氏は基調報告の最後に「五感も含めた共感の関係を築く」ことの重要性を強調された。
また、東京大学名誉教授の佐藤学氏の提唱は興味深い。
氏は近著『第四次産業革命と教育の未来』(岩波ブックレット)の中で、ICT教育について、こう語る。
ICT企業や教育産業が開発し提供しているICT教育は、「教える道具」としてのコンピュータ教育の
伝統を継承したものが圧倒的に多いのが特徴です。なぜでしょうか。その最大の理由は、
IT企業や教育産業の推進するICT教育は、つまるところ教師の代替をコンピュータに求めて
いるからだと思います。教師の代替をコンピュータに担わせることによって、IT企業と教育産業は
教師の人件費分の収益をあげることができます。そのためIT企業と教育産業のICT教育は
機械的な学びになりがちです。
氏は、コンピュータが教育に導入されて以来の伝統を批判的に分析した上で、「教える道具」としてではなく、「思考と表現の道具」として活かす方向を提唱する。このような立場での具体的な実践例がもっともっと研究的に蓄積されなければならないと思う。
いずれにせよ、全国の教育現場と家庭に、否応なくICT教育が強制されている。
子どもたちの発達を育むために、どのようなICT教育が必要なのか、実践だけではなく、もっともっと意見交換の場が必要だと思う。
そして、授業の実践に必要な視点を研ぎ澄まし、それを共有してゆく努力が求められるだろう。
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