今日は『東南アジア史[増補新版]』を紹介します。
もうそのとおりそのまんま、これを通読すれば東南アジア史の概要がつかめます。
ただ、この本を読み終わったあと、この“東南アジア”という枠組みそのものが、後からはめられたものなのではないか、とも思いました。文化やそれまでたどってきた交流の方向が、地域によって文字通りバラバラなのです。古代から近代前までの地域史に偏りが見られるのも、そうしたことが原因でしょう。記述の少ないフィリピンは、スペインの征服によって事実上、近隣の勢力との交流が事実上なくなってしまいました。まあその以前にインド文化や仏教文化がたどり着かなかったことも大きかったでしょうが。
また、太平洋戦争に伴う日本軍の侵攻について、その現象自体こそ独立の「酵母」(p.151)と表現されていますが、全体から見れば記述量は驚くほど少ないです。そりゃ深く掘り起こせば(“いいこと”であれ“わるいこと”であれ)日本人が言いふらしたいことは山ほど出るでしょうが、東南アジアにとって、あの戦争は結局きっかけでしかなかったということでしょう。独立後の発展が他国の手を少ししか借りずに行われたことを考えればなおさらです。
さて、この本は元々フランスのクセジュ(モンテーニュのセリフで、「わたしは何を知っているか?(=何も知らないではないか)」)シリーズの一冊です。百科事典のようなラインナップと質の一定しない翻訳でその方面では有名です(苦笑)。大学時代に結構買いました。ズバリなタイトルが却って魅惑的なんですよね。
こういう“ズバリ基礎知識”がそのまんま結晶化した本って、今の日本には少ないような気がいたします。
Una cuestión que el Sudeste Asiático debe pensar actualmente es cómo establecer el estado nación.
(現代における東南アジアの課題は、いかにして国民国家を確立するかにある。)
『東南アジア史[増補新版]』
レイ・タン・コイ、石澤良昭訳
白水社文庫クセジュ
高さ:17.6cm 幅:11.7cm(新書判、カバー参考)
厚さ:1.5cm
重さ:190g
ページ数:193+ⅵ(参考文献)
本文の文字の大きさ:3mm
追記:2012年7月16日に記事の修正。