例の女子高生「眠り姫」がこのようなものを持ってきた。
「はい、おみやげ!」
「なんだこりゃ?」と言ったら、軽蔑感丸出しの目でこういった。
「しらないの?ミャクミャク。万博のお土産だよ。」
「え?いつの間にか、万博に行っていたの?家族で?」と言ったら
「一人で。」との答え。
「え?女子高生のお前が一人で?新幹線で日帰りか?」と言ったら
「女子高生はそんなにお金持ってないの!夜行バスで一人で行った!」
私は驚いてしまって
「宿泊とかどうしたんだ。万博の周辺はどこもいっぱいだろう!」と
言ったら
「電車で30分以上行けば、泊まれるところはある!私は押し活で、
そういうのは得意なの!」
恐るべし。今日日の女子高生の行動力。私も高校の時は野宿したりと
相当に奔放な学生時代を送ったが、それに匹敵している。いや、女子高生
ということを考慮すればそれ以上だ。そして、万博に行きたかったが、
「どうせ、もう、新幹線も取れまい。宿泊宿だって、いっぱいに決まって
いる。いや、万博の会場だって入れないかもしれない。」と勝手に決めつけ
あきらめていた自分が恥ずかしくなった。
「女子高生、なおもちて一人万博に行く。いわんや、ぼっちオヤジをや。」
という親鸞の悪人正機説顔負けセリフが脳裏をよぎるようになったのであった。
すぐに万博の会員になって、ログイン。土日と入場券ゲット。しかし、
入場時間は両日とも午後12時過ぎにやっと入場できるチケット。
パビリオンの予約は全然だめだ。だけど、現地入りしたらきっとなんとか
なるだろう。で、すぐに新幹線とホテルの予約。眠り姫の言っていた通り
会場から乗り継ぎ40分のところでホテルが取れた。
早速、眠り姫に報告。「俺も、俺も行くぞ!万博。お前に行けて俺に行け
ないわけがない!」
彼女は思いっきり冷ややかな目で
「二日も行くの?じいちゃん、疲れて死んじゃうからやめな。」
「じいちゃんって、誰だ!俺はお兄さんだぞ!」と言ったのだが
冷ややかな目はいっそう冷たい目になっただけであった。
さて、新幹線に乗車。おじさん、うっきうっきワックワク♪
ああ、だんだん町中の景色が
風光明媚な田舎の景色に変わっていくぞ。さらば日常!
スマホの地図を見ながら、「そろそろ、そろそろ」と心胸躍る。
「見えた~ 富士山だ。こんなに近くに富士山だ~!」
雲も薄れて良い感じ。ビール飲み飲み、おっちゃん最高潮。他のお客はきっと
ヤバイ、ハイテンションオヤジだと思っていたに違いない。そう、おそらく、この
万博行きで、私にとって一番幸せな時間だったような気がするなあ。この時が。
東大阪着。ここから乗り換えが分かりにくい。駅内を駅員に聞きながら相当に
歩く。ここで間違えると、申し込み会場入り口の正反対に行ってしまうことになる。
でもなんとか、夢洲駅に到着。あとは、大量の人込みに押されるだけ。そう、
まるで人間ベルトコンベアーだ。
左の開いているエスカレーターは下りね。さすがにこの時間帰る客はいない。それに
比べ上りは完全な人間ベルトコンベアー。立ち止まることすらできない。
駅の外は、灼熱地獄と人の列。
ここからが本当の地獄であった。そう、大げさではなく灼熱地獄。この炎天下
アスファルトの上で延々と待機させられるのだ。私は12時入場のはずなのに、この
まま午後1時半まで1時間半、この熱地獄で立ちっぱ、なのであった。
要領の良い地元の関西人たちは、みんな日傘を持っている。椅子を用意している
方々もいる。もちろん、大きな魔法瓶に冷たいドリンクをもって、ぐびぐび飲んで
る。ああ、関東から来た私は、飲み物もろくに持たず、もちろん日傘も
椅子もなく、この灼熱の状態で待機するだけ。あちらこちらで、救急車のサイレン
が鳴り響き、誘導員は「気持ち悪くなったら、即座に言ってください!」と絶叫し
ている。もう、この世のものとも思えない。これは、たぶん、死人も出ているよう
な気がするなあ。熱したフライパンの中を数千人の人がひしめき合って焼けていく、
という感じでございます。もちろん日陰は一切なし。ここら辺から、朦朧とした
意識の中で、あの女子高生の「じいちゃん、死んじゃうよ。」という幻聴が鳴り響
くようになる。それでも、行列はナメクジのような微々たる速度で進み、やっと
日陰のゲート前にたどり着く。
見よ!ゲート前のこの恐ろしい真昼の太陽の業火を。
「私をさえぎるものは、なにもない!」という感じ。7つの大罪のエスカノールは
すぐに無敵モードになれるだろうなあ。
これ、ゲートまでの地獄の状況が読めなかった関係者、万死に値すると言えよう。
検査前の行列。まあ、これでも「日陰」に入れただけでもうれしい。
で、厳重な持ち物検査。なんかね、この酷暑のなかで、テロを行うやつも
いないと思うの。
ゲートの中に入って、すぐにしたのは、飲料の販売機を探すこと。これは本当に
脳梗塞でも起こしてしまう。やっと見つけたら・・・・販売機前も大行列。
もちろん日陰なんてありません。これ、配慮しなかった奴らも万死に値する。
で、やっと私の番になって、販売機で買おうとしたら・・・・
じゃ~ん。現金が使えない!いや、私のような「いつもニコニコ現金払い」の
古生物にとって、これは痛い。いや、そのような噂は聞いていたので、一応
クレジットカードは持ってきていたのだ。また、スマホに登録もしてみたのだ。
だけど、両方とも使えない!使えないのだ。販売機を目の前にして、喉も干上がった
炎天下に、水の一滴も飲めない!私が絶望していて、振り替えると、私の後ろには
すでに長蛇の列が・・・・・・
さすがに、私の後ろのお兄さんが、見るに見かねたのか、それとも自分も早く
飲料を買いたいからなのか、「どうしました?」と優しく声をかけてくれた。
「苦、苦、苦レジットカードが使えない。」と、涙目で訴えると、その人の
良さそうなお兄さんは、私のクレジットカードを使って試してくれた。
「駄目だ。このクレジットカードはこの販売機では使えないようです。他に
何か、カードはお持ちですか?」と。
私は財布から全部のカードを引っ張り出し、そしてとうとう見つけたのだ。
「もしかしたらスイカは使えますか?」と。
そして、スイカは使えたのだった。まさに地獄に仏のスイカカード。
ただし、5千円しか入っていなかったが。
で、それでも背に腹は代えられない。麦茶ペットボトルを購入したので
あった。
しかし・・・・あまりに商品回転の速い自販機の商品は、案の定ぬるかった・・・・
でも、やさしいお兄さん、ありがとう!あなたのことは決して忘れない。
そして思ったのだ。「もしかしたら、私はこの万博会場で使える金額は
スイカに入った5千円だけなのか。」と。そして相変わらず、女子高生の「じい
ちゃん、死んじゃうよ。」というセリフは脳内で再生され続けるのであった。
続く