まだかろうじて夏の面影を残す9月の森林公園。さて、この日も例によってこの公園のベンチでランチなどを。

あれ?前方の木になにやら緑色ものが・・・・パタパタなにか羽のようなものが風になびいているし・・・・私はすぐに双眼鏡で観察し超望遠で撮影。

しかし、完全に太陽の反対側で逆光で白っちゃけている。

しかたないので、近くに行ってフラッシュで撮影。

みなさん。これが何かわかりますか?これはカビだらけのアブラゼミの遺骸です。

けど、不思議だと思いませんか?木にしがみついたまま死んでいるセミなど見たことがあります?だいたい、セミの死骸はアスファルトの路上で転がってますよね。人だとしたら「立ったまま死んでいる」とか、(弁慶以外)いましたか?つまり、このセミは死んでからカビに食われたのではなく、「生きたまま食われて、その際木にしがみつくように操作された」のです。このカビはおそらく「メタリジウム・シリンドロスポルム(Metarhizium cylindrosporum」冬虫夏草の一種で、もしかしたらセミが幼虫時代にすでに体に寄生していて、陸上に出た時に一気に成長を早め、セミを操作してなるべく高い木に、それも干からびないように太陽の日陰側にとまらせ、脚の筋肉をしっかり収縮させ木にしがみつけて、そのあとは脚から菌糸を伸ばして幹に固着させたのでしょう。このカビにとっては最高の苗床を完成させたのです。もし、地面に落ちたら、このカビは他のカビ類や動物の餌になってしまう。高いところだとそれを回避できるうえ、胞子を遠くまで拡散できる。太陽の直射だと自らも乾燥で死んでしまうので、しがみつくのは幹の北側。本当に恐ろしいほどよくできています。え?考えすぎだって?

 

いや、そういう人たちは、寄生生物の恐ろしいまでの精緻な戦略を知らない。たとえば、「フクロムシ」と言うカニに着く寄生虫。(写真はネット上からお借りしました。このお腹に着いた「まるでカニの卵」のようなものが「フクロムシ」)

これがカニの雌に取りつくと、その雌カニは、まるで自分の卵ででもあるかのように甲斐甲斐しく世話をはじめ、フクロムシを育て続けます。え?では間違えて雄カニに取りついたらどうなるのかって?するとフクロムシはホルモンを分泌してその雄カニをメスに作り直します。そして「疑似メス」になったカニは、死ぬまでそのフクロムシを甲斐甲斐しく育て続けるのです。取りつかれたカニの生殖能力は奪われ、自身の子孫は作れません。こういう「悪魔のようなシステム」って、本当に自然選択だけで完成するものなんだろうか?とか思ったりします。というか、生物学を学んだ人間なら、この「迷い」に似た感情はいつも抱き続けると思いますよ。それだけ生物というのは不可思議な存在なんです。

 

そうそう、人も他の生物に操られることが無いとは言えない。人の腸内に100兆~1000兆の細菌類が住んでいます。これは人自身の細胞数よりずっと多い。これらが私たちの生体に大きな影響を与えていることがわかってきました。いや、もしかしたら「精神」にさえ影響を与えているかもしれない。最近はプロバイオティクスの延長で、「サイコバイオティクス」としてその研究が進んできたようです。まだ「眠りが良くなる」とか、「鬱に効果がある」とかレベルですが、そのうち、もっといろんな事がわかってくる気がします。かように、生物同士と言うのは複雑に関連しあっているものなんです。なんといっても僕らも、腸内細菌群も、その他週百万種に上るだろうありとあらゆる生物種も、40億年前にたった一つの細胞から分かれて分化してきた同じ「地球型生物」の兄弟ともいえる仲間なのですから。ある意味、手の内はお互い知り尽くしているのです。