この時期、どうしても新緑香を思いっきり吸いたい!一年分の新緑香を
体にため込んでおきたい。いつもはこの時期、
福島の山の中で新緑香風呂に浸かる感じで、一日中ほっつき歩いているころなのだ。
そして、某月某日、近場某山行きの計画を立てたのだ。
もちろん、必要なものは全部柏で調達して、車で行って、できるだけ人との接触を
控える。ここには、私が勝手に「秘密基地」と呼んでいる場所が3か所あり、そこに
飛び込んでしまえば、まず人との接触はない。また、山に行ったら、遭難したときに
みんなに迷惑をかける、という意見があるが、ここなら、いざとなったら私の足で
直接山頂から自宅へ歩いて帰って来る事も不可能ではないので、迷惑をかける事も
あるまい。
途中、この某山が美しく見える私の好きな場所。もちろん誰もいない。新緑の匂いと
むせかえるような夏草の匂いが場所により錯綜してちょっとくらくらする。
ここは本当に良い所だ。
あれ?あの白い泡みたいなのはなんだろう。
う~ん。
と、考えていたら、ちょっと突風が吹いて、私の方に雪のようなものが
沢山舞ってきた。ちょっと幻想的な景色。
これは、何か植物の種だね。
さて、このまま「秘密基地No2」へ向かう。ここは前回、前々回と閉鎖されて
いた所だ。不届きものが道を横切る横断側溝の鉄の蓋を全部盗んでいったため、
通行不可になっていたのだ。 二度と立ち入りできない、と思っていたのだが、
なんと通れるようになっていた!万歳!
(後日談。とある筋から得た情報では、犯人が捕まった、とのことであった。
なんでも親子で夜中、鉄の塊である横断側溝の蓋を運んでいたらしい。
総重量、トン単位の鉄の塊を、夜中彼ら二人で運んでいることを思い起こすと、
ある種のもの悲しさを感じるなあ。膨大な労力に対して、大した金額にも
ならないだろうに・・・・・・)
で、さっそく、お店を広げてランチタイム!もちろん、これらは柏で買ってきましたぜ!
普段は、どっかに行ったらできるだけ現地で金を落とすべく地元で購入するんですが。
こういう、萌えいづる緑の中での食事は日頃の疲れを癒してくれます。
いや、マジで。私が死んだら、魂魄こういうところにとどまりて、森の
中を放浪し続けるかもしれませんです。
ああ、何度も深呼吸してしまうよ。麓と違い、ここら辺は草の匂いは
せず、純粋に新緑の香りだ。この時期の森は、わずかに柑橘系の
匂いがまじったり、微妙に不快ではない発酵臭がまじったりで、嗅い
でいるだけで気が遠くなる。山中は閉鎖で歩けないので、車道だけ
なのだけど、その車が全く来ないので静かなのだ。この形状のため
なのか、左の山頂側の深い森から新緑の匂いが落ちてきて、この道に濃く漂うのだ。
おお、オトシブミ。
これを「落とした文」とした古の人は素晴らしいね。いっぱいあったよ。
※ オトシブミとは、ゾウムシの仲間で、葉っぱで作った幼虫のゆりかご
だ。なかに卵が入っていて、幼虫はこの葉っぱを食べて成長する。
と、道をオオゾウムシが歩いている。2センチ以上ある、日本最大のゾウムシ。
さて、この時、誰かが私の横を通って行った。めったに人のこないところなので
ちょっとびっくりして身構えた。その人は先にいってしまい、私も気にせずゆっくり
歩いて行ったのだが・・・・・・前方にその男の人が私に背を向けて立っていた。
その背を見た時、何やら異様なオーラが感じられ、私の「妖怪アンテナ」が激しく
反応を開始した。ヤバい、何かヤバい!まさかコロナウイルスの化身ではない
だろうが、関わらない方が良さそうだ。私は立ち止まっている彼を横目に、先を
急いだ。と、そのすれ違いざま、「あなたなら、きっと私の
長年の疑問に答えられると感じました。」と
かれは私に言ったのだ。(原文のまま)
頭の中では「来た来た来た来たぁぁぁぁぁぁ!」
と警報音が鳴りっぱなしである。
いや、しかし考えようによっては、彼の妖怪アンテナも、私に対して十分に感応していた
とも言えるかもしれない。しかし・・・・私の人生、思い返すとこんなんばっかでんがな。
知らない人にどうしてこうも声をかけられるのだろうか・・・・・
大学生の時なんか、見知らぬおっさんに突然告白されたことがあった。
「実は、私、たった今、女房に逃げられたんです。」
し、知らんがな~。いや、もしかしたら、私がいまだに独身なのは、あの時、あの男に
呪いをかけられたのかもしれん。風邪みたいに人に呪いを移すと、女房は帰って
来るのか・・・・・・
さて、私はコロナを気にして彼とは3mくらい距離を置きながら、「はぁ?」と答えた。
「あの森の木に巻き付いているツタがありますね。あれは何でああなっているのですか?」
(写真を撮るゆとりがなかったので図でごめん。緑色の奴がツタね。)
私は、何を言っているのかさっぱりわからず、
「なぜ、上に向かって伸びているか、という事ですか?それでしたら
一般植物には『重力屈性』という特性があって、重力にあらがうように
上方に伸びていく性質があるからだと思いますが・・・・・」
と、けっこうマジに応答したのであった。
すると彼は
「いや、そんな事ではないのです。強度的に・・・・」
というので
「植物の体を支える強度は、一つはセルロースでできた細胞壁から来ています。
また、浸透圧で発生する『膨圧』も植物体の強度を高め・・・・」
すると、彼はちょっと苛立つように私の会話を遮り、このように
おっしゃった。
「そんな事ではないのです。私は、あのようなツタの中間形を見たことが
無いのです。ああなるまでにあんなに細いツタがどうやって上に伸びて
いくのでしょうか?ああなったツタは今まで何本も見てきましたが、
たとえば2メートルくらいの、上に直立不動に伸び立ったツタなど、私は
今まで一度も見たことがないのです。だいたい、ツタはあんなに細いのに
倒れないでどうして伸びられるのですか?」
つまり、彼はこういったツタを見たことがない、とおっしゃってると思われます。
私は、一瞬、彼の言った言葉から映像が頭の中に作りえず、かなり
頭が混乱した。そして、ひとつひとつ、言葉を選びながら、彼に話した。
「と言うと、あなた様は、あのツタは、最初から、上に伸びて、(太さは
たった2~3センチくらいなのに)5メートル、10メートルと成長して行く
と言っているのですね。それも、人の目に触れない、という事は、
ある時突然、ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅー、と伸びて、まるで意思のある
ムチのように、あの枝に絡みついた、とおっしゃりたいのですね。」
と、驚愕の表情を浮かべながら聞いてみた。
すると
「そうなんです。だけど、その光景を見たことが無いのです。いったい
いつそんな状態になるのか、と。そして、どうしてその強度を得られて
いるのか知りたいのです。」
彼の話を絵にすると、こんな感じですな。(絵心が無くてごめんなさい。)
私は言った。
「そんな、恐ろしい生物は、地球外生物です!だいたい、あんなに細くて
直立不動で5メートル以上まっすぐ上方に伸びていくとしたら、カーボン
かチタン合金製のツタです。それこそ地球外生物です!」
私は続けた。
「おそらく、考えらえる事はこうです。最初は、あのツタは、あの太い樹に
寄り添って成長を続けた。そして何とか、上方の枝に巻き付く事が出来た。
しかし、もちろん長くなるに従い、自重も増え、ある時、風かなんかで
幹についていた部分は落下、結局、枝にぶら下がる形で今に至って
いる。」
図にするとこんな感じですね。
しかし、いくら説明しても、彼の頭から滲みだしている、「ビュー―、グルグルグルッ」
と蛇みたいに枝に巻き付く「地球外生物ツタ」の映像を消すことはできなかった。
「そんなはずない。」の一点張りであった。
私は、フランシス・ベーコンの「イドラ(偏見・先入観)」そのものを見たような気がした。
人というのは結局、イドラから逃れる事はできない。すべて客観的と言われる事でも、
最終的に「脳」が情報処理をしている限り、真の客観性は担保できない。
実際にわが目で見たものでも、その映像は本当なのかどうか、実はわからないのだ。
(錯覚なんて、まさにこの典型ですね。)
かくいう私も偏見だらけの人間だから、この体験は非常に貴重であった。
自分が何かにとらわれそうな時、この経験がフィードバックされるように
脳内アラームと連動させとこう。
※ ↑しかし、こういったことも実は全部私の偏見で、実は、彼の言った通り、夜な夜な
人の居ない森では、ツタがまるで蛇のようにうねうねとのたうつさまが繰り広げられて
いるのかもしれません。まるで宮沢賢治の「月夜のでんしんばしら」のようですが・・・・
さて、ツタおじさんとわかれた後、「秘密基地No1」に立ち寄る。ここは絶対に人が来ない
ところ。ちょっとくつろいで、と。
なんか、もう夏っぽい空だね。
さあ、今日はいい一日だったね。得難い経験もさせてもらったしね。
非難を一杯受けそうだけど、少なくとも、柏で買い物に行くよりは
人に出会った数は1/10以下だったと思うので、お許しください。
もちろん出発前には体温計で熱も測ったし、パルスオキシメーター
で酸素飽和度も計測しましたです。もちろん完璧な体調で、コロナの
コの字もでなかったし、実際、出発から帰還まで、3mくらいまで人と接近した
のは、あのツタおじさんただ一人でございました。
おっさんと「濃密」な偏見関係を築いた、と言われたらそれまでだけれどもね。