はるか昔、ダメ大学生だった私の指導をして下さった教授が亡くなった。
同級生から知らせが届いたのは、実は、8月中、それも夏期講習の真っ最中
で、「明日、お通夜。」の情報だったし、先生の実家は静岡の菊川で、柏から
は相当に遠くて、とても行けなかった。ご香典は、すぐに送らせて頂いたが、
ちょっともんもんと過ごす日々だった。
さて、9月に入り、また別口からメール連絡があり。
先生の娘さんが、葬儀に出られなかった人のために、菊川の実家で「ご焼香」
の機会を設けて下さるそう。9月に入り、やっと少し自由な時間が取れるように
なったので、先生に最後のあいさつに出かけようと思い立ったのだった。
実は、卒業以来、うん十年、大学にはほとんど足を向けていない。研究室
では、正直、それほど良い思い出もなかったのだ。
卒業しておそらく5年ほどたったころだったか、先生から一度だけ電話が来た
事がある。かなり酔った感じで、開口一番こう言われた。
「北川君!君は千葉に来ても、研究室には立ち寄らないそうじゃないか!」
告げ口した奴の顔が一瞬脳裏に浮かんだ。しかし、浮かんだところで
どうしようもなく、ただ、「すみません。どうしても足が向かなかったのです。」
としか、言えなかった。心優しい先生は、本当は怒っていたのだろうけど、
酒の勢いのその一言だけで、後は文句は言わなかった。そして、それが僕が
先生の声を聴いた最後になった。
さて菊川。生まれてから一度も行ったことがない。いや、それどころか、静岡県
さえ、一度も行ったことがない。そうこうするうちに、当時の同窓からメールが来た。
「北川君、ご焼香に行くんだって?私の分の香典も頼みます!」
これが、迷っていた僕の背中を最後に一押ししてくれた。とりあえず、新幹線の
切符だけ往復で買って、その上、不謹慎だが、どうせ静岡まで行くのなら、一泊
して小旅行とする事にしたのだ。夏休みは夏期講習で地獄のような毎日。
本来、9月は温泉旅行に行く予定だったしね。で、どうせ小旅行なら、思いっきり
人の居ない、いつもの山とは違う海にしよう!と・・・・・・
新幹線は菊川まで、菊川からは東海道線に乗るのだけど、この途中で、できる
だけ海に近く、静かな、できれば近くにでも温泉がある宿を探してみた。
すると・・・・あったのですよ。用宗という小さな漁港が。宿も2件ほどあって、
漁港の近くにできたばかりの温泉もある!14日の晩はまだ部屋が取れそうだ!
即、クリック! という事で、大変不謹慎ではありますが、恩師のご焼香と小旅行
となったのだ。まあ、先生は「粋人」だったから、こういうのも許して下さるだろう。
しかし、面白いもので、菊川行きを決め、宿を予約した翌日、テレビをつけたとたん、
「NHKのど自慢」をやっていた。なんと、その時の会場が「菊川市」。
いきなりナレーターが菊川の紹介を始めてくれた。知りたい情報を知りたい時に
届けてくれた。それまで菊川なんて地名を聞いたこともなかったのに、シンクロ
ニシティとでも言うのかなあ。
続く