定期試験が近く、みんな10時過ぎまで残って勉強していく。
先日、10時半近く、来訪者があった。
「先生、お久しぶりです。」
おお、懐かしい、近くに住むY君だった。
彼は、中三の夏休み直前に親に連れられてやってきた。
「この子はもうゲームばっかりなんですよ。全然勉強しないんです。」
こ、この時期に・・・・チェックテストも散々で、基礎学力も✕。正直
引き受けるのは断ろうと思った。
しかし、このお母さんも近所で良く見知った人だったし、おばあちゃんも
いっしょにやって来て入塾を頼んできた。断ることはできなくなった。
その後の彼の努力の甲斐あって、偏差値52程度の近隣の公立高校
の理数科に合格を果たした。担任には、かなりの無理筋と言われて
いたらしく、親子ともども、相当に喜んでいた。
そして、それから明らかに彼は変わっていった。
ある日こう言った。
「中学時代に戻りたい。そしてそのころから一生懸命勉強し直したい。」
僕は、ちょっとゾクゾクした。サナギから蝶に変わるような、そんな劇的な
人の変化の過程を目撃しているような気がした。
高校では快進撃だった。常に成績はトップクラス。物理の試験で満点を
取ってトップになった時は、僕もうれしかったなぁ。
「受験には、英語も大切。いまから長文を読みこなせるように!」と
高2でセンター長文レベルは読みこなせるようにしごいた。
今から考えるとよくついてこれたものだ、と思う。
そして、高2も後半のある日、こう言ってきた。
「先生、僕、予備校に行って見たいのです。」
これは、残念だが、しょうがない事だった。大学受験に関しては、受験
情報だけでも予備校と、うちのような弱小塾では雲泥の差がある。
断腸の思いで、今後の受験までの方針を伝えて送り出した。
あれから一年ぶりだ。
「おう、どうした。」
「先生、推薦ですが、東京理科大学の物理科に合格しました。」
「おお、すばらしい、おめでとう!」
尽きせぬ話もあったが、生徒たちも残っていたので、「一般受験生と
推薦学生の間には、学力に相当の溝があるから、けっして気を抜かない事」
と伝えて家に帰した。
ただ、これは、いらぬ心配だろうね。きっと彼なら、これからどんなことがあっても
自分の未来の夢に向かって、ひたむきに走り続けてくれるだろうから。