ああ、明日からまた地獄の講習が再開される・・・・・・
私はあせっていた。とにかく部屋をかたし、明日の準備も
しなければならない・・・・

夜7時半ころ。いったん夕食のために塾の外に出ると、
見慣れぬおばあちゃんに呼び止められた。
「あの~、ここはどこですか?」

「うぇ?」

「道が分からなくなってしまったんです。」

もう外は真っ暗だ。

「どちらから来られたのでしょうか?」

「松戸なんですけど・・・・・」

「じぇじぇじぇ・・・・・・」

なんと、その83歳のおばあさんは、車で20分以上かかる
隣町からさ迷い歩いてきたのだ。

さて、どうしよう・・・・本人はまだ元気いっぱいなようで

警察は嫌いなようだった。

私の車は、間が悪い事にちょうどナビが壊れていた。

でも、そうも言っていられなくてとりあえず、マイ・おんぼろ・カー

に拉致し、松戸に向かった。

車中でおばあちゃんが話し始めた。

「昨日も道が分からなくなって、帰ったのは夜中の12時なん

ですよ。」

とか

「いつか、仙台まで歩きたいと思っているんです。」

とか、

「ええ、今は、一軒家に一人住まいです。」


おおおお。絵に描いたようだ。まるで絵に描いたような難しい

状況だ。

何度も警察に駆け込みたい衝動に駆られたが、本人は頑な

に拒んだのだった。

コンビニ等で道を聞き聞き、どうにか、おばあちゃんの言って

いた住所付近にたどり着いたのだった。

「さあ、おばあちゃん、おばあちゃんが言っていた住所ですよ!」

私は得意げに言ったのだった。

「ここ?どこがどこだか全然わかりません。夜だからかしら。」

「おおおおおお。おばあちゃんの言っていた住所だよぉ~ん。」

とにかく、二人でそこらへんを徘徊、おっと、探索していたとき、

おばあちゃんが、ゴミ置き場を指差し叫んだのだった。

「こ、このゴミ置き場には、見覚えがある!私は毎朝、ここに

ゴミを出している!分かりました。後はもう大丈夫です。」

「い、いや、一応、自宅に届けさせて下さい。そうでなければ

私は今晩怖くて眠れません。(原文まま)」

この時の声が大きかったのか、近所の窓がガラガラと開き、

しっかり眼を飛ばされてしまった。

「すみません。すみません。怪しい物ではありません。」

とは言ったけど、風体からして、どう見てもおばあちゃんを

かどわかす極悪人だろうなぁ。

家に連れて行ったときおばあちゃんは

「すみません。後日お礼に行きたいのですが、二度とあそこ

にはいけそうにありません。」と・・・・・

「いや、来なくていいですから。ではお元気で。」

私は、愛車に飛び乗り、道を迷い迷い帰ったのだった。

見知った幹線に出たときのうれしかった事。

新年早々、なかなかでございました。


だけど、あのおばあちゃん、一人だけでの生活は、

さぞ心細いだろうなぁ・・・