クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険。 | 江戸の杓子丸

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化け猫 杓子丸の大江戸見廻覚書


「クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険」

97分 日  1996年

監督 本郷みつる

製作 茂木仁史 太田賢司 堀内孝
原作 臼井儀人
脚本 原恵一 本郷みつる
音楽 荒川敏行 宮崎慎二
撮影 高橋秀子
出演 矢島晶子 ならはしみき 藤原啓治 渕崎ゆり子
    大塚芳忠 田中秀幸 古川登志夫 玄田哲章 ほか

【完全ネタバレ】



ケッ作!。☆☆☆☆★


〔ストーリー〕
 しんのすけはアミューズメントパーク“群馬ヘンダーランド”に幼稚園の遠足で出かける。しかしそこは地球を侵略しようとするオカマ魔女・マカオの本拠地だった。
 マカオの虜となっているメモリ・ミモリという女の子としんちゃんは出会い助けようとするものの、オカマ魔女の手下に妨害されてしまう・・・。




「クレヨンしんちゃん」劇場版第4作。

物語は、オカマ魔女・マカオとジョマによって囚われの身になったヘンダーランドの王女メモリ・ミモリ姫をお助けするため、しんちゃんが奮闘するという感じ。


この映画の白眉は、メモリ・ミモリ姫の心が入ったトッペマ・マペットという人形に助けてほしいと懇願されるも「怖い」としんちゃんが決心できず、ぐじぐじと悩むシークエンス。


しんちゃんの日常を追いながら、悩み心晴れないしんちゃんを丹念に描く。

前作「クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望(1995)」では、両親をビー玉にされ人質となったも同然だったから怖くても悪のボス・雲黒斎(うんこくさい)と戦うぞ、と即決できた。

今回は、オカマ魔女・マカオの部下、ス・ノーマン・パーに襲われ撃退しながらも、まだ決断できない。

その後、両親を奪われて始めて心を決める。


その決心するまでの過程をたっぷり時間をとって描写している。


その是非はともかく、こういう映画は他にそんなにないと思う。
しかも、「しんちゃん」のような映画で(笑)、やってしまう所が面白い。

ヒーローは「助けて」と請われれば、大抵すぐ決断し戦う準備をしたり修行をしたり、決戦場へ向かうものだ。

この映画では、しんちゃんが収まらぬ正義感と恐怖のはざまで子供ゆえ漠然としていながらも心悩ます姿を丁寧に描いている。


美術も面白い。

これは設定デザインの湯浅政明の功績でもあるんだろうけど、近年のアニメにはあまりないタッチで新鮮に映る。

宮崎駿監督が原画で参加した「長靴をはいた猫(1969)」も美術が日本アニメっぽくないというか、当時はこういう絵柄もあったんだなと面白かった。

それと一緒でなんか「日本アニメ」っぽくない絵が全編に溢れていて、作品そのものがすごく特別に感じた。


トッペマから託された「魔法のトランプ」の力で魔法を使えるようになったしんちゃんは、大好きなアクション仮面やカンタム・ロボ、ぶりぶりざえもんを幾度か呼び出す。

なぜか3人はミニっこいんだけど、この4人のドタバタが最高に楽しい(笑)

とりわけ、野原家の寝室で巻き起こる「うる星やつら」諸星あたる役の古川登志夫演じるス・ノーマンと、小さいから弱っちいのに真剣に戦うアクション仮面、すぐに裏切るぶりぶりざえもんの掛け合いが痛快。

アクション仮面が「しんのすけ君!火事になるかもしれないがアクションビームを使ってもいいかい?」とアクションビームを繰り出すとあせりまくるしんちゃんがホント可愛い。

火事どころかス・ノーマンに傷も与えられないのだけど・・・(笑)


クライマックスは野原一家とオカマ魔女・マカオとジョマによる、ダンス対決、ババ抜き、体力勝負の三本勝負となる。

もうくっだらない、めちゃくちゃになるクライマックスはいつもの事なんだけど、次作の「クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡(1997)」以降は結構まじめに映画をやってしまうので「しんちゃん」らしく感じて、妙に好きになる。


「しんちゃん」らしいと言えば、冒頭剣を持った騎士とドラゴンの戦いといったベタなファンタジーのシーンからオカマのボスが登場。

もしくは「不思議の国のアリス」はアリスを不思議の国へ誘うのは白うさぎだけど、この映画ではしんちゃんをヘンダーランドの暗部へと導くのはきれいな「おねいさん」たち(笑)といった古典を見事に「しんちゃん」色にして展開してみせる。

そういった、らしいギャグや展開がありつつ、丁寧で稀有な心理描写、お約束のしょーもないクライマックス、
野原一家のファイアーな団結(この映画ではまだ「野原一家ファイアー!」のセリフはない)と、高名な「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦(2002)」とはまた違うけど劇場版「しんちゃん」の面白さが全編に溢れる傑作!


雛形あきこがゲスト出演していて、劇中何度も登場しギャグのように自己紹介の同じセリフを繰り返す。

エンディング・ソングも彼女の曲なんだけど、小室哲哉の天下だった頃のようなあまり好きになれない軽薄な曲で、時代を感じた(笑)