怪談。 | 江戸の杓子丸

江戸の杓子丸

化け猫 杓子丸の大江戸見廻覚書


「怪談」

183分 日  1965年

監督 小林正樹

製作 若槻繁
原作 小泉八雲
脚本 水木洋子
音楽 武満徹
撮影 瀬川浩
出演 三國連太郎 新珠三千代 仲代達矢 岸惠子 
    中村嘉津雄 中村翫右衛門 滝沢修 ほか


【完全ネタバレ】



TVでやればいいのに。☆☆☆★★



〔ストーリー〕
 小泉八雲ことラフカディオ・ハーンが書いた怪談の中から「黒髪」「雪女」「耳無芳一の話」「茶碗の中」の四篇を映画化したオムニバス作品。

 
カンヌ映画祭審査員特別賞を受賞した。



小泉八雲の『怪談』などに収録されている「黒髪」「雪女」「耳無芳一の話」「茶碗の中」といった四つの怪談話が映像で楽しめる。

う~ん。
何だろう。

途中で寝てしまったんだけど、では面白くないかと言われるとそんな事は全くない。

友達に全力で薦めようと思うような映画でもないけど、すべての日本人が好きになるんだろうなとも思う。


何とも言えない余韻が残る。

これが怪談の面白さなのかなぁ。
その証拠に小泉八雲の「怪談」を読みたくなった。


セットがもろセットでござい、という感じでどうも安っぽく見えてしまう。
一方、キャストがすごいし、一見大袈裟なのだけど効果的なライティングの変化やテンポの変化、音響の使い方に「おぉっ!?」と魅せられたり・・・。

画面が明るいので、今のホラー映画のように闇を多用すればもっと違う印象になるんだろう、と思った。
今のホラーは画面が暗すぎて、何が起こってるのかわからないのもあるけど(笑)




冒頭の一遍は、「黒髪」

 
 物語は、貧乏に疲れ果てた武士が、出世のために妻を捨て良家の娘と再婚し職も得る。
が、その娘の冷酷さやわがままにうんざりし、己の軽率さを呪いながら前妻に想いをはせる日々を送る。

 任期を終えると武士は、前妻の家に帰り詫び妻と一夜を共にするが・・・。



タイトルからも「黒髪」が主役と言ってもいいわけだけど、妻の長い黒髪を見せるパンのショットにゾッとなった。

何でただの女の黒い髪が気持ち悪いと感じるのだろう?
不思議だ。


どうって事ない物語(笑)

ただ、メインは前妻と一夜を明かした翌朝なのだけど、しっかりとたっぷりと魅せる。

三國連太郎演じる武士が髪は抜け頬はこけ、もだえながら精気を失っていく様子はその演出も含め楽しかった。

やっぱり編集がうまいんだろうな。
よくわからないけど。



全編に言える事だけど、衣装や小物を見るのも楽しい。

今のプロが作ると、史実に沿いながらちょい華美にしてしまうというか、きれいにし過ぎるのではないかと思うけど、この映画では抑えた配色やハッキリいうと地味なデザインがかえって雰囲気を作っているような気がした。



「雪女」

 
 木こりの巳之吉は吹雪の中、雪女に出会う。
雪女は「誰にも私のことを話してはいけない。話したらお前を殺す。」と言い残し消える。

 そして一年後、巳之吉はお雪という美しい女に出会い、子宝にも恵まれる。
ある夜、お雪の顔に雪女の面影を見、10年前のあの吹雪の日について思い出した巳之吉はつい話し出してしまう・・・。



お雪が桃色の着物を着ているけど、「黒髪」でも主人公が再婚する娘は白を重ねた桃色の小袖を着ていた。


ピンクが好きやな日本人は、と思ってしまう(笑)


雪女と人間の姿になったお雪を岸惠子が演じている。
その変貌が楽しい。


顔のメイクはわざとだろうけど歌舞伎みたいに大袈裟でリアル感は一切ない(笑)

ただ雪女に命を吸われ凍り付く男のメイクアップ等、密かに見事だった。


不幸なのは、木こりの巳之吉か、雪女の方か・・・。



「耳無芳一の話」

 
 盲目の琵琶法師・芳一は夜な夜な琵琶を奏でるため寺を抜け出していた。
寺の住職は、芳一が平家の怨霊に取り憑かれていると見抜き、般若心経を芳一の全身に書きつけ守ろうとするが・・・。


冒頭しっかりと琵琶演奏の中、壇ノ浦の戦いを見せる。

安徳天皇や平氏一門が入水する際、血の海になっているところや、芳一が平家の亡霊たちに琵琶演奏している際、亡霊としての姿が表れていく様子をショットで重ねて変化させるとか、細かい演出が観ていてとてもすがすがしい。


芳一の耳は刀で斬り落とされるんじゃなくて、引きちぎられるんだ・・・。
勘違いしてた。

耳以外は全身般若心経を書き込まれ、平家の霊は芳一を見つけられなくなる、すなわち見えなくなる。

演出上、芳一は半透明になるんだけどこの辺の合成?も違和感ないし、一番落ち着いて見れたエピソードだった。

志村喬が住職を派手さなく朴訥に演じていたり、田中邦衛がちょっと滑稽な役で和ませてくれたり中盤も飽きない。

何と言っても、冒頭からの琵琶や歌声の使い方がカッコいいし、それそのものもシビれたなぁ。


しかし身勝手だよ、平家の亡霊さんよ(笑)




「茶碗の中」

 
 中川佐渡守の家臣・関内は年始廻りの際、茶店で茶碗に水を汲み飲もうとするが、茶碗の水に見知らぬ若侍の顔が映っている事に驚く。

何度水を汲み直してもその男は現れ続けるが、関内はかまわず飲み干す。

 その後、夜勤している関内の前にその若侍が現れ、玄妙な技で惑わすが一刀斬りつけると消え去ってしまう。
すると後日、その若侍の家臣だという3人組が屋敷に現れ・・・。

 この物語は結末がない。それは作者もある日いなくなってしまったからだ。
依頼主である版元が仕事場へ訪れ、水がめをのぞくと・・・。




意味不明(笑)
オチはとってつけた感じだけど、尾を引く余韻はこれぞ怪談なのか。


とにかく、
家臣・関内の前に現れる3匹の侍とのチャンバラ、そして発狂し笑い続ける関内の表情が印象的。

刀や槍で暴れる関内らの少々大袈裟な演出や止め画、そしてやっぱりテンポだなぁ、引き込まれる。

関内が3匹の侍に斬りかかるが、その姿が瞬時消える。
その後、ひゅ~と風が吹き枯れ葉が舞う。

この辺の細かいちょっとした演出がホラーには大事なんだろうなぁ。



貪婪さや不誠実を戒めるため戦慄せしめるというよりは、ゆがんだ心情や恨みつらみ、そして未知なる自然への畏怖によって、ぞ~となってしまう。

尾を引く、何だこれ~、やだな~、怖いな~、が怪談の面白さなんだなぁ。
そこをしっかりと映像化しているのだから、すごいんだけど・・・。


こういういい映画を真夏にTVでやればいいのになぁ。
少々長いけど、キャストもすごいし。