風立ちぬ。 | 江戸の杓子丸

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化け猫 杓子丸の大江戸見廻覚書



「風立ちぬ」


126分 日  2013年

監督 宮崎駿

製作 奥田誠治 福山亮一 藤巻直哉
原作 宮崎駿
脚本 宮崎駿
音楽 久石譲
撮影 奥井敦
出演 庵野秀明 瀧本美織 西島秀俊
    西村雅彦 スティーブン・アルパート
    風間杜夫 竹下景子 志田未来 ほか




【完全ネタバレ】


風は吹いているかね?。☆☆☆☆★


〔ストーリー〕
 ゼロ戦設計者として知られる堀越二郎と、同時代に生きた文学者・堀辰雄の人生をモデルに生み出された主人公の青年技師・二郎が、関東大震災や経済不況に見舞われ、やがて戦争へと突入していく1920年代という時代にいかに生きたか、その半生を描く。


「夢と狂気の王国」


118分 日 2013年

監督 砂田麻美

製作 ドワンゴ
脚本 砂田麻美
音楽 高木正勝
出演 宮崎駿 鈴木敏夫 高畑勲 西村義明
    奥田誠治 庵野秀明 宮崎吾朗 ほか



〔ストーリー〕
 砂田麻美監督が、国民的アニメーションスタジオ、スタジオジブリを捉えたドキュメンタリー。
 
 『となりのトトロ』など世界中で愛されている名作の数々を生み出してきたジブリの中核を担う宮崎駿監督、高畑勲監督、鈴木敏夫プロデューサーに密着し、緊張感に満ちた創作の現場を映し出す。
 
 数十年にわたり苦楽を共にしてきた三人の確執や作品に懸ける思い、夢を生み出す創作の秘密に触れることができる。





「風立ちぬ(2013)」(以後「風」)を観た後、「「夢と狂気の王国(2013)」(以後「夢と」)を観た。
そのおかげで、「風」を捉え直す事ができた。


この映画(「風」)が面白い映画なのかよくわからない。
僕は宮崎監督作品が好きなので、どうしても何でも良く見えてしまう。

泣けた。

これは僕が日本人だからか、よくわからない。
とにかく、泣けたのでいい映画なんだと思う。



時間がポンポン飛び、シークエンスごとにお話がブツブツ切れる。
時の流れは早く、エキストラも和服から洋服の人が多くなっていく。

こういう演出の映画は今まで宮崎監督作品にはなかったはずで、すごく新鮮だった。

126分か。

観てる時は長いとは感じないけど、正直これだけ長くてこれだけしか描けてないの?と思わなくもないな(笑)


物語は堀越二郎の夢から始まる。

寝ている二郎少年の寝顔がすごくいい!
凛としていて、本当に一昔前の美少年の感じが出てる。

「わっ、いいな。これは期待できる・・・」と思ったけどその後はいつものジブリのタッチだった。

正直、ジブリのタッチがこの映画のリアルさを削いでるような気がしてならないなぁ。

関東地震のシーンはアニメーションという表現を十二分に生かした演出なんだと思うけど、怖さは伝わってこなかった。

この期に及んで、「子供も観るだろうから」なんて考えなかったはずで、迫力に欠けていると思う。

のちに二郎の妻となる菜穂子が結核により衰弱していく様子も感じられない。
二郎がそれに気づいていないという演出なのか。

貧乏に苦しむ子供達、そして日本。

何というか、汚いものを汚く描けていない気がする。

これはジブリの絵柄のせいなのか、二郎が、宮崎監督が選んで見ていないという事なのか。



逆に、鬼だな、恐るべしジブリ、宮崎監督・・・というシーンも山ほどある。

宮崎監督作品には誰もが知るキーワードがありますよね。
「空」、「風」、「飛行機」、「自立した少女」等々。

避暑地で二郎と菜穂子は再会するが、菜穂子は風のなかしっかりと立ち前を見て絵を描いている。

その時吹かれ揺らぐ髪の表現がすごいし、突風が吹き菜穂子のパラソルが飛び草原が波打つけれどこの表現がホントすごい。



空を舞い、もしくはするどく飛行しキラリと反射する飛行機の優雅さ。
風圧に耐え切れず空中分解する飛行機の描写の細かさ。

「夢と」で鈴木プロデューサーが解説する。

「実際、飛行機がどう飛ぶかではなくどう飛んでいて欲しいか。
宮さん(宮崎監督)は理想を描いているんだ」



汗や涙などの液体の表現が変だったな。

何ていうのか、ドロドロしている感じというか表面張力が強い感じというか。

ハイスピードカメラで撮るとああ見えるのかも知れないけど、やっぱり少々不自然。

ああいう表現になっていったのは、ピクサーの存在が大きいのでは、と勝手に想像する。

コンピュータには勝てない。だから、手描きに手作りにこだわろう・・・と。
SE(音響演出)を人の声や手で作り上げる事にこだわったのもそうではないかなぁと思う。

あまり成功しているようには思えないんだけど・・・(笑)

「あの時の・・・」と二郎と菜穂子が避暑地の林にあるため池で再会する。
そのため池の水の表現は文句なくすごい。




二郎が不良グループにからまれている下級生を助けるシーンがある。

正義感の強い人間であって好戦的な人間ではないという事の説明だろうけど、ちょっとベタでびっくり(笑)

二郎の妹・加代は喧嘩し怪我をしている二郎に「赤チンを塗って差しあげます」とまとわりつく。

彼女はのちに医者になるんだけど、医者になろうとする人間はおせっかいな人間に決まっている。
ちょうど二郎とは正反対のキャラクターだ。


二郎は自分の夢しか見ていない。

あとの事はどうでもいい人間で、人の気持ちを慮る人間ではないし薄情で身勝手に映る。

貧しい少女たちに対しぶしつけにお菓子を「お食べ、あげるよ」と差し出したり、夢中になると上司の言葉も耳に入らない。

けれど、婚約者である菜穂子が喀血(かっけつ)したと伝え聞くと、二郎の涙は止まらない。

二郎の夢は呪われていて、日本を背負ってもいる。

近眼の二郎には流れ星が見えないし、虹を見て「あぁ、(そんなものがあるなんて)忘れていました」とつぶやく。

夢にのめり込み飲み込まれている二郎に普通の幸せは約束されない。



「夢と」の中で最も印象に残ったシーンは宮崎監督が自身の父親について語るところ。

宮崎監督の父親は、一族で経営する「宮崎航空興学」の役員で軍用機の部品を生産していた。
宮崎家は太平洋戦争時、裕福な方だったらしい。

宮崎家が疎開している時、近所の家族が家を焼失し宮崎家の玄関で休ませてもらっている時に、宮崎監督の父親が帰ってきて「あぁ、いいよいいよ(お気にせずに使ってください)」とその家族の子供にチョコレートをあげ、また去っていったそう。

自慢げに、また納得するように宮崎監督は話す。

自分の親を否定したい子は、やはりいない。

堀越二郎を、自身の父を、自分自身をやっぱり否定できない。


そう生きねばならなかった。

宮崎監督はどうか。
日本が、世界が宮崎監督の新作を切望すればする程、宮崎家は父親不在にならざるを得なかった(笑)

みんなそれぞれ、自分の現場で生きている。

自分一人生活を犠牲にしながら大きな流れに抗える人間が実際どれだけいるのだろう?

「夢と」の中で、宮崎監督らが最近の日本は右傾化してきていると不満と不安をもらすカットがある。

宮崎監督の考えは、その作品群の中にこそあるんだと思う。

敵に対し大きく両腕を広げ飛び込んで行ったナウシカ。

自分たちの命を投げ出すようにして大切な物を守る少年少女。

異なるものとの共存、そして成長。


変わったさきを憂慮する事と、変わることを恐る事は違う。

宮崎監督のヒーローやヒロインたちは見定め恐れずに戦い幸せをもたらした。

けれど、今作の主人公・二郎は決して勝利したわけじゃない。

「もうファンタジーが簡単に作れる時代じゃない」

というような事を監督は口にしていたけど、その無力さとか所詮は娯楽なんだという謙虚さとかもろもろの感情は何十年と映画に向き合ってきたからこそなんだろうなぁ。





菜穂子の父親が言ってみせる。

「男は仕事をしてこそだ」

では、女は?
この映画を観て女性はどう感じたのかなぁ?

どうにも勝手過ぎる(笑)
二郎の同僚である本庄が吐く。
「仕事に専念するために結婚する。矛盾だ。」

タバコをどこで吸おうが、朝帰りしようが日本の男はちょっと前までそうだったような気がする。

二郎は結核の菜穂子を看病する気はないし、菜穂子はいよいよとなった時二郎のもとを去っていく。

「美しいところだけ好きな人に見てもらいたかったのね・・・。」

それはないよ・・・(笑)

これが病気ではなく年齢だったら・・・。
年増は退場しろ(笑)

「俺(男)が好きなのは少女なのだ。」(笑)


「夢と」を観て、さらにそう思うようになったけど、どうもジブリというか鈴木プロデューサーは庵野監督をジブリに取り込もうとしているような気がしてならない。

そのうち宮崎監督も「ナウシカ」制作を許しそうだしな(笑)

本当に宮崎監督は長編を引退するのか。
ホントに残念で残念だ。

ご本人の中ではこれっぽっちもないだろうけど、「ルパン」やって欲しいなぁ。
30分のでもいいから。


とにかく宮崎駿監督、たくさんの素晴らしい映画をありがとうございました<(_ _)>