真夜中とか言ってまだ21時前ですけどね。
極稀にその時間帯に使う駅で彼に出会ったのは
もう昨年のことだろうか。
彼は駅前で三味線を弾いていた。
夜の街に響く三味線の音を聞いたときは
わが耳を疑ったが
その激しく、そしてときに繊細に爪弾かれる三味の音は
私の心に深く染み入ったのだった。
しかし、生活パターンから脱して出会った彼と
再び会うのはなかなか容易ではない。
そこにいるとは限らない人の為に
毎晩そこに出向くような根性の無い私は
たまに出会えた夜にはその幸運に打ち震え
いつまでもその音に聞き入っていたいところだが
逢瀬の時は短い。
何故ならば。
ビコウズ。
その人は駅前の信号近くの狭い道端で弾いているのだ。
広場のようなところで弾いていてくれれば
少し離れたところから思う様聞く事ができるのだが
ここではあまりにも狭い。演者が近すぎる。
シャイな
言い換えれば自意識過剰な私にはこの近さは辛い。
どこを見ていればいいのか分らない。
かくて小心者の私は信号待ちの振りをして
(実際信号が変わるのを待っているのだが)
背中でその音を聞くことしかできないでいるのだ。
鳴々、信号がいつまでも赤のままならいいのに…!
夜空に響け、三味の音よ!高らかに!!
臆病者の私の耳に
いつまでもどこまでも届くように…!!