百鬼夜狂   狂歌百物語集  その6(狂歌部分の1

                                         

                                                 2026.2

注:原典の狂歌部分は、「表題」「作者名」「狂歌」になっています。

  表題の前にある数字は、当方が便宜的に付けました。全部で、99です。100に一つ足りませんが。

なお、ここにあげた絵の多くは、手元にある「尾形月耕 画集」より、AIに加工してもらったものです。

 

百鬼夜狂  狂歌110

      

 

1. 見越入道 作者:へっつ東作

原文:

さかさまに 月もにらむと 見ゆる哉 

      野でらの松の みこし入道

 

現代語訳:野原の寺の松の上から、のぞき込んでいる見越し入道は、逆さまに月を睨んでいるように見える。

 

注:序文には、みこし入道は、化け物のなかでも、親分のようだ、とあります。それで、第一番に出して来たのでしょう。

 

2. 雪女 作者:紀定麿

原文:

白粉に まさりて白き 雪女 

いづれけしやうの ものとこそみれ

 

現代語訳:白粉(おしろい)よりも白い雪女であるが、けしょう(化粧)で白い顔にばけたのか、それともけしょう(化生:化け物)か、そのどちらにも見えるものだ。

 

注:「けしょう」は、「化粧(けしょう)」と「化生(ばけもの)」とに掛けている。

 

3. 人魂(唐来參和)

原文:

はれやらぬ 忘執(もうしゅう)の雲の まよひ(迷い)より 

浮世に跡を ひける人だま

 

現代語訳:

執着の雲にさまよい晴れぬまま、この世に未練を残してふらつくのが人魂なのだ。

 

意訳:怨念が晴れることがない、晴れることのない雲、の迷いから、浮き世に跡を引く(現世に執着がある)人魂であるかな。

 

4. 女の首 作者:四方赤良

原文:

くびばかり 出す女の 髪の毛に 

       よればつめたき 象のさしぐし

 

現代語訳:首ばかり出す女の髪の毛をさわって見れば、象牙の櫛が冷たい。

 

5. 離魂病    作者:宿屋飯盛

原文:

目の前に 二つの姿 あらはすは 

     水にも月の かげのわづらひ

 

現代語訳:本体と、離れた魂とが、二つに分かれたのが見える。水にも二つの影が映っている。月に照らされた影も二つある。これが、離魂病である。

 

注:昔の物語には、恋の病で、本体から魂が離れて~~と言うのがある。

 

6. うしろ髪     作者:山東京伝

原文:

うつくしき 顔に乱せし うしろ髪 

      長きためしに ひかれ(引かれ、魅かれ)てぞ行(ゆく)

 

現代語訳:美しい顔をして、後ろ髪が乱れている。長い髪に心が引かれて行く。

 

注:これは、化け物では、ありません。遊女でしたら、あとが恐いかも知れませんが。

 

 

7. 山男      作者:美木有正

原文:

腰ぬけて たつき(生計)も知らぬ 山男 さては我名を よぶこどりかと

 

現代語訳:妖しい者に、我が名を呼ばれて、怖くなり、腰が抜けて、仕事ができなくなった山男。

それとも、自分の名前を呼ぶ声が木霊(やまびこ)であろうか?

 

8. 切禿(きりかむろ) 作者:今田部屋住

原文:

ふりむけば 廊下にたちし 切禿(きりかむろ) 

      ひそひそ声の しにんすといふ

 

現代語訳:吉原の遊女屋で、した後のことである。部屋から出ると、廊下で遊女屋の幼女(切禿)が、しにんす(行為を「した」、死にんす、にかけている)とひそひそ声で言った。

 

注:遊女屋の見習いの幼女を、切禿(きりかむろ)と言う。切禿は、おかっぱ頭を指している。吉原では、独特の語尾(~~んす)を用いていた。例えば「あります」を「ありんす」など。

 

9. 長髪 作者:つむり光

原文:

ながかみ(長髪)の をんな(女)の姿は 川柳(かわやなぎ) 

      どろどろどろに 裾やひきする

 

現代語訳:「長髪女」の髪は長く、川端の柳のようである。川柳は、枝が下まで垂れて、川端の泥を引きずっているようだ。

 

 

10. 鬼 作者:馬場金埓

原文:

あばらやに 生てふ鬼の しこ草は 

      その丈(たけ)五丈(ごじょう) ばかりなりけり

 

現代語訳:あばら屋に生えていると言う、「鬼のしこ草」は、五丈(約15メートル)もあるという。

 

注:「鬼のしこ草(鬼の醜草)」は、キク科の植物の紫苑(しおん)の事。

鬼と言う名から、この草の名を読んだのでしょう。