飯綱(いずな)の法
その1 狐を使役するための手法
狐は、疑い深いけだ物である。能く化けて人を迷わす、と言うのはよく知られたことである。
声を出すときは、子供の声のようである。
喜ぶ時は、壷をうつように弾んでいる。
白氏文集(はくしもんじゅう:唐代の詩人の白楽天の文集)に
「古塚に棲む狐は、妖力があり、かつまた老いている。ばけて、女に成るが、大変な美人である。それを見ると、十人に八九人は、色気に迷わされる。」と有る。
近世、本邦に狐を使う人が有る。そのワザを飯綱(いづな)の法と言う。
その法はこうである。
まず精進潔斎(しょうじんけっさい)して身を清め、野山に行って、狐の巣穴を探す。
孕んでいる狐を見つけ、この狐にこう言う・
「お前が今孕んでいる子狐が産まれたのなら、私の子供としよう。かならず、私が貰いたい。」と。
それより、夜に人目を忍んで食事を運んで与える。
母狐が子を産むと、さらに熱心に餌を運んで養う。
子狐が成長すると、母狐が子を術者の許につれてくる。
すると術者は、子狐に名を付けて、「今日からは、ことあれば、私の陰となって、従え。」と言う。
母狐は悦こんで、術者を拝して子狐をつれて去る。
その後には、術者に望む事があれば、密かに狐の名を呼ぶと、狐は、姿を隠して来て、術者の知りたい他人に秘密、情報を教える。
術者が、狐の教えのままに、秘密・情報を開示すると、聞いた人は、驚き、神通力があると思わされる。
もし狐を使う者が、少しでも色欲貪欲にふける心が有る時は、この術を使うことは出来ない。
そして、狐は、二度と来ない、と言う。
「老媼茶話(ろうおんさわ)」の「飯綱(いずな)の法」より
訳者注:「飯綱(いずな)の法」とは、キツネなどの霊的動物を、使役する方術をさす。しかし、この項では、それだけでなく、各種の魔法、幻術も含んでるようです。
「老媼茶話」は、会津地方とその周辺などの、怪談などを集めたものです。寛保2年(1742年)刊。
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