百鬼夜狂 狂歌百物語集 その15(狂歌部分の10)
百鬼夜狂 狂歌90-99
2026.4
91. 天狗 作者:土師掻安
原文:
どっと笑ふ 嵐の声に くらま山
木の葉天狗の みなちりにける
現代語訳:
ドッと笑うような、嵐の風の音(声)がなする嵐山。
風の勢いに押されて、鞍馬山の木の葉天狗たちは、一斉に散ってしまった。
注:鞍馬山と言えば、天狗の住んでいることになっています。木の葉天狗とは天狗に一種で、鳥のような姿とされています。
92. 文福茶釜 作者:問屋酒船
原文:
文福の 茶釜にばけの はへたるは
上手の手から 水のもりん寺
現代語訳:狸が、文福茶釜が化けたが、手や足を出して、正体がばれてしまった。
これは、器用な手から水が漏れるようなものだ。「茂林寺(もりんじ)」での故事である。
注:「文福茶釜」は化け狸が茶釜に化けた昔話。茂林寺はその舞台で、群馬県館林にある。
「水のもれる」と「もりん寺のもり」とを掛けている。
93. 生贄(いけにえ) 作者:鹿津都真顔
原文:
これやこの 臆病神の みたらし(御手洗)か
いけにゑよりも 色の青きは
現代語訳:あれはまさに、臆病神のみたらし(御手洗い=手などを洗う手水舎)の水の青さであろうか?
青ざめた顔の生贄よりも、臆病者のほうが青ざめた顔をしている。
94. 芭蕉の精 作者:紀定麿
原文:
物すごき 形を見する ばせをば(芭蕉葉)も
霜には消(きえ)て うせぬべらなり
現代語訳:恐ろしい姿を見せる芭蕉の葉(ばしょうば)であるが、霜が降りれば、枯れて消えてしまう。
注:芭蕉の葉は、大きくて、何となく怪しそうな感じが、したのでしょう。中国の志怪小説には、芭蕉の精の話がある。
95. 大座頭 作者:つむり光
原文:
身のたけも 高き利足(利息)の 座頭の坊
金のたたりの おそろしき臺(台)
現代語訳:背丈の高い座頭(僧形の盲人)が、高い利息(りそく)をとる。
じつに、金のたたりが恐ろしい。
注:「座頭」は、僧形の盲人であるが、金貸しをしているのもいた。勝海舟の曾祖父は、盲人であって、米山検校と言い、高利貸しで財をなした。(検校とは、盲人の最高位)
その金で、子供らに旗本などの株を買い、武士階級に上昇させた。
さて、借金取りは、物の怪よりも、恐いものでしょう。
96. 釿(ちょうな)ぼろ 作者:鹿津都真顔
原文:
立よりて うてばひらりと 釿(ちょうな)ぼろ
あやしく肝(きも)を 削るものかな
現代語訳:たち寄って釿(ちょうな)でけずると、「釿(ちょうな)ぼろ」が、ひらりと飛びちる。その様子は、肝を削られているようだ。
注:「釿(ちょうな)」は、木材の表面をけずりとるための大工道具。「ちょうなぼろ」は、その削られた木のくず。
97. 古井戸 作者:四方赤良
原文:
つつ井筒 ゐづつの中に あらがねの
土の羊や おひにけらしも
現代語訳:古い井戸の中に、土でつくった羊が、古くなってしまった。
注:伊勢物語の筒井筒(つついづつ)の段には、
筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹みざるまに
と言う和歌があります。この狂歌は、それを踏まえたもの。
98. 高砂松 作者:問屋酒船
原文:狸には あらぬふぐりの 広がりて
松の夫婦は 化けさうなとし
現代語訳:狸でもないのに、狸の「ふぐり」のように大きく、二本の古木の松が枝を広げている。大きく広がる年をへた二本の松は、化け物になりそうだ。
注:「高砂の松=松の夫婦」は、二本の松が、寄り添って、一部が、一体化したものを指す。夫婦和合の象徴。しかし、ここでは、老いた松が、妖怪化しそうだとしている。
99. 金だま(金玉) 作者:今田部屋住
原文:
ばけものの おきみやげかや 金だまを
千両つめし 箱根山ほど
現代語訳:化け物が残していった土産なのか?
箱の中には、金玉が千ほど詰まっていた、箱根山ほどの大きさの箱。
注:「金だま=睾丸」と「金玉=お金 両」の意味。



