らしい。そもそも金日成は、朝鮮動乱の緒戦時に半島にはいなかった。スターリンと会談したという史実だけは記録されている。
というよりも、日本の敗戦を機に、朝鮮を「解放」したのはソ連軍であり、ソ連侵攻までに存在したとされる朝鮮国内の民族自決派の独立運動委員会などは、雲散霧消している。トロツキーを粛正したスターリンの同じ軍によって「整理」されたのだろうとエンジンなどは憶測する。
ついでに言えば、ソビエト連邦の「ソビエト」は、「評議会」とか「会議」とか、党とは無関係の自生的なグループのことだった。いまさら言ってもなんの甲斐もありませんが。
今度逝った総書記の親爺とされる「永遠の主席」金日成は、大戦終結前後、ソ連はスターリンのもとにいた。で、言いたいのはそういう現代史よりも、
戦後の北朝鮮のガセネタを、もろ手を挙げて礼賛した「進歩的知識人」が、日本列島にいたという七不思議だ。
このあたりから、これもどうでもいい話だが、「左翼」って何さってことになる(ついでに「右翼」もね。左の中に左右があり、右の中にも左右がある。さらに「反対の一致」ってこともある。そろそろ赤勝て、白勝てみたいな、小学校の運動会レベルの「左右」単純化図式から目を覚ましたほうがいいと思う。誰が?)
スターリンを批判し、反スターリニズムを標榜する集まりが太田竜と黒田寛一によって作られたのは1956年のことだ。この一事をもってしても、いかに「進歩的知識人」の「知識」がどうしようもないセンスにまみれているかが知れるわけ。
スターリンが作った国と見ることもできる北朝鮮にマンせーする神経が、今のいままで実は野放しになってきたってわけで。別に実害はないけど、この野放しによる、もしくは野放しを糊塗するための「イイ子ブリッ子」言説は世にはびこったままなのだ。野放しは放置するのが一番だが、将軍様が亡くなられたこの機会に最後っぺをかましとこうと思う。
昭和40年と言えば1965年。とっくにスターリンは死に、スターリンの「一国社会主義」じゃ立ちゆかんのじゃないかという見方が出ていたはずのこの頃に、「進歩的知識人」の代表格である大江健三郎は、北朝鮮マンセー的なエッセイを書いて自己陶酔している。
北朝鮮に帰国した青年が金日成首相と握手している写真があった。
ぼくらは、いわゆる共産圏の青年対策の宣伝性にたいして小姑的な敏感さをもつが、それにしてもあの写真は感動的であり、 ぼくはそこに希望にみちて自分およぴ自分の民族の未来にかかわった生きかたを始めようとしている青年をはっきり見た。――『厳粛な綱渡り』大江健三郎
吐き気がしますな(僕はこれ高校生の時に大枚はたいて買っているが、こりゃダメだと直観して、けっこう分厚いこの本をドブに叩き捨てた。そもそも「小姑的」とはなんたる奇っ怪なレトリック!)。
まあこういう手合いは放置が一番としてだ、それにしても朝鮮動乱終結以降、北朝鮮という国がこういう事態に至るまで、それこそほっとらかしにされて来たのはなぜか、そのほうが謎だ。
歴史を遡るしかない。アジアという視点を持ち込んで。
そうすると、どうしても欧米列強の利害関係を想定しないと説明のつかないことが限りなく出てくることに気づくだろう。
非常に雑ぱくな言い方で恐縮だが、清朝までは開化派と攘夷派の緊張感があった中国(朝鮮半島も同じく)も、毛沢東によって一枚岩になった。毛沢東主義によって中国は、ある意味近代化を開始し、かつてのアジアから脱亜入欧を果たし、欧米列強と並ぶに至る。
北朝鮮は、
こういう動きとは全く異なる歴史を歩んだとしか思えない。
失礼ながら、マルクスでもレーニンでもなく、スターリンが作った疑似共産主義傀儡国家というのが妥当なところだろう。
ソ連が1945年8月に朝鮮半島北部に侵攻したころ、金日成は中国を戦場とする抗日戦線から離脱し、スターリンのもとにいた。よくわからない。つまり、中国と朝鮮半島の関係史、交渉史まで遡らなければ、どうにも解けない。
ソ連は1992年に崩壊してもうないが、単純な事実としては、朝鮮動乱のとき北側が飛ばした戦闘機はソ連のミグだったし、戦車もソ連製のT-34だったということは明々白々だ。そして、そこに中国の人民解放軍が合流する。
いまだ朝鮮半島北部で餓えに耐えているかもしれない人々には申し訳ないことだが、北朝鮮は中ソ合作の「砦」に過ぎない。それもいったい何を守るための砦であったのか、いまとなっては無論、樹立当初から、さっぱり不明のままだ。「先軍思想」なんて、永遠の「臨時革命政府」期の賞味期限の限られたもののはずだが、なぜかこの国?では、半永久的な?国策と化している。
なっちまったことは今さらどうしようもない面があるが、許しがたいのは、「侵略戦争」における「加害者」と「被害者」という一面観でもって、歴史を単純化し、いまだに良い子ブリッ子して恥じない大江に代表される「進歩的知識人」どもが、このなっちまったことをなるように側面支援する結果になったことを自己批判するでもなく、のうのうと喰っちゃべり続けていること。なぜかこの人らは、北朝鮮の今回の異変が起きても、まったく沈黙し、知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
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