電子書籍をめぐる「出版社」中抜き論の大誤解――序の口その第1階 | 編集機関EditorialEngineの和風良哲的ネタ帖:ProScriptForEditorialWorks

紙の本を出版する出版だけじゃなく、あれも出版、これも出版とちょっと言い過ぎて来たために、「しゅっぱん2.0」というネーミングが一人歩きをし始めている。


ほんとは、「しゅっぱん2.0」の概念工事というか、コンセプトワークというか、なかみはっきりさせていきたいために始まったのがこの「大誤解」記事。誤解も八階もへったくれもあるか!という記事なんですが(笑)


「出版」をわざわざ女手「しゅっぱん」にしたのには理由があるんですが、それもさておき。


パソコンメーカーのDELLの創業者で、CEOのマイケル・デルは、クラウド・コンピューティングに関するある本に寄せて、パソコンの製造と流通における「中抜き」について、端的に次のように書いた。


消費者は小売店が流通業者やメーカーから仕入れたコンピュータを買うことになるが、このような制度のせいで、小売価格はコンピュータの中に入っている部品総額の4倍もの値段がついていた。それにあまりにも時間がかかるので、消費者の手元に届くころには、そのコンピュータはすでに旧式なものになっていた。

そこで、メーカーから直接購入するというアイデアの実現がデルの設立につながった、例のセミ・オーダーメイドというか、デル方式が始まったということになるわけだけど、このデルの発想がクラウドに展開・発展しいく元にもなっているというのがミソ。


さて、紙の書籍が電子書籍に「なったら論」で言われるところの「中抜き」、つまり「直販」は、このデルのケースとはまるで違う。にもかかわらず、きわめて雑駁に、混同されクソミソな話になっていることが多い。


クソとミソは分けて見るようにしよう。まず、流通コストの販売価格への影響は、書籍の場合は、PCほどえぐいものにはなっていない。


さらに。


デル方式で買うPCと、量販店で買うPCは、どちらもPCであること。当たり前じゃん、なのだがこういう当たり前のことさえ、アタマに叩き込まれていない与太話が多いので、しっかり噛み締めておきたい(笑)


いま与太されている出版物におけるデル方式、つまり中抜き「直販」には、2つある。


一つは自主流通方式の流れに乗って購入する。一つは、ダウンロード購入(キンドルなど含めダウンロードとここでは呼んでいる)。


しかし、紙の本の中抜き購入で買うものと、ダウンロードによる直接購入で買うものは、別ものだ。


一方は紙の本、一方はPDFファイルとかアプリとか、なんにせよデジタルデータに変換されたものだ。


これを、「書籍/電子書籍」と便宜上、呼称しているに過ぎない。こことっても重要。


「書籍」の歴史的経験的定義からして「電子書籍」は、「書籍」ではない。


これは、音楽がレコード盤→カセットテープ→CD→iTuneと電子化されていったプロセスとは、まったく異なっている。


そもそも音楽は、無形に近く、そのパッケージ化がレコード盤やCDだった。


ジャケットは音楽のパッケージにとっても重要な要素だが、書籍にとっての重要性とはレベルが違う。


音楽にとっては二次的なものだが、本にとっては、音楽の頭出しに相当すると言っていいほどに一次的で重要な要素だ。ここが多くの与太話からは抜け落ちている。


要するに音楽にとってはレコジャケなどは二次的・付随的であるものが、本・書籍(雑誌)にとっては一次的で、コンテンツの一部を構成するということ。


ここからは、流通の問題としての中抜きではなく、出版社が持っている「機能」の中抜きに絞っていくが、音楽にももちろん編集はある。でも、なぜiTuneにまで電子化のリミットまでいくことになったのか、音と文字(ビジュアル)の違いは押さえておくほうがいい。


で、文字140字のツイッターが「発言」とか「さえずる」とか、聴覚的に機能が命名されるのと、近いことが「出版」にも起きつつあるということ。


つまり、電子書籍与太話では、おうおうにしてコンテンツの一部としてのパッケージの物質性が、まるでなかったことのようにされてしまうのは、この本・書籍という意味での「出版物」が急速に音楽化されていることを意味するということ。


次回は、この話、文体論のリミットとして整理して扱うことにする。


また、デジタル化することで端末に1500冊収納できるといった電子書籍与太話が見落としているのは、実はそれってデジタル化の真逆、アナログ化になっているのだという驚くべき真実を明かすことにする(爆)



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