性格はぴか一だけれど、猫にしては、顔が可愛くない。外に出しても、犬のように人の言う事を聞いて、ついてくる。8歳・人の言葉を理解する。見かけがよいか、性格がいい方がいいのか、わかれるところ。
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先日、猫の事で、突然怒ったことがあった。路恵と悟は、三匹野良猫を拾って飼っていた。一番上が10歳で、二年おきに拾ったので、一番若い猫は、6歳である。その猫は、野良だったのに愛想がよくて、特に路恵になついていて、家の中でもついて回っていた。昼間眠る時でも、路恵が見える場所で眠っていた。路恵が立ち上がれば、すぐ目を覚まして、また別の路恵のそばで、休んでいる。それを見て、悟が、風呂に入れてやれば喜ぶんではないか?と唐突に言った。
「家で飼われている猫は、汚れてないし、猫は自分で体中をなめているので、風呂に入れる必要がないと、獣医先生が言っていたでしょう」と、路恵は何げなく言った。「気になるなら自分で入れてみれば?一度も猫を風呂に入れたこともないのに、どこからそんなことを思いついたの?」と、その話は、そのまま終わったと路恵は思っていた。テレビが、まだ災害の話を流している。それに気をとられている時、
「せっかく人が、気持ちよく話が進むと思っているのに、どうしていつも否定的なことばかり言うんだ」と、悟が気色ばんだ声で絡んできた。
「誰が言っているの?」路恵は、テレビの話の続きだと思って聞いた。
「あんただよ。いつもそうやって、俺が、何もしてないと否定する。猫を風呂に入れたことがないものは、猫を風呂に入れたらとも言えないのか?そうだねくらいの合づちを打つくらいなんでもないじゃないか」
「そういうけれど、あなたって、風呂に入れるどころか、餌やりだって何一つしないじゃないの。私は別にかまわないけれど、自分が参加したこともないことで、話しが盛り上がると思っているのが不思議。あなたは勝手だわよ」
「何!お前はいつも自分が一番だと、俺をバカにしているだろ。分かったよ。こんなことを言い出した俺が馬鹿だったよ」悟は、そう言うと、机に広げた新聞を読みだした。この物言いは、二年前の自分の母親の命日を路恵が忘れたと、腹を立てた時と似ているなと、路恵はちょっと怖いものを感じた。
悟の母親は、彼が6歳の春、もうすぐ小学生になるという時期に腎臓を悪くして、亡くなっている。その時の様子をよく覚えているらしくて、路恵は、義理の母の写真を見る機会もないまま、母親の最期を何度も聞かされていた。それにしても、もう68歳になる大人が、いつまでも話題にすることではないと路恵が切り捨てたことがあった。その時の激怒は、ものすごいもので、「離婚しよう」とまで言った。路恵が、何をしたということでもなく、まったく顔も分からない母親について、いつまでも6歳の感情を引きずっているのは、大人げないと言ったのだった。その怒り方は、路恵を殴らんばかりであった。
悟と路恵は、大学の同級生なので、家庭内暴力に至るケンカはしたことはなかったが、仕事上の意見違いはよくあった。たいてい悟の言う通りになって、路恵は、いつも一歩引いた。それは、納得したわけではなく、悟の頑固さに辟易しただけであった。零細の自営業だったため、お手伝いの若者を二人雇っているだけで、彼らの手前、夫婦げんかのような経営をするわけにはいかなかったからだ。






