平成25年6月10日(月) 

 黒猫が来ました。逃げた黒猫を捜しているという張り紙を見たので、連絡をしましたが、一月に逃げた猫の張り紙だとのことで、何だかもうあきらめているようで、きっと違うと言ってました。確かに、黒猫は、どれも似ていて、飼い主でないと分からないでしょう。

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 悟は、高血圧の症状もなく、コレステロールの値も良好であった。代わりに、路恵の方が、60歳になると、各種の値が悪くなり、ついに降圧剤を服用しなくてはならなくなっていた。また、胸痛もあったので、心臓のカテーテル検査も受けたが、動脈の一部に狭窄は見つかったが、手術を受けるほどではないと、そのまま10年過ぎている。路恵の胸痛は、この10年にたびたび起きていたが、気にしないことにした。もともと路恵の家系には、循環器系の疾患を起こすものが多く、家族性の高血圧とも言われている。悟の家系は、母親が早く亡くなっているので、くわしいことは分からなかったが、彼の兄弟は誰も寝込んでいないので、きっと長生きの家なのであろう。それにしても、普通は、男の方が、生活習慣病になるはずだろうに、路恵の方が、高血圧で悩むことになるとは、路恵は、悟のいつも自分の考えを押し付けてくる傲慢さにあると感じていた。彼の考えを変えさせようとすると、それこそ路恵が大声を出すか、茶碗の一つを割るしかなかったので、そんなことは、30年前に止めていた。しかし、そういう生活は、ずっとストレスになって、正直な体が、体に隠されていた弱い部分を表に出したのだと思っている。
 基本、路恵は、悟の言う事を受けいれているが、実のところ悟を憎んでいた。彼は、路恵を便利に利用しただけだと、もうそれほど残されてない人生なのに、ずっと我慢の日々を送っている。
 路恵は、今さら、離婚しても、何の利点もない。むしろ死期を早めるだけだろうと理解していた。悟にもまだ言い分があるらしく、何かのはずみで、「離婚しよう」ということがある。この年になるまで、細かく複雑な事務のほとんどを路恵に任せながら、本当に馬鹿じゃないと、思うのだが、彼の心にも、路恵に対して不満が渦巻いているのだということは分かった。まったく結婚生活とは何なんだと思わされる日々になった。
 

                             
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           平成25年6月9日(日) 

 『ニオイバンマツリ』この花は、10年前くらいから庭木として人気が出てきて、あちこちの庭で見るようになりました。紫色から咲きはじめ、日が経つと、白くなり、枯れていきます。香りは、ジャスミンに似て、庭に香りが漂います。常緑樹なので、隣家との境に植えています。

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 路恵と悟は、大学は同じであったが、出身地も高校も違い、悟は、東京の都立高を卒業して、路恵は、和歌山県立校を卒業後、上京して4年間は、私設の寮住まいを続けた。路恵の同級生は、かなり上京していて、そのまま東京で働いていたので、50歳になった20年前から、同級会がよく開かれ始めた。路恵は、毎年開かれるその会に、二年に一回の割で出席していた。その頃から、少しづつ、友人が病気で亡くなる噂を聞くようになった。友人の死で一番こたえたのは、大学は違ったが、寮生活も同じで、何でも打明けていた中学からの友人が、癌で、40歳の若さで、亡くなったことだった。彼女は、一人っ子で、結婚もしなかったので、彼女の思い出話のできる子供もいなかったのだ。和歌山の彼女のお墓に参った時、彼女の実家によって、お悔やみを親に伝えたが、辛そうで、彼女の思い出話は、子供の頃の事ばかりになってしまった。その後、5年間、命日に花を送り続けたが、つらいからもう構わないでほしいとう便りが来た。親にすると、生きていれば、こうなるという見本が私であったわけで、それがつらいとの事であった。それからもう十五年、路恵は、一人で彼女の冥福を祈っていた。学年会に出ると、遠い郷里のうわさも聞けて、彼女の親もなくなり、彼らの事は、本当に遠い彼方に消えて行った。
 彼女ばかりでなく、二年前に会った友人でも、糖尿病や癌でぽつぽつ亡くなっていく。共学だったので、男友達も多く、路恵は、彼らと高校の時、遠慮して聞かなかったことをいろいろ聞けて、大人になってから会うこの会を楽しみにしていた。出席者も一見元気そうだが、近況報告では、病気の話が多かった。中には、連れあいが亡くなったということもあった。路恵が欠席して会いそこなった男友達が、次の年、亡くなったと聞いた時は、とても残念に思った。高2の時、クラスの室長・副室長を受け持ち、いろいろなクラス行事をこなした仲だったので、一層久しぶりの話はあったのだった。彼は、うつ病だったと、その後奥さんから、流れた噂が路恵にも届いて、せっかく出席してきた彼と話ができなかったことが悔やまれた。
 『うつ病』、これはなかなか厄介な病気らしい。『うつ病』と聞くと、気分がすぐれなず、やる気もなく、ゴロゴロしている状態のように思われるが、どうもそんなことばかりではないようなのである。仕事を止めた高齢の男性に、最初は、ふらつきなどが起こり始め、また聴力も弱るなどの症状が見える普通の病気のようでもあるらしい。悟が、まさに今、ふらつきと、右の耳が聞き取りにくいという症状を起こしている。路恵は、悟を説得して、総合病院での耳鼻科の診察と、MRIの撮影を受けさせた。結果は、共に異状はなく、年齢のせいで、そのくらいは誰にでも起きるということで片づけられた。MRIに異常がなかったことに、路恵はひと安心した。その後路恵も、MRIを撮った方がいい状態になり、MRIを受けたが、やはり異常はなく、おまけに路恵の場合は、年齢より若い脳の画像だったらしく、医者に「70歳なんですね」と念を押されるくらいであった。しかし、路恵にしたら、MRIを受けたいと思う自分の状態であったので、やはり、45年間働いてきた生活と今があまり違うことのバランスがうまく取れてなかったのかもしれなかった。
 
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            平成25年6月8日(土) 

 雄の茶猫がこの暑いのにくっついて寝ています。『タロウ』は、さすがに暑いのでしょう。お腹丸出しの何ともみっともない恰好をしています。この三匹は、4歳未満です。

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 路恵がつけた〈新しい正義〉とは、会社を縮小し、今ではほとんど開店休業状態のこの二年間で、路恵が、『あれ?』と思う、悟の言動の事である。彼との付き合いの45年間で、それまで一度も口にしなかった言動の数々が、思いもかけない方向だったりするので、路恵にとっては、新しい彼の性格を見るようであり、正義とは、悟側の考えであったので、路恵は、この頃、会話に気を付けるようになった。
 それは、今まで通り、同級のつもりで、遠慮なく話していたりすると、急に声を荒げて、「それは違う」の路線に入り、路恵が、反論しようものなら、殴りかからんばかりになるのだった。道筋を立てて話すというより、いきなり、テーマの真ん中あたりから始まるので、政治なのか、近所の事なのか、子供たちの事なのか、しばらく見当もつかないこともあった。それで、路恵が「主語をはじめに言わないと、何の話か分からない」と言ったりすると、「聞いていればわかるだろう」と自分が正しいとなる。この頃は、これが悟の正義なのだと受け止めている。こうして、路恵は、悟に逆らわず、彼が、話すことを何でも受け止め始めていた。
 そうなったのも、ある時、路恵と口げんかになった夜、ののしるような大声の彼の寝言を聞いてからだった。路恵が、反論することで、悟がここまでうなされるようでは、今に寝ぼけて、首でも絞められかねないと思えたからである。このような症状が、その後の病気につながるとは、まだ路恵は気づいていなかった。

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