平成25年2月28日(木) 

 
狭い椅子に二匹で眠っている。敷布の茶色の布は、猫の体温で温かくなるという布・1000円で買った。

                     *

「我が家がそんなに由緒ある家系なのに、おじいさんはよくその権利を譲ったものね。」と、智子は、今後二度とこの話は聞けそうもないという予感から、今の内に聞けることは聞いておこうと決めていた。
「神主という仕事は、すごく疲れるものなんだよ。俺の父にしてみると、自分に霊力がないことで、自分の父親のような独特の勘がつかめす、そのことを知らない氏子たちにだんだん信用されなくなり、一時病気にもなったんだ。母親は、やはり神主の家から嫁に来ていたので、その気は持っていたらしいが、夫にないことで、自分の霊力は黙っていたんだよ。そして、50歳代で亡くなっただろ。智子がまだ幼児の頃だったけれど。おじいさんは、80近くまで生きていたから、智子も古文を習ったりしていただろう。霊力とはそういうものらしいな。人の精力を使うというか、食い尽くすというか、だから智子にも礼一にもその気が出ないといいと思っていたんだ。俺には、もう出ないだろう。わざと霊から一番遠そうな数学を選んで、霊を突き放したんだから。お母さんは、普通の家の育ちだから霊が期待するものを持っていないんだろう。霊は、宿った人に期待するものらしいから、、だから働き過ぎるのかもしれないな」と父は、わりと霊を理解して話していると智子は感じた・
「働き過ぎって、合ってるかもしれない。私も一年で、これまで全然気にも留めてなかった植物の知識が、あっという間に頭に入り、おまけに学名まで覚えている。絵も描くし、この頃は、英語の勉強もしている。今のところは、ほとんど住まいと研究所通いだけれど、このまま進めば、外国にも行くかもしない。先生たちが、イギリスの植物学者たちと親しくて、よく手紙の翻訳もするから。スーパーのレジを打っていた生活と比べると、全く比較にならないくらいでしょう。この知識の大方が、私の霊のおかげらしいの。彼女は、30歳で亡くなったらしいのだけれど、自分がやり残した研究を私とやりたいと言っている」
「危険だな、智子もそろそろ中年じゃないか、根を詰め過ぎると、成人病かうつ病などにやられないかい。お前の爺さんがやられたのも勉強し過ぎてうつ病に近い症状を見せたので、神職から身を引いたと思ったけれど」
「それは、霊も気にしている。私が駄目になれば、彼女もダメになるわけで、かじ取りをしてくれているから、かえって大丈夫なんじゃないの。
私は、専門の大学を出てないから、ずっと陰の研究者として存在するしかないでしょうが、そこは、政府の秘密の研究所でもあって、出入りの人は限られているし、5人の女性だけの小所帯だからすごく気が楽。そろそろ私も自分の植物に出合いたいと思っているけれど、神主だという家は、私にどうかかわるのか聞いておきたいと思ったのよ。霊たちは、かつて漢方医だったという人で、先生たちの能力も彼らに助けられているらしいの」
「そうか、智子と名づける必然性は、生まれた時から会ったのだな。きっといい仕事をするのだろう。智子は学校では何が得意だったんだっけ?」
「化学と体操かな、あとはオール3」
「なるほど、化学は、薬品を作ったりする能力だから、その頃から片鱗は見せていたんだな」
「礼一は、どうなの?彼は、いま自動車の設計者なのでしょう。得意科目ってなんだっけ」
「礼一は、よく勉強していたから、平均によくできたけれど、絵画部に所属していたわね。それはお婆さんの血筋なのかしら?」と母が言う。
「礼一は、このまま平凡に人生を進むのじゃないか、ただ結婚を早くしてほしいものだな。普通の人がいいけれどな。智子の相手は、やはり神主の家の息子だったんだ。それで、跡継ぎをほしがったんだよ。彼のお母さんが焦ったのも分かるよ。智子には可哀そうだったが、そういわれれば身を引くしかなかったんだ」
「そうなの。私は、家を継ぐ孫がほしいというお義母さんの気持ちが分からなかったのよ。そんなこと少しも話してくれなかったし、もともと隆さんとも会話がなかったからいい時別れられてよかったわ。今の先生なんか、離婚を経験できて、人生に夢を求めなくなるので、仕事人として成功するという考えよ」
「その研究室には、妻帯者はいないのか」と父が聞いてきた。
「一人、経理の人が、主人と子供がいると言っていたけれど、あの研究所は、家族のことを話さないようにしているみたい。またしばらくここに来られないと思うけれど、ただ植物に関わる研究だから、心配しないでね。携帯番号は知らせる。固定電話はない。研究所の電話は、使用には使えない。今の住所には、家族は出入りできないので、合う時は外か家に来る」
「どうしてそんなに厳重なの?」と母が心配げにかを追除いてくる。
「さっき話した、宗像女史の仲間が近くにいて、私をなかまにひきずりたがっていると、研究所の人たちが思っているので、彼らがせっかく用意してくれたマンションは、出来るだけ人に知られないようにしているの。研究所に来る人も制限を受けている。とても日本の管理とは思えないほど厳重に管理されている。私は、一応政府の管理下に置かれているので、昔ほど自由ではない。理解しにくいとは思うけれど。心配ない状況にある「と、智子は大至急で自分の事を話した・
「お母さんの夢に出てきた天使は、今も私を守っているわよ。私も一度だけ天使の夢を見たわ、みんなが言うには、天使とはそういう現れ方をして、存在を知らせるそうなのよ。そのことを私の霊も承知していて、智天使ケルビルがまだしばらくは、守っていると伝えてくれたわ」
「まるで、この世の話とは思えないことだらけね。無理をせず、たまに家に帰ってきてね。礼一の様子も智子なら変化に気付くでしょうから、よく観察してね。疲れているでしょうから、夕食まであなたの部屋で休みなさい」と、母に言われて、かつての自分の部屋だったところに布団を敷いて、少し眠った。

                

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         平成25年2月26日(火) 

 
『タロウ』の背中の模様・何に見えるか考えているところ。

                     *

「お父さんも霊に守られているの?」
「私の場合は、霊と出会ったことはないのだ。ただ智子の曾爺さんにあたる人が、えらく霊力があって、今では伝説のように話されるだけだが、神主として、土地の霊を沈める地鎮祭に引っ張りだこだったらしい。彼が関わった地鎮祭を受けた家に、悪いことは一件も起きなかったんだ。口伝えに、仕事の依頼が増え、働き過ぎで40歳代後半に亡くなってしまったと言われている。私も爺さんの記憶がないくらいだから。父には、その力はなく、そのため、だんだん顧客もなくなり、ついに僕が大学生の頃、その神社を他の神主にまかせて、先祖伝来の土地を離れ、上京して、大學で古文を教える先生になったんだ。僕にも霊力はないらしく、神主に戻りたくなかったから、一番人間から遠そうな数学を選んだんだよ。だから、子供たちには、家が神主の家系だったことは話さなかったんだ。ただ、祖母は、なにか特別の霊に守られている気配があったけれど、祖母は口に出さなかったな。すごく絵がうまくて、よく近所の風景を描いていたよ。絵は、ほとんど空襲で焼けてしまって、祖母も早く亡くなってしまったんだ。お母さんにも霊力はないんだけれど、智子が生まれる時、一度だけ、智子には、なにかが起きるということを伝えられたということで、智子については気にしていたんだ」
「お父さんの言う通りで、あなたが生まれる一か月前くらいの時、夢を見たんだけれど、天使の夢で、あなたを守って、天使たちが飛び回っているのよ。一人の女の人が、にっこり笑って傍にいたのよ。どんな顔だたっか忘れてしまったわね。いい夢だったけれど、智子にも霊力がつくということかしらと、お父さんと話したものなのよ。でもあなたって、40歳過ぎまで、突出した感じもなかったので、安心していたのだけれど、今頃、霊と遭遇するとは、変わった霊ね。それで、あなたは何を宿命として受け持たされたの?」
「霊が言うには、私に乗り移った霊とは、300年前のイギリス人の30歳で亡くなった女の人で、植物の研究をしていたそうなのよ。途中で途切れた研究を私としたいと、今頃出てきたというわけなの。もっと前に出るには、私の環境が整っていなかったと言っているわ」
「うちの苗字『天』が大きな影響を与えているのだろうな。礼一も、母の苗字でやってる方が、長生きしそうだな。霊に遭遇すると、疲れるらしいな」と、父は、ため息をつきながら言った
「そういっていた。だから霊を使った仕事はしないようにと、私の霊は言っているわ。たとえば、占いとか、宗教的なことよね。今、私は、ある政府関係の植物の研究機関の社員として働いている。たった一年で、十年間学んだくらい植物について詳しくなっているのよ。それも毒のある植物について調べていて、身近な植物の毒の多さにびっくりしているわ。そうだ、一年前に出た新書版に『ふだん着顔した毒草』という本があるのだけれど、あれに私も関わっているのよ。読んでみて、すこしは、私の仕事が分かるかもしれないから」
「あら、あの本、智子たちの仲間の人が書いたの。テレビでも取り上げられていて、私もびっくりしたわね。そうなのやっと落ち着いて働ける場所を見つけたのね」母はそういいながら、不安そうであった。
「智子は、どの方面に進むのかい?」と父が珍しく、智子に興味を示した。
「まだ、本当に植物の初心者だから、みんなの手伝いだけで、そのうち、自分向きの植物に出会うと思っている。この一年、この研究所の先生たちに守られていたの。宗像幸代という最近できた〈茶観悌〉という新興宗教の教祖に狙われているということで、今の先生方についている霊たちが、守ってくれたというわけなの。自分では、全然自覚がなかったけれど、先生たちまで、私の霊力がいまに大きな仕事をすると予言しているのよ。お父さん、思い当たることある?」
「いや、分からん。ただ宗像という苗字は聞いたことがある。宗像という苗字は、古くからあって、島根から福岡にかけて存在した豪族や神主の家系に多くみられるはずだ。家の『天』という苗字と同じくらい強くて古い名だよ。家では、神職から離れたから、お母さんの苗字を使うことにしたけれど、正解だったな、智子は、40歳過ぎているから、悪い仲間の餌食にならないだろうが、礼一はまだ34歳だから、万が一新興宗教にでもつかまると、取り返しがつかなくなる。もっとも彼に目覚める霊がいればの話だけれど、礼一には、この話はしないように」
「よく分かったわ。私は、多くの漢方医の先生に言い含められて、一年たつので、霊とのかかわりがよくわかって、大丈夫よ。研究所の全員が霊と会話している特殊な環境だけれど、その力で、新しい薬品や食品添加物を発見している。今までの生活はなんだったかと思われるほど、高度の生活だわ。この一年の私の勉強量も大変だったけれど、すごい勢いで、頭に入っていくの。植物園も東京をはじめ日本中あちこちに行っている。忙しくて、家にも寄る暇がなくて、この連休が済んだら、また、忙しくなるわ
「智子の新しいマンションはどんなふうなの?」と母が気にした。この一年、たまに電話で話すだけで、母は、マンションと名のつくアパートくらいに考えている風であった。
「目白のすごく大きなマンションの裏手にある四階建ての古いマンションだけれど、55平米あるので、一人で暮らすには広すぎるくらい。その大きなマンションには、研究所関係の人が3人暮らしているので、何かあれば彼らと動けるようになっているの。マンションは、ある大学の研究所に登録されていて、私は、ほんの少し部屋代を払うだけで済んでいる。お母さんたちを呼びたいけれど、もう少し待ってね、私の方が軌道に乗ってからだと思う。お父さんにうちの事が聞けて良かったわ。これで、どんな植物を選んでいいかも見当がつくから」
「宗像という人が智子と波長が合うのは、天照大神を祖とする分派だからだろうな。幸いなことに智子を守っているのは、その地霊ではなく、天使ケルビルやイギリスの女の人らしいから、智子を見つけにくかったのだろう。宗像という豪族は、かつてなかなか猛々しかったようだから、その新しい宗教には、気をつけた方がよさそうだな。おれみたいに、霊力がない者は、理屈が立つから、彼らの餌食には、ならないんだ」

       

                  


 
 
 
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            平成25年2月24日(日)    

 
茶色の猫たち、どれも気がいい。人によく馴れる。全員男の子で、体重は、平均6キロ。大食いでもないのに、よく太る。

                     *

 智子は、五月の連休に、久しぶりに実家に帰った。アパートを出た時には、電話で連絡してやり過ごし、その後も、何度か連絡だけはしていたが、一年近く実家に寄り付かなかった。だから智子の本当の仕事や役割について伝えることもなかった。両親も、智子が離婚したころから、あまり智子の事を気にかけなくなっていた。しかし、智子は、父親の神職の家系のことをちゃんと聞いておきたいと思うようになった。
 この年の連休は、うまく休めば、8日休暇が取れる程、休みが繋がっていた。智子も4日の休暇をもらい、父親の大学は、8日間の休暇になるそうなので、話したいことがあるので、午後から帰ると伝えた。
 一年くらい会わない生活は、結婚の時もそんな風だったので、両親にとっては、別に変ったこととは思ってないようであったが、今回は、智子の変化に、二人共真から驚いたという顔をした。
 「智ちゃん変わったわね。すっかりきれいになって、どうしたの?」と母が、いつもの智ちゃんと呼んでくれたので、家に帰ってきたという気がした。
 「きれいになっている?」と智子は聞き返した。自分では、これまでと変わらないノー化粧に近い生活をしていると思ったからだ。
 「なんだか元気になったみたい。生き生きしているわよ。誰かと結婚でもする報告なの?」母親は、娘がきれいになったら、すぐ結婚と考えるお決まりの問いを投げてきた。
「結婚ではないけれど、とても素敵な仕事をはじめて、一年間これまでにないという程勉強していたので、少し賢そうに見えるのかな」と智子にしては、ふざけた言い方をした。そんな様子の智子に、父親はじっと感慨深い顔を見せていた。
「今晩は、久しぶりにすき焼きを囲みましょう。二泊するって言っていたわね。ゆっくりできるじゃないの。そういえばあなたの新しいお仕事のことは何にも聞いてないし、いろいろ聞かせてね。礼一は、明日から休みを取るので、今晩は遅いらしいから、三人でゆっくり話せるわよ」と母は言って、お茶の用意をするからと、台所に立っていった。
「お父さん、私の仕事は、植物の分析という科学的な調査に関わることなのだけれど、家の『天』という苗字がすごく関わって、すべてはそこから始まっているのよ。それで、この苗字というか、家の祖先について聞きたいことがあって、帰ってきたのだけれど、お母さんも知っていることなの?」と母のいない隙を狙って父にそっと聞いた。
「そうか、とうとう智子に知られてしまったのか。もちろんお母さんも知っているけれど、礼一は、たぶん知らないままでいられるかもしれないから、この後、お茶の時、お母さんも交えて話してあげるよ」と言って父は、自分の書斎にたっていった。
 
 「智子はどこからこの話を聞いたのかな?」父は、そうきり出した。すぐ返事をしようとして、智子は、K-30が初めて現れた状況を思い出して、赤面した。『死んでやる』と叫んだからだった。とてもそんなことは言えない、占いのところから始めるかと思い、渋谷の『占いの館』というところに寄ったところから始めることにした。
「お母さん、霊が存在するって知ってた?」
「智子は、霊にあったの?」と、母は、まじめな顔をして聞き返した。
「霊は、人が生まれる時、天の配剤で振り分けられるそうなの。大方の人は、一生自分の霊に会わずに済むらしいのだけれど、私の場合は、たまたま若い霊で、あわてて出てきてしまい、私に見つかったというので、いろいろ詳しく話してくれたわ。一番驚いたのは、わが家が、代々神主の家で、それで霊力が強く、それはほかの霊力の強い人とも引き合うらしいことが分かったのよ。その中には、金もうけにその力を使ういかがわしい人もいて、私が、その悪い霊力を持つ人に捕まりそうだと案じた私の霊が、他の主に漢方学者たちなのだけれど、その人たちに助けを求めて、それって、霊が勝手に塩梅したんだけれど、その結果、引っ越しもしなくてはならなくなり、助けてくれた先生方の研究所で働くことにもなったというわけなのよ」
「すごい話ね。ぼーっと暮らしていたあなたの話とは思えないくらい。でも霊に関わったのなら、そんな風になるのでしょうね」と母の言い方は、よく知っている誰かのことを言っているように聞こえた。
「そうか、智子には、守りの霊が現れたのだな。天使ケルビルかな」と父は驚くようなことを言った。
「どうしてケルビルってわかるの。ケルビルも守ってくれていると、先生方は言っている。私は、一度だけ、天使の夢を見ただけで、ケルビルのことを教えてくれたのは、私の霊だった」
「智子は、霊力が強いかもしれないと思えたので、智子となずけたのだ。智天使ケルビルだな。40歳過ぎても平凡に暮らしているので、心配し過ぎかと思ったけれど、そんな年になっても霊力は温存されていたんだな」と父は、感心したように言った。

        

                            
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